アイコン 新素材革命 鋼鉄強度の5倍・軽さ5倍 植物繊維「セルロースナノファイバー」

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木材や果物などの繊維を原料とし、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍以上の強度を有する次世代素材「セルロースナノファイバー(CNF)」の実用化に向けて研究が進んでいる。

環境に優しく石油に依存しない植物由来の素材は世界中で注目を集めており、日本は産官学が連合し、早期の技術確立と産業創造に取り組む方針だ。

木材チップやみかん、リンゴなどの果実の皮や絞りかす、さらには稲わらや竹など自然の素材から数ナノ(1ナノは10億分の1)レベルに微細化した繊維を抽出し、樹脂やゴムなどと混ぜ合わせて作る。

CNFは、強度に加え、熱に強く縮みにくく、さらに高い吸着性や透明性を併せ持つのが特徴。

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そのため鉄やプラスチックの代替品として家電製品やフィルム、高機能材料など幅広い産業用途に使うことが可能で、化粧品や食品などへの応用も研究されている。

 

研究開発は、世界的に本格化したのが2000年代と初期段階にあり、国内では経済産業省が中心となり、環境省や農林水産省など他省庁、大学・研究機関、企業などと連携して開発が進んでいる。

昨年には約160社の企業や大学・研究機関などで構成するナノセルロースフォーラムが結成された。

民間企業では現在、製紙メーカーや化学会社が蓄積したノウハウを生かす形で研究中。さらに自動車や家電などの関連メーカーも次世代素材の効用に期待している。

 

素材革命

「素材の革命を起こそうというのがわれわれの考えだ。将来は自動車のボディーなどの外装にも使用可能だ」と言うのは、環境省地球環境局の土居健太郎地球温暖化対策課長。自動車などを軽量化することで燃費が改善するのに加え、植物由来でリサイクルも簡易なため、二酸化炭素削減、地球温暖化への貢献が期待できるとしている。土居氏は「40年、50年先を見据えて取り組む」と述べた。

 

経産省の紙業服飾品課、渡邉政嘉課長は「30年にCNF関連材料で1兆円規模の国内市場を創造する」と意気込む。

その上で「半分以上は自動車用材料に使われるとみており、最大6000億円を見込んでいるが、海外を含めれば10倍規模も不可能ではない」との見通しを示した。

 

ナノセルフォーラムの会長を務める京都大学生存圏研究所の矢野浩之教授は、「日本は国際競争に勝つ必要がある。一過性のブームで終わらせてはいけない」と断言する。

その上で「森林をCNFの原料と考えると、日本が資源大国になる可能性も秘めている。低炭素、持続型社会を目指す時代の方向性とも合っている。今後、社会の重要な素材、鉄やアルミと同じような立ち位置を占めるようになっていくべきものだ」と述べた。

 

アベノミクスのエンジン

安倍晋三政権も普及を後押ししており、CNFの国際標準化に向けた研究開発を進めつつ、利用を推進することが日本再興戦略にも明記されている。渡邉課長はナショナルプロジェクトとして、地域振興を図る「ローカル・アベノミクスのエンジンの一つだ」と指摘した。

既にCNFは日本企業が世界に先駆けて実用化している。三菱鉛筆は8日、第一工業製薬と共同でCNFをインクの増粘剤として採用したゲルインクボールペンを9月から欧米で本格展開すると発表した。CNF素材が使われた製品の販売は世界初。三菱鉛筆経営企画室の神崎由依子氏は「北米でのテスト販売が好評だった」とし「速書きでもかすれず、これまでにない滑らかな書き心地を実現できた」とコメントした。

 

国内製紙最大手の王子ホールディングスは、日光ケミカルズ(本社:東京都中央区)と共同で、CNFを化粧品原料とし新しい用途や機能の開発を行うと8月に発表。また、化学メーカーの星光PMCは国の支援を受け、CNFの生産設備を14年末に完成させており、各メーカーなどにサンプルの提供を開始している。

そのほか、NTT、日立製作所、三菱化学、ロームは京都大学と連携しCNFを活用したユビキタス情報端末の各部品の研究を実施。日本製紙はCNFの脱臭効果を活用し紙おむつの販売を目指す。

さらに、ソフトクリーム総合メーカーの日世(本社:大阪府茨木市)は、CNFを添加した溶けにくいソフトを試作している。日世の開発グループ長、橋本浩明氏は「現在は安全性やコスト面を京都大学と共同で研究している段階」と語った。

 

課題は価格

本命とされる自動車関連では、フォーラムメンバーにトヨタ車体や三菱自動車、小糸製作所、デンソー、ブリヂストン、住友ゴム工業が名を連ねる。

CNFを活用したボディー製造や樹脂パーツ、そして、耐久性の高いタイヤの開発などを模索している。

 

京大の矢野教授は、「CNFはいろいろな用途があるが、炭素繊維やアラミド繊維と比べてコストが一番のハードルとなる」と指摘する。そして「技術的には一定のめどは付いており、今後はいかに低コストで最終部材を作り出すか、これが技術開発の肝となる」との見方を示した。

 

CNFの製造コストは1キログラム当たり約7000円だが、30年までに300~400円を目指す。経産省の渡邉課長は「普及に伴い価格を下げることは十分可能だ」と話す。

樹脂複合材に用いられている代表的な繊維の炭素繊維は1キロ当たり3000円、アラミド繊維は同5000円となっており、CNFの価格競争力を高める方針。

矢野教授は、炭素繊維やアラミド繊維材料などとの最大の違いは「原料であるCNFの集合体であるパルプが1キロ50円、圧倒的な価格競争力のポテンシャルがある」点だと説明している。

 

経産省の野村秀徳紙業服飾品課長補佐は、「この分野はオールジャパンで取り組まないと世界競争には勝てない」と危機感を示す。ただ「フォーラムができ役所が連携して応援するいいムードの中で、民間の開発が急ピッチで進んでいる」と語った。

 

SMBC日興証券の岡芹弘幸シニア・アナリストは「最大の問題はやはりコスト。高止まりしている価格を将来1キロ当たり500円程度にどのように減額できるのか、ロードマップが提示されているわけでもなく簡単に納得できない」と述べた。

また、特許の取り扱いや標準化などCNFには未知数の部分が多過ぎ、開発に取り組んでいる製紙大手などの株価にはCNFがファクターとして織り込まれているとは言えないとした。

ただ、「日本の未来の産業の切り札になる可能性がある素材の一つであることは事実だ」とコメントした。

 以上、ブルームバーグより

 

[ 2015年9月29日 ]
 

 

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