アイコン 日本の巨大地震・原発事故 世界の産業界に衝撃 サプライヤーチェーン

ウォールストリートジャーナルは、東北太平洋沖巨大地震の世界の産業界への影響を次の通り発表している。
巨大地震、大津波、原発事故と未曾有の危機に直面する日本。そんななかで、海外のさまざまな産業・企業は、この島国にどれだけ多くのものを頼ってきたか、あらためて実感することになった。
 需要面では、日本は世界の経済活動の9%近くを占めており、銀行から小売りまで幅広い業種の企業にとって、アジア地域での事業展開の足がかりになっている。
震災は多くの企業の販売活動や業務に打撃を与えた上、しばらくは消費者心理の重しにもなると思われる。
 しかし、一番の想定外は供給面での余波だった。当初の見方よりも、日本がさまざまな先端技術部品の供給を担っており、アジアをはじめとした海外で最終製品を組み立てている企業に影響を及ぼすことにエコノミストらは気が付いた。

例えば、半導体の材料であるシリコンウエハーの60%は日本で生産されているが、震災で世界生産の4分の1が止まっている。クレディ・スイスによると、プリント基板(PCB)製造に使われる「BTレジン」と呼ばれる材料の日本のシェアは90%にも及ぶ。
 
これらの在庫はなんとかもっているようだが、さらに差し迫った状況にある業界もある。自動車メーカー各社は、日立製作所の子会社、日立オートモーティブシステムズの北関東の工場が被災したことで、エアフロー・センサーの調達が難しくなっている。
 
エアフロー・センサーはエンジンに送り込まれる空気の量などを測定する装置で、日立オートモーティブシステムズが世界シェアの60%を握っている。この小さな部品が及ぼした影響は広範で、米ゼネラル・モーターズ(GM)がルイジアナ州の工場で一部生産を停止したほか、仏PSAプジョー・シトロエンも欧州内のほぼすべての工場で生産をスローダウンせざるを得なかった。
 
さまざまな業界の企業が、今回の地震災害によって起こりうるサプライチェーンへの影響を見極めようとしており、代替となる部品やサプライヤーの確保を急いでいる。自社が必要とする部品や材料については把握できることが多いものの、サプライヤーの状況にいたっては不明なことが多い。
 
最終的には、日本の被災地がどれだけ早期に復興できるかが部品・材料不足の深刻度、ひいては世界の企業が受けるダメージの度合いが決まってくる。
 日本の輸出規模は世界第4位。建設機械大手の米キャタピラーなどは中国などに輸出する機械の製造拠点を日本に置いている。
 
被災地の復興本格化にともない、建設機械への需要が増加することも予想される。復興にかかる費用は、一部の見積もりでは2000億ドル(約17兆円)に上る。日本政府が大方の費用を負担するとみられるが、保険会社の支払いも全体の5分の1に達する可能性がある。
 以下に各産業の状況をまとめた。

<半導体>
 コンピューター用半導体メーカーは、さまざまな問題に直面している。被災地域のメーカーが工場の操業を再開し、常時稼働できるようになったとしても(電力不足の問題を考えるとその公算は小さいが)、原材料不足の問題ほか、顧客であるコンピューターメーカーも一部工場の操業停止に追い込まれており、十分な需要が得られない可能性がある。

 未知の要因の中でも最も気懸かりなことの1つが、シリコンウエハーの供給だ。シリコンウエハーとは、半導体製造の基盤となる皿のようなディスクを指す。米調査会社IHSアイサプライの推計によると、日本は世界のウエハー供給の約60%を占めている。うち25%を供給している2工場は震災後に操業を停止している。
 
大半の半導体メーカーは数週間分の在庫を常に確保している。半導体メーカーにどの程度の影響が及ぶかは、ウエハー工場がいつフル稼働にまで復旧できるかや、代替ウエハー工場をどのくらい迅速に本格稼働にまで持ち込めるかにかかっている。
 
数千種に及ぶその他の個々の部品についても、それぞれ最終製品の在庫水準は異なるため、同じことがいえる。
 
ルネサスエレクトロニクスは、震災地域に8工場を有しており、復旧状態はそれぞれ異なる。同社は、自動車や家電製品をはじめとする数千種類の機器の電子系統を制御するマイクロコントローラーという半導体の世界最大手。
 
広範な電子機器用の半導体を販売しているオン・セミコンダクターは、被災地に6工場を有しているが、主に停電に悩まされている。
 
東芝とパートナー企業のサンディスクは、アップルのスマートフォン(高機能携帯電話)「アイフォーン」やタブレット端末「アイパッド」などの人気製品に使用されているフラッシュメモリーチップを製造しているが、それら工場ではおおむね問題を免れている。だが、東芝の別の半導体工場と液晶パネル工場は被害を受けている。
 テキサス・インスツルメンツは、震災の影響について最も詳細な分析を行っている企業の1つだ。同社の2010年売上高の約10%を占める美浦工場が完全な出荷再開に至るのは9月ごろになるとしている。

<電機・電子>
 電子機器メーカーは、震災による生産予測の下方修正はまだ行っていない。だが、特に生産中断に見舞われていない企業でも、震災の影響予測には慎重で、「現在までのところ」という文言を付け加えるのを忘れていない。
 例えば、任天堂では、3次元(3D)対応の携帯型ゲーム端末機「ニンテンドー3D」の27日の米国発売に向けて現在準備を進めている。同社は、震災で怪我を負った社員はおらず、被害を受けた設備もないとし、現在までのところ、将来的な製品出荷を含め業務に著しい影響はないと述べた。

 アイパッド2などその他の人気製品は日本からの部品供給に依存しているが、それら部品は供給不足に陥る公算が大きい。IHSアイサプライの分析によると、アイパッド2には、東芝製フラッシュメモリーチップやAKMセミコンダクター製電子コンパスなど日本から供給している部品が5種類使用されている。ただし、それらの一部は日本以外のメーカーから調達できる可能性があるという。

 アップルは日本の震災による影響についてはコメントを控えた。アップルのオンラインストアには、アイパッド2の納期が4~5週間遅れる旨が表示されている。

 ソニーは、バッテリーや半導体、家庭用オーディオ製品を製造する国内25工場のうちの9工場で、震災による被害や停電などで操業が一時または一部停止したと述べた。そのうち3工場は操業を再開したが、残りの6工場は部品不足により操業を一時停止しており、4月1日をめどに操業再開を目指している。テレビや家庭用ゲーム端末機「プレイステーション3」の海外向けの供給については、国外で製造されているため影響はないとみている。

 震災の影響を直接受けていないその他の工場は、計画(輪番)停電やインフラの問題に直面している。シャープによると、栃木県にあるテレビの組み立て工場は15日に操業を再開したが、操業時間は短縮されている。

<自動車>
 日本の自動車メーカーは少なくとも今年いっぱいは、エネルギーとリソースを国内事業の再建に注ぐ必要があるだろう。これは米国や韓国、欧州のライバル勢にとっては、特に中国とインドを中心とする新興国市場でのシェア拡大のチャンスだ。
 米国では、勢力図は既に変化しており、トヨタ自動車は守勢に立たされている。トヨタは昨年のリコール(回収・無償修理)問題を受けてシェアを落としており、特に現代自動車から激しい攻勢を受けている。さらにフォード・モーターとゼネラル・モーターズ(GM)も勢いを取り戻しつつある。両社合わせた昨年の売上高は100億ドル(約8100億円)以上。
 
日本製の部品、特に電子部品に依存している米国や欧州の自動車メーカーは震災による打撃を受けている。だが、自動車メーカーや供給会社は各国で広く事業を展開しているため、影響は短期に限定されるとみられる。北米で販売されている自動車の大半は北米内で生産されている。これは、欧州や中国、南米などの他の市場についても同様だ。
 
したがって、震災の波及効果は日本国外ではすぐに収束し、大半の自動車メーカーは、日本がもたついている間に平常どおりの業務に迅速に戻るとみられる。
 
震災は、日本の自動車メーカーの最大の強みである輸出にも影響する可能性がある。日本の自動車メーカーの2010年の国内での新車販売台数は490万台だが、海外への出荷台数は900万台に上る。これほど輸出に依存している自動車生産国はほかにない。
 
将来的には、労働コストの安い地域への生産シフトがさらに進み、日本の輸出はさらに厳しいプレッシャーにさらされることになるだろう。
そうなれば、コストの高い国内工場での生産を見直さざるを得なくなる。海外移転の候補先としてはタイが挙げられる。
実際、日産自動車ではタイで小型車を製造し、日本に逆輸入するという依然は考えられなかった手段に打って出ようとしている。

<鉄 鋼>
 日本は2010年、鉄鋼輸出で中国に代わり首位に立った。震災により、日本の鉄鋼生産は減少が見込まれるが、世界の鉄鋼市場で価格や供給のボラティリティが高まる公算は小さいもよう。
 その理由は、米国や欧州、アジア、さらにその他地域の製鉄所が、リーマンショックにより世界的なリセッションの余波を受けており、設備稼働率が100%に達していないからだ。世界鉄鋼協会(WSA)によると、64カ国の主要製鉄所の稼働率は約82%だ。
 
各国の製鉄所は増産体制をとっている。日本の製鉄所に依存しているアジアの造船会社は、供給混乱へのヘッジとして、韓国の製鉄会社ポスコに増産を依頼した。また、中国と台湾の製鉄会社は、日本に依存していた企業に鉄の供給が可能、と表明している。
 業界アナリストは、向こう3カ月間に日本の生産が最大20%(年率ベースで2400万トン)減少する可能性がある、と見込んでいる。製鉄大手の新日鉄とJFEスチールは地震の後、一時的に停止させた高炉を再稼働させたことを明らかにしたが、日本の製鉄所は依然としてエネルギー問題を抱えている。なかでも、リサイクル鉄を溶かす電気炉は大量の電力を使用するが、計画停電による電力不足で打撃を受けている。

 資源大手リオ・ティントは、世界2位の鉄鉱石輸入国の日本が短期的に買い付けを削減しても、鉄鉱石の売上高が減少するとは予想していない。
リオ・ティントは他国の製鉄会社が日本の分を購入する可能性が高いとし、長期的には日本でも復興に向けた需要が見込まれる、とした。

<機 械>
 日本の震災の影響が世界の建機メーカー、およびその買い手に与える影響は軽微とみられている。ただ、長期的には大規模な復興事業が成長につながる可能性があると一部大手は見込んでいる。
 コマツや日立建機、コベルコ建機などの日本の建機各社は世界有数の掘削機メーカーで、世界中に製品を輸出している。
 一部の米ディーラーは、日本からの掘削機の納入が、少なくとも短期的には通常より60日、あるいはそれ以上長くなる可能性がある、との見方を示している。CNHコンストラクションは、この問題がどの程度深刻になるかはまだ明らかでないとした一方、代替供給元の確保を検討している、と表明した。
 
今週の米ラスベガスの展示会で、コマツの関係者は、日本の大半の工場は稼働しており、残りの一部も稼働再開の準備をしている、と述べた。一方、コマツの米子会社幹部は、300社前後のコマツの部品供給業者の10~15%は、少なくとも短期間は生産に障害をもたらす地震関連の問題を抱えている、と語った。さらにこの幹部は、既存の在庫で当分は凌げるものの、主要業者が3-4カ月間生産を停止すれば、大きな打撃が及ぶ可能性がある、と述べた。
 米キャタピラーは日本で掘削機やトラクターを製造し、その多くを中国などアジア諸国に輸出している。日本やその他諸国におけるサプライチェーンにこれまでのところ、大きな混乱は発生していないという。
 キャタピラーの関係者は、日本の復興が建設機器と発電機器への需要を喚起する可能性があり、さらに今回の放射線漏えいにより原発建設が減れば、鉱山設備の売上高が増加するかもしれない、と述べた。
 キャタピラーのダグラス・オバヘルマン最高経営責任者(CEO)はラスベカスの展示会で、震災の復興需要で、日本は長期間の景気低迷を脱する可能性がある、と述べた。
 米機械メーカーのディアは、ディア・ブランドの掘削機の主要部品の供給を日立から受けている。ディアは、一部の建機部品の供給遅延を想定している、と表明した。

<食 品>
 日本の食品が放射性物質に汚染されているとの懸念が輸出を阻んでいる。食品として日本が誇る最大の輸出品である海産物について、リスクはほとんどないとの見解を科学者らは示している。
 日本は輸入食品への依存度が大きく、このため食品の輸出は比較的少ない。日本貿易振興機構によると、2009年の食品輸出額は32億7000万ドルだった。うち45%に相当する14億7000万ドルが海産物、およびその加工品だ。
 多くの国が日本の食品に対し輸入禁止措置を導入している。米食品医薬品局(FDA)は、放射線汚染がみられた地域からの乳製品、および一部の野菜と果物の輸入を禁じた。さらに、こうした地域からの海産物を含むすべての食品と飼料を検査することを明らかにした。
 科学者らによると、放射性物質は海水によって分解されるため、海洋生態系や漁業に及ぼすリスクはきわめて小さい。
 シンガポールは、汚染のリスクがあると判断した4県からの乳製品、野菜と果物、海産物、肉類の輸入を停止した。オーストラリアもこの地域からの食品輸入を停止。韓国とタイは日本からの食品に対する検査を拡大する。
 米国の輸入食品のうち、日本食品が占める割合は4%未満だ。10年の米国の海産物輸入額は147億3000万ドル。このうち日本の海産物は2億4630万ドルだった。
 
米国で人気がある多くの日本食品は、実際には日本国外で生産されている、米国向けの日清食品、およびマルちゃんブランドで知られる東洋水産の即席ラーメンと、キッコーマンのしょう油は、現地の複数の工場で生産されている。
 高価な和牛、神戸牛で知られる神戸は、東京電力福島第1原子力発電所から640キロ以上離れており、放射線汚染地域とはみなされていない。

<小売り>
 小売業界は、すでに先行きが不透明な状況のなかで今回の震災で打撃を受けており、日本での回復には長い道のりが予想される。
 ブランド志向が強い日本の消費者は長い間、アジアでの事業拡大を目指す多くの米企業にとって最初のターゲットになっていた。ティファニーは約40年前に日本に進出。コーチは1988年、GAPは1995年にそれぞれ日本に出店した。
 これらの企業は、日本市場が成熟化するに伴い、中国など成長著しい市場に焦点を当てている。ただ、ポロラルフローレンなど多くのブランドにとって、日本は依然アジアでは最大の市場だ。ゴールドマン・サックスによると、同社の年間総売上高50億ドルのうち8%が日本。
 日本での小売り立地は米国よりも生産性が高い。つまり今回の震災が収益に与える影響は大幅なものになる可能性がある。ティファニー日本法人の売上高は昨年、総売上高の18%を占めたが、1平方フィート当たり売上高は3500ドルで同社平均約2600ドルを大きく上回った。同社は今年第1四半期の1株当たり利益見通しを0.05ドル引き下げ、0.57ドルに下方修正した。
 
米国の小売店は大半が東京周辺に集中しており、甚大な被害が出た被災地での出店はごく一部。総売上高の18%を日本から上げているコーチは、国内に165店を展開。被災地にある店舗の売り上げは日本全体の10%弱を占める。130余の店舗を日本に展開しているGAPは被害が最も大きな地域にあるのは2店舗だけという。
 先進国では、既に家庭用品の販売が低迷しているが、今回の日本の震災でさらに悪影響が及ぶ。プロクター・アンド・ギャンブル、コルゲート・パルモリブ、キンバリークラークなどの消費財メーカーは日本での売上高はわずかだが、日本の消費者は高品質の練り歯磨きやシャンプーなどを買うため、新興国で売られる商品に比べ、利幅が高い。

<化 学>
 日本の石油化学メーカーは今回の震災で全般的に永続的なダメージはほとんど受けていない。JX日鉱日石エネルギー、三菱ケミカルホールディングスなどは状況を見守り、電力不足に伴う計画停電に対応するため、震災の影響を受けた地域での操業を停止している。電力不足の問題は今後数カ月続く可能性がある。しかし、多くのプラントは復旧し始めており、ゆっくりだが生産も回復している。
 例外は、丸善石油化学とコスモ石油で両社は千葉の製油所で火災が起き、操業停止が長引くもよう。
 日本は、生産したエチレンなど基本的な石油化学製品は大半を国内で消費しており、残りはアジア諸国に輸出している。
業界関係者によると、これら石化製品の生産が減少しても、在庫が豊富なため、日本国内と東アジアでは長期的な品不足にはならないという。
 
世界の流通でより重要なのは、電気モーター、コンピューターの回路、自動車塗装などに使われるエポキシ樹脂などハイエンドのプラスチックだ。
ゼネラル・モーターズ(GM)など米国の自動車メーカーは、日本からの部品供給がないため、一部車種の生産を削減した。コンピューターメーカーにも影響が及ぶ可能性がある。
 震災の影響が甚大だった地域では、住宅建設と自動車の買い換えから、自動車部品などに使われるブタジエンなどさまざまな石化製品の需要が強まる見通し。しかし人口の高齢化により、復興需要があったとしても、日本の化学業界はその後、国内市場の縮小に直面する。

<電 力>
 今回の震災で原子力復興の見通しは遠のき、化石燃料が脚光を浴びる可能性がある。震災で被災した福島第1原発が日本の電力量に占める割合は8%だったが、その穴埋めのほとんどは天然ガスになる。
米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)によると、これにより天然ガスの使用量は最大約30%増加する。
 日本はすでに世界最大の液化天然ガス(LNG)輸入国。日本での需要増大見通しから、景気後退のため低迷していたLNG市場では動きが出始めている。
LNGの追加出荷は、日本に向かっており、ロシアはパイプラインによる欧州への天然ガスの出荷を増やす方針を示している。これにより、その分LNGの船舶による対日供給が増える見込み。
 エネルギー関連のコンサルタント会社IHSケンブリッジ・エナジー・リサーチ・アソシエーツによると、日本の危機により、LNG市場は2012年から需給逼迫が始まる見通し。 
ここ数年石油関連で商機を逃していたため、天然ガス事業に注力していたエクソン・モービルやロイヤル・ダッチ・シェルなどの欧米の大手エネルギー企業は、恩恵を受けることになる。
 
これは原子力の犠牲の上に起きる。日本の危機が、原子力の新たな夜明けという希望を打ち砕いた今、欧米や中国などは核計画を慎重に見直しており、投資家は原子力への依存度が高い電力会社への投資を手控えている。
 
エクソンの企業戦略構想担当副社長のビル・コルトン氏は、原子力は今回の危機で今後10年間ほど影響を受ける可能性があるももの、温室効果ガス排出を抑制できるため、長期的には世界のエネルギー・システムで一定の役割を担える、と指摘する。同氏は原子力について「社会がいとも簡単に(原子力を)否定してしまうとは思えない」と話す。
 
日本はディーゼル発電機による火力発電を増やすため、石油消費も増える。しかし、その増加は、経済活動の減少により相殺される。そのため原油価格もあまり上昇しない。しかし、製油業界は、精製機能の4分の1を失った日本からの石油製品需要の高まりで、刺激を受けることになる。

<金 融>
 グローバルな事業基盤を持つ銀行は、日本の不動産資産を担保にした融資で損失を被る可能性がある。また株式や為替相場の乱高下によってトレーディング収益が影響を受けるかもしれない。一方、復興のための巨額の資金需要によって利益を得られる可能性がある。
 
損害保険会社は、総額2000億ドル(約16兆円)以上になる可能性がある住宅やなどの被害に対する保険金の支払いの10~20%程度を負担することになるだろう。
損保の住宅を対象とした地震保険の保険金の支払いについては、損保各社の負担が約70億ドルに限定され、政府の地震再保険特別会計が残りを負担する。
 東京海上ホールディングス、三井住友海上火災保険、損保ジャパンの株価は、地震から10日で2月の直近のピークから20%程度下落したあと若干戻している。
 
商業施設の被害に対しては、このような政府の支援はない。また休業を余儀なくされることによる逸失利益に対する保険金の支払いも読みが難しいとムーディーズ・インベスターズ・サービスはみている。
米国の製造業者はサプライチェーンの一部に支障が出て休業する場合、損失を補てんできる保険に加入している場合が多い。
 保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)と再保険大手スイス・リーは、この地震によって自社が負担する損失をそれぞれ7億ドル、12億ドルと見積もっている。
ロンドンのロイズなども再保険を通じてかなりの負担をすることになるもようだ。
 
日本で事業を展開している米保険会社アメリカンファミリー生命保険(アフラック)、プルデンシャル・ファイナンシャル、メットライフ(アリコジャパンの親会社)の3社は、契約者の死亡により「そこそこ」の保険金支払いに直面する。被災地の契約者が、保険料の支払いの負担が大きいとして解約が増加する可能性がある。

<旅行業界>
 米国の航空会社は日本への旅行者の減少は一時的で、復興事業が本格化するにつれて需要は戻るとみている。しかし日本人の海外旅行は減少するとみられる。
 日本でのプレゼンスが最も大きい米国の航空会社であるデルタ航空は、5月末まで座席数を15~20%削減する計画で、今期の利益は2億5000万~4億ドル減少するとみている。
ユナイテッド・コンチネンタル・ホールディングスとAMR傘下のアメリカン航空は日本行きのフライトを減らしていない。シンガポール、オーストラリア、中国、韓国の航空会社は便数を減らす意向を明らかにしている。
 ホテル業界は、多くの東北地方のホテルは営業を中止している。一方、フォーシーズンズ・ホテルズ・アンド・リゾーツなど都心のホテルは客室稼働率が通常より大幅に低下している。ホテルの幹部らは長期的な影響を推し量るには時期尚早とみている。
 阪神淡路大震災後の動向から今回の地震の日本人の海外旅行の動向を推測すると、今年は10%程度の減少となるだろうとコンサルティング会社ツーリズム・エコノミクスは予想する。
震災後、日本からハワイへの旅行者は前年同期比25%減少しているという。しかし、これも長期的な予想は難しい。

 当ウォールストリートジャーナルの記事では、世界経済への産業別影響が分析されており、そのまま掲載した。
 逆説的に言えば、如何に日本の産業、世界経済を支えてきているのかも窺い知れる。
 

[ 2011年3月28日 ]
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