アイコン 九州乳業は再建できるのか

九州乳業は、大分県と大分県酪農協・国・生産者団体のほか全酪連(ゼンラク牛乳)、西酪協同(ニシラク牛乳)に大牟田牛乳(オーム乳業)、青柳酪農(青柳牛乳)、下関酪農(シモラク牛乳)の出資で1954年に設立された。

しかし同社の最近は、牛乳消費の落ち込みや原材料価格の高騰、2000年に稼働した新工場の建設費負担などにより経営が悪化。2009年6月2日、伊東竹彦社長(07年4月社長就任、それまで代表取締役専務)は、県に社長派遣を要請して危機的状況であることが明らかになった。大分県はOBの江川氏を社長に就任させた。グループ負債総額150億円以上を抱え、再建のため金融機関の債務免除を含む債務整理のため整理回収機構に調整を依頼、 8月27日事実上経営の行き詰まりを表面化させた。県はOBの江川氏を社長に派遣した。 

25年間にわたり社長に君臨し続けた江藤源哉社長(2007年逝去)は、全国農協乳業協会会長やサッカーJ1大分トリニータの運営会社、大分フットボールクラブの初代社長、2000年から会長を務め、大分経済界のドンにまで上り詰めた。(故)江藤氏は大分県酪連から1982年九州乳業の社長に就任、それまで県OBにより経営され続け赤字体質となっていた同社を3年間で立直し、その後江藤体制を築き上げた。
 
江藤体制の九州乳業では、1987年に竹田市久住町に「みどり高原牧場=ガンジーファーム」、89年には商業施設の「ガンジーハウス」、95年には「久住高原ビール村」開設、2000年には本社移転となる「みどりの王国」(本社工場移転+観光牧場)を開発投資してきた。
故江藤社長は、同社の筆頭株主である大分県酪農業協同組合の組合長も務め、九州内の各県酪が一緒になって九州生乳販連(九州生乳販売酪農業協同組合連合会)を発足させるなど、酪農業界に貢献もしてきていた。
 
ところが、2000年頃からデフレ不況、乳製品も販売不振。その後も牛乳や乳製品離れは回復せず、また本社移転に際し、本社だけならともかく、ファームランドの「みどりの王国」としたことから投資が拡大、その後の償却負担が経営を圧迫した。
 
実質赤字を偽装隠蔽するため、1998年3月期~08年3月期の11年間、売上高や利益を、売掛金過大算出、架空在庫計上するなどして粉飾していたことが、江川体制になって設けられた調査委員会の調査で明らかにされている。出資してチェック機能を果たすべき役割の大分県や官庁の監査体制の杜撰さが表面化した(税金が投入されている以上、大分県の担当者は責任問題あり)ものでもある。長きに渡って粉飾決算が表面化しなかったのは、オーナー企業でもないのにオーナー気取りで25年間も同一社長が務めることが出来る環境にあった。その環境下には、税金で賄われている大分県の無責任体質や権威の塊である農協の体質に起因したものであった。
09年3月期の売上高は180億90百万円、前期比▲13.3%減。原料高・経費高も加わり経常損失金は▲19億73百万円の赤字。09年3月期決算では過年度分の修正もなされ、最終損失金は▲166億42百万円の赤字、債務超過額は129億80百万円となった。
 
 
<旧経営陣への責任追及>
0962日経営が危機状態にあることを明らかにした伊東()社長であるが、同年625日就任した江川社長は、以外と早く旧経営陣への経営責任及び損害金の請求訴訟を起こしている。

09826日、江藤源哉元社長(故人)をはじめ、元取締役や元会計監査人の計12人に対し、約5億34百万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を大分地裁に起こした。過去11年間で粉飾決算による会計操作があったとし、本来なら必要のない法人税を納付して会社に損害を与えたとしている。本体だけで約145億円の金融債務を抱え、整理回収機構(RCC)に調整依頼、取引金融機関に債権の放棄を求めている。金融機関の債権放棄に向けた合意を得るためにも経営悪化に至った責任を明確にする必要があると判断。原告代理人などによると、対象となった元取締役らは、外部専門家でつくる第三者調査委員会の調査結果に基づいて絞り込んだ。江藤元社長は2007年に死去しているため、相続財産管理人を対象としたとしている。

※ 監査機関の怠慢が今回の問題原因の一つである。税金を投入している大分県もその一
つ、県の監査担当者の責任は、出資金のカットもなされており重大である。
     伊東前社長も、社長就任前は代表取締役専務であり、当然被告人となっているはずである。
 
<再建計画>
再建計画では、メーンバンクの農林中金など金融機関19行などが金融債権15691百万円のうち9923百万円を債務免除。これにより09年3月末の債務超過額12980百万円が、3057百万円まで圧縮された。資本政策でも資本金1563百万円の(1)筆頭株主の県酪農業協同組合は責任が重く出資分を100%減資した後で2億円を出資(2)県など他の株主は90%減資(3)新たに地場企業5社、フンドーキン醤油、大分瓦斯、フォレストホールディングス(薬品のアステム)、サン・ダイコー(動物用薬品)、三和酒類から計85百万円の出資も受けて再建をはかる。(当一連の処理において債務超過は解消されているはず)

また、天下りの社長が殆どの関連会社18社のうち「みどり食品」「みどり南乳舎」など3社程度を残し、それ以外は事業譲渡や解散・清算を進めるとしている。 

 

九州乳業 新体制
役員名
備考
代表取締役社長

江川 清一

県OB派遣
専務取締役

赤峰 国治

経営コンサルタント、オフィスあかみね
取締役

松澤 貴

農林中央金庫派遣
取締役

江口 健

元第一事業本部長(常務)
取締役

中西 義春

元開発事業本部長(常務)
常勤監査役

川野 哲憲

大分銀行OB
非常勤取締役

畑尾 常夫

社団法人 大分県畜産協会理事
非常勤取締役

安藤 康宣

日本酪農政治連盟(酪政連)副委員長
非常勤取締役

加藤 正

フンドーキン醤油
非常勤監査役

神田 勇作

元から監査役
非常勤監査役

上田 耕作

大分瓦斯取締役
非常勤監査役

岩男 光芳

サン・ダイコー(動物用薬品会社取締役)
 
先日、九州乳業子会社4社のみどりフーズ・九州物流センター・エーエム・みどり商事が、その清算の一環で整理された。
また、「みどり高原開発」「ガンジーハウス」は、当初体験型観光牧場として人気があったが、久住高原を訪れる観光客の減少が進んでおり、業績も落ち込み、大分市で食肉販売やホテル事業を営む「まるひで」に譲渡された。
 
<直らない隠蔽体質>
同社は、就任早々の江川社長が、旧経営陣の責任問題をいち早く法廷の場へ持ち込み、凄腕と期待感を持たせたが、隠蔽体質の極致にある大分県の役人出身、0910月発覚したパッキン事件では、品質劣化の恐れがあるとして牛乳を09912日・172度にわたってこっそり自主回収した問題でも、自ら記者会見を開こうともせず隠蔽、しかし指摘されて記者会見。 
しかし、その記者会見でも江川社長は原因について「予想されなかったパッキンの変形」を挙げ問題の本質を偽装した。記者から「殺菌後の牛乳を貯蔵タンクに移す際、バルブパッキンが内規通り6ヶ月交換を10ヶ月以上していなかったのでは」の指摘に対し、はじめて江川社長が認める始末であったという。生産体制がマニュアルどおりに機能していない実態が判明、新たな経営陣の隠蔽体質そのものも浮き彫りとなった。
営業も工場も原料も経営も分からない県庁を退職したお役人や農協幹部を経営者に置く体質そのものが、熾烈な乳製品市場で戦う九州乳業の将来を案ずるものとなっている。
1度あることは必ず2度ある。
江川社長は、社員給与の40%をカットすると報道されていたが、故江藤社長が粉飾決算を隠蔽し続けるため社員の給与をベラボウに高くしていたのであろうか。でなければ、江川社長自らが県の退職者(5000万円程度の退職金も受領済、それまでの年収も2000万円程度)であり、自ら率先して500万円の年報酬ならともかく、社員の減員も行い、極端な給与カットを命ずる江川社長は異常体質の持ち主かもしれない。
 
再建させることは至って簡単である。しかし、問題なのはその後である。そのため社員の叡智と行動力が経営に必要になる。
 
2010年4月8日には、工場内でライン洗浄用薬剤の硝酸などをタンクに入れ保管している工場2階の「CIP室」で、硝酸漏れが見つかった。約100リットルの硝酸が床一面に漏れ、隣接する部屋や通路にも染み出、消防車が出動する事件が生じている。
 
[ 2010年4月28日 ]
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