アイコン (株)さとうベネックの民事再生について

地場大手ゼネコン(株)さとうベネック(大分市金池町3-3-11、代表:大川義廣)は9月7日、片岡剛弁護士(電話03-3511-8550)に一任して、東京地方裁判所へ民事再生法の適用申請をした。

 負債額は約44億円。
 
同社は、昭和13年3月創業の地場大手ゼネコン、平成8年にはピークとなる766億円の売上高を計上して九州では松尾建設(佐賀市)に次ぐ第2位の大手ゼネコンであった。
 しかし、メイン銀行の大分銀行は、バブル時に同社が行ったゴルフ場や大型宅造開発への巨額投資に対して、その処理を長年放ったらかしにさせたままにしていた。
 
<大分銀行が管理>
 日銀や金融庁により、金融機関の貸付先の不良債権に対する締め付けが強力になされた。同社のメイン銀行の大分銀行は、同社の資産を見直した結果、同社は、平成17年6月期に▲約43億円の大幅欠損を露呈させ、債務超過に陥った。
大分銀行は、RCC(整理回収機構)に助けを求め、結果、さとうべネックを会社分割、現業部門を新(株)さとうベネックとして再建させることにした。
 
<NCPが経営>
RCCが仲立ちするなか、新(株)さとうベネックのスポンサーとなったのが、ネクスト・キャピタル・パートナーズ(NCP)という再生支援ファンドであった。
しかし、NCPは、さとうベネックの全株式を所有したものの、大きなゼネコンの再生支援など経験も全くなかった。時は、米サブプライムローン問題が深刻になるなか、国内の不動産業界にも大きく影響、その影響は不動産業界の開発物件を建築していたゼネコンにも及んだ。
平成20年10月には、さとうベネックが工事をしていた不動産開発会社の康和地所が経営破綻、同社は約5億38百万円の焦げ付きを発生させてしまった。
 
NCPは、当時の社長や旧経営陣の一族関係者らを粛清・一掃し、プロパー社員上がりの柴原取締役を社長に抜擢した。
柴原社長は、デベロッパー案件や赤字受注を徹底的に止め、売上高が急減していく中、利益を確保できる企業体質に同社を変貌させてきた。
 
NCPは、さとうベネックが平成22年・23年期と2期連続して黒字計上できたことから、売却する方針を固め、入札をはかったのが、昨年暮れから本年1月であった。
 
本年1月末には、中洲や銀座の飲み屋街などにいくつもビルを所有する不動産会社ダイセンビルディング(株)(以後ダイセン社、福岡市博多区中洲、代表:大川義廣)に売却することを決定した。
2月29日には、さとうベネックの株式が、NCPからダイセン社へ売却された。
 
<ダイセン社の傘下になった「さとうべネック」>
ダイセン社が、NCPからさとうベネックの購入した資金は、ダイセン社が、一時的にSBIから借り入れたものであった。さとうべネックはダイセン社の傘下となった。
 
<事態急変>
ダイセン社は、SBIからの資金を5月1日に弁済した。ところが、ダイセン社は、その弁済資金を、さとうべネックの資金から弁済していた。さとうべネックの運転資金に重大な支障をきたすと察知した幹部社員を含む社員らは6月にかけ次々辞め、同社の信用不安が広がった。7月になると柴原社長のほかプロパーの取締役4名全員が辞め異常事態となった。(辞任したのは、柴原社長のほか、徳森(土木担当)、竹内(建築担当)、矢野の各取締役。)こうした結果、さとうべネックは、営業や現場において、その実力が大幅に毀損している可能性も否定できなくなった。
 
大川代表としては、仲介会社の意見を取り入れたLBO方式(買収者が金を使わず買収する買収手法)による買収のつもりであったという。(M&Aの仲介会社はどこだろうか・・・)
 
こうした動きの中、これまで支援を続けてきたメイン銀行の大分銀行が貸し剥がしを実行(5月末)、更に、さとうべネックは運転資金に支障をきたすことになってしまった。
 
大川代表としては、LBO方式による買収であるため、さとうべネックとして、メイン銀行の大分銀行に、逆に借入れを申し込むつもりであった。さとうべネックは腐れても100億円企業であり、利益も出しており、借入金も殆どなく、10数億円の融資を受けることはできると踏んでいたと思われる。(平成23年6月期の決算による借入月商倍率は0.5ヶ月分)
ところが、これまでさとうべネックの面倒を長年見てきたメイン銀行の大分銀行は、こうした一連の動きは寝耳に水、さとうべネックから融資依頼を受けたものの、融資するどころか、3~4億円あまりの融資金を逆に引き揚げたのであった。
 そうしたことからか、関東で高額の振り出し要因が不明朗な手形も散見されるようになっていた。
 
<LBO>
LBOならば、当然、買収する前に、買収資金の相談と融資約束を金融機関なり、ファンドから取得しておくべきもの。買収と同時にその借入をさとうべネックで行うものである。ところが、さとうべネックに担保提供できる資産など全くない。(分割して再生された会社であったため、売掛金等を担保に借入れを行うくらいしか資金調達力はない)
こうした会社の場合、長期安定資金をスポンサーが借り入れ、さとうベネックの業務利益から生じる配当金やNCPように会社を売却することによって弁済するのが本来のLBOである。(NCPはさとうべネックを買収するため、機関投資家から金を集めて買収した。そのため、機関投資家に投資元金と利回り金を支払うため、いつか売却するのが鉄則。)
 
ダイセン社としても自己資金もしくは、金融機関から長期安定資金の融資を取り付け、買収を実行すべきであった。
大川代表は、買収資金の借入先のSBIは金利が高く返済したという、しかし、当初から長期ではなく超短期借入となっていた。その理由としてはダイセン社がSBIに担保提供していた中州の不動産には根抵当権の仮登記(極度額13億円)が設定されていた(2月29日設定、5月1日抹消)。
14億円前後の買収資金である。少なくともSBIへの弁済時には、長期安定資金の借り換え先を事前に決定しておくのが当然のことであった。
 
ただ、これまでに記載したとおりさとうべネックには担保物件はなく、ダイセン社が担保提供して、さとうべネックが借り入れることは可能かもしれないが、銀行は通常、なかなか料飲食ビルを担保に取らないのが現実、借入先は金利が高いSBIなどのノンバンクやファンドとなってしまう。
(さとうベネックの本年4月の固定資産は2億26百万円しかなく、不動産に至っては0。純資産を見ても6億88百万円しかない。これを見ても不安定なゼネコン業界に位置する同社に対する金融機関の融資は限られたものとなってくる。)」
 
<1回目の不渡り>
5月1日までにさとうべネックから10億円以上が社外へ貸付金などで流出した。財務内容からしても資金が逼迫するのは当然である。
 
こうしたことから、さとうベネックは8月20日になると1回目の不渡りを発生させ、工事現場も協力業者が不安に陥りストップ、同社は剣が峰に立たされた。
 
同社は、8月末の支払日を前に30日、大分市で債権者説明会を開催、その中で、20日の手形決済の未決済分と月末の現金決済分+519万円の手形決済分の合計約7億7千万円、対して、決済資金は月末入金予定分も含めて約1億5千万円しかないと説明、6億26百万円が不足すると表明した。更に、手形は(2回目の銀行取引停止処分を免れるため)決済し、残りを債権者の皆様に按分して支払うとした。
会社側は会社を再建させたいと債権者に申し入れをし、9月10日から現場を再開させたいと債権者に協力を求めた。しかし、その際、協力してくれなかったら、9月20日にはデフォルトに陥るとも表明していた。
 
協力業者の不安は募るばかり、さとうベネックは資金調達に奔走していたものの9月20日に迫る手形決済資金の目途も付いておらず、同社の動向が注目されていた。
 
なお、8月30日の債権者説明会の進行を務めた渡辺靖志弁護士(説明会のためにか急遽依頼された弁護士)は、大川社長の・鱗に触れたのか、既に解任されている。
 
<業績推移>
 (株)さとうベネックの業績推移    /千円
売上高
経常利益
当期利益
平成20年6月期
23,719,628
231,203
26,811
平成21年6月期
12,862,103
132,210
-593,848
平成22年6月期
11,984,851
484,883
406,552
平成23年6月期
10,349,593
210,125
125,555
平成24年6月期(集会説明)
9,500,000
150,000
 
<4月の試算表段階の貸借対照表>
H24年4月の貸借対照表(試算表)  決算期は6月  /百万円
流動資産
3,998
流動負債
3,382
 現預金
1,898
 支払手形
1,258
 受取手形
140
 工事未払金
923
 完成工事未収入金
632
 短期借入金
0
 未成工事支出金
268
 未成工事受入金
987
 販売用不動産
136
 預かり金
96
 短期貸付金
770
 完成工事補償金
41
 その他
154
 その他
77
固定資産
226
固定負債
154
 不動産
0
 長期借入金
142
 他有形固定資産
26
 その他
12
 投資有価証券
58
負債合計
3,536
 長期保証金
69
 
 
 破産更生債権
231
純資産
688
 貸倒引当金
-177
 資本金
100
 その他
19
 利益剰余金他
588
資産合計
4,224
負債+純資産計
4,224
4月30日現在の試算表段階の貸借対照表である。既に短期貸付金の科目で代表に対して7億70百万円がさとうベネックから流出している。5月1日には、更にさとうべネックの資金からSBIへ弁済されている。6月の試算表(決算期であるため決算書)では、財務バランスにあまり変化はないと思われるが、現預金が大幅に減り、貸付金などが、その分大幅に増加しているものと思われる。
 
さとうベネック 仕事中の物件(判明分のみ)
案件名
案件所在
備考
ZYCC
福岡市中央区
ビル
橋本幼稚園
福岡市西区橋本
幼稚園舎
緒方小学校
大分県豊後高田市
旭産業JV、539,800千円   
荒瀬ダム
熊本県八代市坂本町葉木荒瀬
前田・清水JV、87億円  工期2011.3~2014.3
名島橋外橋梁補修工事
福岡市東区
九州地整発注、206,800千円 8月3日受注
湯山橋耐震補強工事
大分県
九州地整発注、120,000千円 3月7日受注
 
 
 
6月終了案件
東九州道番匠川下部工工事
大分県佐伯市蒲江
九州地整発注、222,300千円
東九州道森崎トンネル南新設工事
大分県佐伯市蒲江
九州地整発注、242,500千円 九州地整表彰
債権者説明会での説明では、8月30日現在、仕掛り工事現場は22件、うち官庁工事が17件と報告されている。
 
<民事再生下>
今後、下請業者の連鎖倒産が心配される。配当予想は、毀損させていない限り、30%前後見込まれるが、毀損する場合は、大きく落ちる。
 
 説明会で表明していた1億5千万円を債権者に按分配分するとしたことも一時凌ぎであったのかどうかは別にして、反故にしてしまった。
 
民事再生の場合、今後の取引は現金決済となる。留意点としては、〆支払に基づく支払であり、下請業者では、その間工事売掛金が新たに発生することになる。
 
再生作業では、これまでの債権は全部棚上げされ、約10ヶ月後に配当額も含む再建計画案の承認債権者集会が開催される。債権者により再建案が了承されれば、通常10年間の割賦弁済となり、その1年後から配当が開始される。再生途中、事業継続ができなくなれば、裁判所の職権で破産に至る。
ただ、新たなスポンサーが見つかれば、その限りではない。
 
再建には、人・物(ここでは協力業者)・金が必要であるが、同社は、対策もなしに勢いこうした状況に陥っており、「人」では、多くの幹部社員が既に辞めており、今後受注が順調に取れていくのか不安視され、工事現場も心配される。
「金」については、今は完成工事の入金時期でもなく、親会社からの入金がなければ、今後新たに発生していく現場の支払に不安は隠しきれない(従業員はまだ100名前後在籍しており、それなりのコストが月々かかる)
「物」=同社の破綻で大きな不良債権が発生した協力業者が、今後とも付き合ってくれるかは、まず、社長の資金調達能力、次に幹部役員たちの人望、その次の次に監督なり現場所長の人望であろう。今後どうするかは、協力業者それぞれが判断することである。
 
<再生の可能性>
社長が説明会で表明したように経営者及び現業担当役員以外の交代である。経営はゼネコン業界に精通した金融業界にも顔の効く人物に経営を委ねるしかない。当然、建設業界の会社などにスポンサーになってもらえれば、その信用がさとうベネックの信用回復にも繋がり、再生は時間を待たず可能かもしれない。
しかし、今後も付いて廻るのは資金繰り、どっかから入金すれば問題ないかと思われるが。また、辞めて行った多くの幹部社員たちが戻ってくれば、大きな再建の力にもなると思われる。
こうしたことから、同社は民事再生申請に至っても剣が峰の状態が続く。
 
<いつのまにか/気になる盲点>
 ネクスト・キャピタル・パートナーズの2月2日のリリース「株式会社さとうベネックの株式譲渡に関するお知らせ」で、売却先はダイセンビルディング株式会社と明記している。しかし、渡辺弁護士らは、ダイセンホールディングスがさとうベネックの株主と30日の説明会で説明している。
 
 このことは、ダイセンビルディング(株)(資本金4億9,995万円)は、中洲7棟(含福岡9棟)や銀座(3棟)に計12棟の不動産を所有するほか、駐車場を福岡に6ヶ所保有する財産持ち。一方のダイセンホールディングス(株)がペーパーカンパニーならば何もない。この違いは大きい。いつのまにかすり替わっていた。
 
 確かに、当初買収した資金の出所であるSBIからの借入金に対する担保提供の不動産謄本には、債務者としてダイセンビルディングとダイセンホールディングスの2社が連名で登記されていた。
 
また、さとうべネックからダイセン側への移動した資金については、さとうベネックとダイセンホールディングスとで金銭消費貸借の契約を交わしているという。
関係者同士の取引であり、どうにでも契約書は作成できるが、法的には金銭消費貸借契約は生きたものとなる。
しかし、こうした巨額の金銭消費貸借では、社会通念上、それなりの担保が必要となる。さとうべネックは担保を取っているのだろうか?
 
 万が一、金銭消費貸借契約により、いつまでも入金しないことになれば、さとうベネックは資金繰りにも窮したまま民事再生させることになる。また、債権者にとっても入ってくる入ってこないでは、民事再生における配当が全く異なるものとなる(ダイセンホールディングスに返済能力があるのかどうかで変わってくるが)。
 
 今後のことは、監督員に任せるしかないが、これまでの筆者の経験から監督員の弁護士は殆ど充てにならないのも事実。
さとうべネックが、本気で再生を目指すならば、協力業者の協力が必須であり、これからの運転資金の確保と協力業者に対して財務状態の透明化・可視化が求められる。
 
さとうベネックは、東京地方裁判所へ民事再生を申請しており、九州の債権者にとって、大変な対応を迫られることになった。
 

(株)さとうベネックの会社概要
社 名
株式会社さとうベネック(SATOBENEC CO.,LTD.)
本社
大分市金池町3丁目3番11号 金池MGビル2F
旧本社地
大分市松原町3-4-16第2さくらビル(5月21日金池へ移転)
資本金
1億円
従業員数
171名(平成24年5月現在)
建設業許可
建設業許可 国土交通大臣許可(特-23)第22059号
一級建築士事務所登録
東京都知事登録 53406号
大分県知事登録 12P-13246号
営業種目ほか
1
土木建築の請負
2
土木建築工事の企画、調査、測量、設計、監理及びコンサルティング
3
不動産の売買、賃貸、斡旋、管理
4
土木建築資材の製造・販売
5
労働者派遣事業
6
上記記号に付帯する一切の業務
売上高構成
建築70%、土木25%、その他5%
現在の役員
代表取締役
大川 義廣 (就任日24.3.19)
取締役
大川 絵里 (就任日24.2.29)
取締役
中山 深雪 (就任日24.3.30)
取締役
岩田  守 (就任日24.5.11)
取締役
大杉 勝貞 (就任日24.5.11)
取締役
西野  修 (就任日24.5.11)
 
退任・辞任役員(購入以降)
辞任日
役職
氏名+備考
24.2.29
取締役
立石寿雄 (NCP代表取締役社長)
24.2.29
取締役
本坊吉隆 (NCP代表取締役副社長)
24.2.29
取締役
鈴木茂樹 (NCPプリンパル)
24.2.29
取締役
松本凡夫 (NCP)
24.2.29
取締役
那須浩史 (NCPプリンパル)
24.2.29
取締役会長
山田啓一 (NCP、清水建設OB)
24.2.29
取締役
竹内一博 (プロパー)
↑ NCP社関係者 株売却で辞任(竹内一博氏除く)
24.3.19
取締役
白鳥聡哉 (24.2.29就任)
24.3.19
取締役
大曲達夫 (24.2.29就任)
7月辞任
代表取締役
柴原利典 (21.2.20就任)(21.6.30代表就任)
7月辞任
取締役
徳森 宏 (21.6.19就任、建築担当)
7月辞任
取締役
竹内一博 (24.3.19再就任、土木担当)
7月辞任
取締役
矢野寛治 (24.5.11就任)
・柴原利典氏が辞任するまで2人代表制を取っていた。柴原利典氏H21年6月より社長を務めていた。
・柴原利典氏は、熊大卒後の昭和53年佐藤組入社、平成21年2月取締役、同年6月代表就任
・九州地整、昨年の土木工事実績の評価において82点を獲得、№1に輝く。竹内氏の力か。
・7月旧さとうべネック時代からのプロパー取締役が代表も含み全員辞任
 
[ 2012年9月 8日 ]
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