アイコン クルーズ船誘致 開発ありきの実態 35人の奄美集落に5千人寄港港湾計画

 

 

今年3月、クルーズ船誘致を取り上げた奄美大島南部の瀬戸内町議会の一般質問の要約記録。4月某日、詳細の不明瞭な点の多い計画を懸念する現職議員が、町企画課と議員たちとのやり取りを記録し、町民に配布した。

「数千人の外国人観光客を運ぶ、全長230メートルの巨大クルーズ船が、こんな静かな集落に来るの? 想像できない。ここには小さな郵便局と商店がひとつあるだけ。いったい何をしに来るのか」

明治維新に日本を導いた維新三傑の一人、「西郷どん」こと西郷隆盛。彼が安政の大獄の余波から身を隠すために遠征したのが、南西諸島の奄美大島だ。島西部の集落・西古見(にしこみ)には、西郷隆盛が上陸の一歩を踏んだ地との伝記もある。

西古見から望む東シナ海は、鮮やかなエメラルドグリーンと群青に輝く。
海に浮かぶ3つの小島は、三連立神(さんれんたちがみ)と呼ばれ、地域住民からは大波や台風から集落を守る神として敬われてきた。住民によると「昔はカツオ漁でにぎわった」という西古見港だが、2017年統計で人口約35人の過疎地となっている。

この静かな集落に、乗客乗員あわせて約7500人を運ぶ世界最大級(排水量22万トン)大型クルーズ船を寄港させる、港湾建設計画が出ている。

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計画を主導するのは国土交通省。
一部報道によると、クルーズ船は中国発ルートで乗客のほとんどが中国人、週2~3回来航するという。
西古見の属する鹿児島県大島郡瀬戸内町は4~5月、住民向けに「町政懇談会」と題したクルーズ船誘致について説明会を開催している。

公開された説明会の映像によると、町側は人口減対策としてクルーズ船誘致を解説しているが、国交省の発表資料の転載が多く、「地元視点」とはいいがたいもの。
「町役場はシミュレーションさえ提示していない。メリットやデメリットも不明。町民はクルーズ誘致の是非さえも判断できないではないか」。参加者は計画に疑問を呈した。

ことの発端は、2017年8月、国交省の調査「島嶼部での大型クルーズ船寄港地開発」について、奄美群島をモデルケースとした調査と評価の結果を発表したことにある。
島内の候補地9ヶ所が掲げられるなか、瀬戸内町企画課は、候補の一つである西古見に大型クルーズ船を呼び込もうと手をあげた。

瀬戸内町民は、町役場に一抹の不信感を抱いている。
瀬戸内町は2018年冬、鹿児島県にクルーズ船誘致のための要望書を、町民へ説明不十分のまま提出したためだ。地元紙南海日日新聞によると、「黙ったまま進めないでほしい」との町民の反発を受け、この要望書は4月半ばに取り下げられた。

すでに大型クルーズ船が寄港する沖縄・宮古島の状況を聞いている参加住民からは不安を隠せない。
説明会では、「宮古では万引や医療費を払わないなど犯罪が増えている。小売店も日没後は閉めている」などの声が上がった。

国が加速させる訪日クルーズ旅行
現在、政府は訪日クルーズ旅客を2020年に500万人の目標の実現を加速させている。
2017年の訪日クルーズ旅客数は前年比27.2%増の253.3万人、クルーズ船の寄港回数は前年比37.1%増の2,765回となり、いずれも過去最高を記録した。

2017年8月には港湾法を改正し、国交大臣が指定する港湾に、旅客ターミナルビル等に投資を行うクルーズ船社に港の優先利用を認めた。

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国交省は2月までに「官民連携クルーズ拠点」となる港湾を全国で7港選定、鹿児島県港は2018年2月に選定されたため、地図にない(国土交通省2017年発表資料)

クルーズ観光振興に向けた国の動きは早い。
国交省は2月までに「官民連携クルーズ拠点」となる港湾を全国で7港選定した。
カッコ内は、それぞれ港湾管理する自治体。横浜港(横浜市)、清水港(静岡県)、佐世保港(佐世保市)、八代港(熊本県)、鹿児島港(鹿児島市)、本部港(沖縄県)、平良港(宮古島市)。

民間企業は外資と日本企業の名が上がり、米カーニバル・コーポレーション、米ロイヤルカリビアン・クルーズ、ゲンティン香港、日本の郵船クルーズの4社。

日本政府は、希少生物と自然豊かな奄美沖縄群島を、世界遺産登録に推薦していた。
しかし5月4日、ユネスコ諮問組織は「環境持続の維持が危ぶまれる」ことなどを理由に、登録を見送った。
奄美大島のある住民は「逆行するような大型クルーズ船誘致が一因ではないか」とつぶやいた。

町の企画課はクルーズ船誘致計画「白紙にした」
瀬戸内町議会でも、クルーズ船誘致計画は議題に挙がっていた。現職議員は3月議会でのクルーズ船誘致に関する一般質問の要約を、4月に各町民家庭に配布した。
議員と町役場とのやり取りが記録されており、議員側からは周遊コースの説明、港湾建設費、滞在客の過ごし方、外国人の大量入域に関する諸問題など、質問が相次いだ。
企画課長は、「現時点ではこれらの情報は入っていない。国と県との交渉もまだ」と語ったという。

この記録には、大型外国資本の誘致に繋がりかねないとして、奄美大島の土地買収を懸念する声もあがっている。
「いま北海道や沖縄など、日本の各地で外国人による土地買収が問題になっている。瀬戸内町の過疎地を買うことなど、たやすいことだろう」「自分たちの故郷が外国人に浸食されていく、生きていく場所が失われる。こんなことは悪夢であってほしい」

記録によると、鎌田・瀬戸内町長は人口減と若者離れ、雇用減の対策として「クルーズ船誘致は起爆剤となりうると信じている」と述べている。

奄美地方2紙によると5月10日、西古見へのクルーズ船寄港地誘致計画による生活への影響を懸念した住民の有志は、計画撤回を求める申し入れ書を同町企画課に提出した。

有志の一団は6月に始まる定例議会前に意見を申し入れた。
奄美新聞によると、代表で宿泊業を営む男性は「クルーズ船誘致計画自体見直しを町議会で話してほしい。島の観光客は順調に増えている」「これまで通り穏やかな暮らしと観光業が営めるように願う」と要望を述べた。
同紙によると、対応した企画課は誘致計画を白紙にすることを強調したという。

瀬戸内町役場に勤める事務職員は「うわさが独り歩きしている。西古見のクルーズ船誘致計画では、どの国のナニ人が来て、どこのクルーズ船企業だとは明かされていない。うわさは住民の不安をさらにあおっている。誘致計画は、国が検討している。クルーズ船企業側の考えもある。瀬戸内町だけで決められることではない」と語った。

白紙化を企画課は言及したが、港湾建設計画自体は立ち消えになったのか。
管内の港湾について九州地方整備局に問い合わせたところ「国が担当している件で、われわれでは回答できない」とした。

国交省のクルーズ振興室は「突然の出来事で町民に不安があるのは理解している。瀬戸内町の町政懇談会で、疑問は解消されていくはず」と述べ、計画の進捗など明言は避けた。
以上、報道参照

結果、計画はお上により着々と進んでいるようだ。

 

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[ 2018年5月17日 ]

 

 

 

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