アイコン IS壊滅後のイラク  宗教・民族・クルド人・残される大量の武器

 

現在、イラクの要衝ティクリートを、2~3万人ともされるイラク軍・イラン軍混成部隊が奪還を目指し攻撃を仕掛けている。その総指揮官はイランのスレイマニ司令官、当然、イラン軍の革命防衛隊が行動をともにしている。

<アメリカ軍は蚊帳の外>
今回の奪回作戦に米軍は、作戦を事前公表したとしてイラク軍がカンカンに怒り、蚊帳の外に置かれている。今回の作戦で空爆はイラン軍が担当している。

<宗教との関係>
ティクリートは、旧フセイン大統領の出身地、現在ISが支配しているが、スンニ派が地盤としている地である。その地をIS退治として、シーア派のイラク軍とイラン軍が共同して奪回すれば、シーア派の陣地が拡大することにもなる。

<モスル奪回作戦>
イラク第2の都市モスルは、衝撃的にISに占領され、逃げ帰ったイラク軍の守備隊は、膨大な軍備品を放棄していた。そのためIS側に武器が渡り、ISによる戦線を拡大させてしまった。
イラク軍による当モスル奪還作戦もティクリートの奪還後に用意されている。米軍が参加するかは今のところ不明。
米軍は、モスル等の奪回作戦のためイラク兵士を訓練する要員を派遣しているが、ティクリートの奪回しだいでは、米軍が再び蚊帳の外に置かれることも想定される。

宗教と民族>
 イラク政府や軍はアラブ人のシーア派、イランはペルシャ人のシーア派、モスルを占拠しているのはアラブ人のスンニ派、民族・宗教が入り乱れている。
特にモスル攻撃では、北部に陣取るクルド民族(スンニ派)が展開しており、当然IS攻撃に参加することになる。南部と北部からの挟み打ち作戦だ。
クルド人たちは、これまでISに攻撃され劣勢であったが、欧米により武器が大量供与され、今では地盤を挽回している。
これに各地に勢力も持つ部族も関係し、複雑なものとなっている。

 

イラクの宗教構成
宗教
人口/万人
構成比
シーア派
2,040
62%
スンニ派
1,100
33%
キリスト教諸派
130
4%
その他
30
1%
 
3,300
 

 

イラクの民族構成
民族
人口/万人
構成比
アラブ人
2,600
79%
クルド人
530
16%
アッシリア人
100
3%
トルコマン人
70
2%
合計
3,300
 
 
<トルコのクルド人>
 2千5百万人ともされるクルド人たちは、トルコからシリア、イクラ北部・イランに居を構え、トルコでは、これまでクルド労働者党(PKK、クルディスタン労働者党ともいう)が独立を謳い、トルコ軍に対してテロ攻撃を繰り返してきた。
 現在ISに対峙しているのはクルド人のPKKであり、女性兵士も多い。(ISが支配したクルド人陣地から撤退したのは、PKKの女性兵士からの攻撃だともされている。スンニ派原理主義には女性に殺された場合、昇天しないとされているという)
 
クルド人の世界分布(推計)
居住国
人口/万人
トルコ
1,200
イラク
600
イラン
500
シリア
200
ドイツ
50
アフガニスタン
20
アゼルバイジャン
15
フランス
12
スウェーデン
10
イスラエル
10
レバノン
8
オランダ
7
合計25百~3千万人
2,632
・欧州は移民や避難民受け入れにより居住。旧殖民との関係もある。

<西側のアラブ諸国>
西側のアラブ諸国のほとんどはスンニ派であり、シーア派を嫌っている。シリア政権に対しては現在もイランが支援している。
アラビア半島南端のイエメンでは、先日シーア派の武装勢力によりクーデターが起きたが、早速イランとの関係を強化している。
西側のアラブ産油国(サウジやクウェート・カタール、UAE、ヨルダンなど)は有力部族長や王様が支配している。豊富な原油資金により、国民に対して手厚い保護政策を取っており、これといった問題は生じていない。
同じスンニ派でもISのような原理主義は一切受け付けず、これまで弾圧してきた。ところが、ISの脅威が拡がり、自らの利権の自国に及ぼししかねないことから、米国の有志軍に参加し、ISに対して空爆を実施している。

<IS崩壊後のトルコとの関係>
 トルコにしてみれば、ISが崩壊した暁には、クルド人たちに対し大量の最新武器が渡っており、勢力を増した場合、大きな脅威になる。当然、クルド人たちもIS攻撃で貢献したとして、油田都市キルクークなどイラクでの地盤を拡大することは必至。その勢いでトルコでも支配地を拡大する可能性も高い。そして、独立に向け動き出すものと見られる。
 こうした問題の根本は、植民地支配した欧州諸国が好き勝手に支配地を線引き、その後、こうした植民地が独立したことにより、クルド人のような民族が分断孤立するようになってしまったことによる。

<IS崩壊後のイラク>
IS崩壊後のイラクは、ISを構成していたスンニ派に対し大弾圧が始まる。もともとイラクのシーア派は、イラン寄りに居住し、スンニ派は中西部に居住している。
陣地を拡大したクルド人たちも当然独立や自治権拡大をはかる。
しかし、イラクに1100万人いるスンニ派(クルド人のスンニ派を外せば600万人?)も、これまでどおりのシーア派政権では、ISのような原理主義派がいつ台頭してくるかわからない状況は続く。ましてやISが崩壊・分裂し、これまでの支配地拡大の面ではなく、各地で分散したテロ攻撃が活発化する恐れすらある。

<見えないアメリカの戦略>
アメリカは、フセイン政権を攻撃により退治した。しかし、イランと関係の近いシーア派が最大勢力であり、シーア派政権を誕生させるしかなかった。そして、シーア派政権に対して武器弾薬を与え、アメリカ軍は逃げ帰った。
そのため、スンニ派(フセインもスンニ派だった)の不満が蓄積され、ISの台頭に乗じ、今日のイラクに至った。
今回、アメリカはイラクのIS退治にイランと共同戦線をはった。
しかし、一方で、欧米や西側産油国主導でシリア政権も粉砕を目指し、シリア反政府組織を作り上げたものの、イランが支援し陥落しない状態が続いている。
そのシリア反政府組織に紛れ込んだアルカイダの一派ISは、武器弾薬を手中に納め、シリア反政府組織やシリア政府軍を攻撃し、シリアで勢力拡大、イラクのスンニ派を糾合し、イラクでも支配地を急拡大させた。
しかし、その残虐性・惨忍性により、アルカイダからも破門されたもののその勢いは止まらないものとなっていた。IS台頭で混乱するイラクに対し、米国は空爆を開始、有志国にもはかり、IS陣地に対して大量の爆撃が日々行われている。
ただ、その空爆効果は限定的であり、アメリカ軍はイラク軍を訓練し、IS陣地の奪還に向け、動き出していた。
ところが、その計画を米軍が公表したことから、ティクリート奪還作戦では、イラク軍がアメリカを蚊帳の外に置き、イラン軍とともに奪還作戦を行使している。
  
<IS壊滅>
ISが壊滅した場合、西側諸国にとってイラクの脅威になるのは、イランであり、またクルド人である。クルド人が一番多く住むトルコはNATO加盟国、クルド人たちに渡った最新兵器はトルコへ向けられるとともに、イラク北部の自治権拡大、もしくはトルコ東部も含む独立国家樹立に動く危険性が高まる。
また、イランは、今回直接軍隊を送り込んでおり、ISを壊滅させたとしてもただでは引き下がらず、駐留し続けることになる。
それを一番嫌がっているが、イスラエルのネタニヤフであり、オバマ大統領の意に反し、米議会でイランが最大の脅威だと力説した。
 イスラエルもまたオバマ・アメリカがIS壊滅後イラクをどうするのか、どうしたいのか、さっぱりわからないところに、不安をよぎらしている。

<旧植民地利権>
シリアに対して直接攻撃をしたかったのはフランスだった。旧植民地支配しており、その利権を再確立したかったが、自国だけではどうにもできず、ロシアの反対にあい、米国が直接攻撃に出なかったことから、泣き寝入ってしまった。
第2次世界大戦後も、欧米諸国は、アラブ諸国で石油が大量に取れだし、その利権を植民地また、統治することで手中に収めていた。
その後、独立の世界的な気運により、欧米諸国はアラブ諸国の独立を認めたが、植民地や直接統治していたときの線引きが、まさにクルド人が独立できない悲劇をもたらした。

<フセイン時代と異なる石油利権>
アメリカが、イラクの大量破壊兵器の存在をでっち上げ、2003年イラクのフセイン退治に動いたのは、原油利権に対するものだった。しかし、退治したもののその後も混乱が続き、その間にロシアなど世界各地で原油の生産量が拡大、その重要性がなくなっている。
そして、現在、米国内でシェールオイルが生産され、自国の消費を充足させるに至り、イラク産原油に対する商品価値は大きく変化してきている。
シェールオイルの世界埋蔵量3.5兆バーレル、カナダのオイルサンド1.8兆バーレル、世界原油埋蔵量1.7兆バーレルともされ、オイルは世界中で埋蔵量だらけになっている。

<アラブの春>
独裁国家に春が自然に来ることなどない。欧米諸国はアラブに金と情報戦略の下に春を来させた。しかし、現実は、その春は終わることのない春一番が吹き荒れっぱなしになっている。その春の嵐の中で一般国民が一番の犠牲者になっている。権力者たちの戯言はいつまでも続く。

[ 2015年3月 7日 ]
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