アイコン 剣が峰のさとうベネック 2012.8.31ver

8月20日に続き、月末も支障をきたしそうな同社の説明会、これまでの決算書及び試算表を見てみた。
(前段説明)2006年当時360億円の売上高を計上していた九州№2のゼネコン旧さとうベネックの内実は、開発失敗や評価損などの問題を抱え、実質破綻状態にあった。
こうした旧さとうベネックに対して、メイン銀行の大分銀行やRCCの指導の下、会社が分割され、現業部門を承継したのが、現在の同社であった。

そうした(新)さとうベネックの受皿として、2006年暮れスポンサー(=購入)となったのが、再生支援ファンドのネクスト・キャピタル・パートナーズ(NCP)であった。
同ファンドは、ゼネコンに致命的な打撃を与えたリーマン・ショックを挟み、同社の再建に奔走、その結果の決算が前々期・前期と生じ、前期の決算に基づき、本年2月29日第3者のダイセンビルディングに売却された。
しかし、何がどうなったのか、8月には同社は決済に支障をきたす事態に陥った。

()さとうベネック 平成23年6月期の貸借対照表   /百万円
流動資産
3,876
流動負債
3,062
 現預金
2,026
 買掛金
2,044
 売掛金
1,331
 短期借入金
74
 未成工事支出金
128
 未成工事受入金
530
 その他
390
 その他
412
 
 
固定負債
396
固定資産
217
 長期借入金
388
 
 
純資産
635
 
 
 資本金
100
総資産
4,093
負債+純資産
4,093
 
前期決算10ヶ月後の試算表による財務内容(2012年2月末:NCPからダイセンビィルディング購入)
<さとうベネックの決算書>
H24年4月の(試算表)貸借対照表  決算期は6月  /百万円
流動資産
3,998
流動負債
3,382
 現預金
1,898
 支払手形
1,258
 受取手形
140
 工事未払金
923
 完成工事未収入金
632
 短期借入金
0
 未成工事支出金
268
 未成工事受入金
987
 販売用不動産
136
 預かり金
96
 短期貸付金
770
 完成工事補償金
41
 その他
154
 その他
77
固定資産
226
固定負債
154
 不動産
0
 長期借入金
142
 他有形固定資産
26
 その他
12
 投資有価証券
58
負債合計
3,536
 長期保証金
69
 
 
 破産更生債権
231
純資産
688
 貸倒引当金
-177
 資本金
100
 その他
19
 利益剰余金他
588
資産合計
4,224
負債+純資産計
4,224
 
<2012年4月の貸借対照表では支障なしだが・・・>
4月末の試算表では、流動比率(広義の当座比率)が117.8%あり、支払等に問題なく、良好。純資産率も再建会社ながら16.2%確保されている。ただ、会社分割の再建会社であるため負債比率は513.9%と高くなっている。これは、同社が今でも売上高100億円企業のゼネコンであるためであ(中小企業庁による建設業者の平成22年における負債率の平均指標は177.08%となっている。理想は100%)。
 営業も資金も回転しており、4月当時は何も問題なかった。
 
<動 き>
ダイセンビルディングは、2月29日さとうベネックをネクスト・キャピタル・パートナーズ(NCP)から購入するにあたり、その資金を短期でSBIキャピタルソリューションから調達していた。その弁済が5月1日(=SBI担保抹消日)行われている。
(そのため、同社の試算表数値も大きく動いたが、当然、4月の試算表には反映されていない。)
()さとうベネックの業績推移    /千円
売上高
経常利益
当期利益
平成20年6月期
23,719,628
231,203
26,811
平成21年6月期
12,862,103
132,210
-593,848
平成22年6月期
11,984,851
484,883
406,552
平成23年6月期
10,349,593
210,125
125,555
 
<平成24年6月期 4月まで(10ヶ月間)の累積業績>
民間工事や官庁工事は年度末の売上計上が多く、今期は、売上高にしろ、経常利益にしろ、前年や前々年に比べ、厳しい状況であったことが伺える。それでも利益は計上される営業の動きとなっている。
H24年6月期/4月までの累計業績  試算表より 百万円
売上高
7,774
 
原価
6,996
 
営業総利益(粗利)
778
 
営業総利益率
 
10.01%
販管費
643
 
販管費率
 
8.27%
営業利益
135
 
営業利益率
 
1.74%
経常利益
94
 
経常利益率
 
1.21%
当期利益
53
 
 
<問い合わせ多発>
6月から7月にかけ、幹部社員が辞めたなどと多くの問い合わせがあるようになり、イロイロな噂も流れるようになった。そうした中、7月19日、ダイセンビルディングは、福岡市中央区今泉(天神隣接)の物件を、昭和機器工業に売却している。さとうベネックの資金繰りのためと思われる。(当物件には、SBI-Cとともに、西日本シティ銀行が11億82百万円設定していた。SBI-Cの担保設定は5月1日に借入金が返済され抹消されている。西日本シティの分は、中洲の物件との共同担保であり、当物件の担保は売却により当然抹消されているが、中洲の物件には設定されたままとなっている)
 
 同社は、7月20日の手形決済分や31日の現金支払分は支払った。しかし、8月20日の決済の一部に支障をきたしてしまった。そうした中、月末を控え30日緊急債権者説明会が開催された。31日には東京でも開催される。
 
<私的整理のガイドラインによる再建>
私的整理のガイドラインについては、債務者の(株)さとうベネックと主要な債権者が、さとうベネックが提示する返済計画を含む再建計画を了承し、合意に至りはじめて進められるものである。
 
LBO
レバレッジド・バイアウト(Leveraged Buyout)とは、企業買収の手法の一種。
LBOとは、主としてプライベートエクイティファンドなどによる、買収先の資産及びキャッシュフローを担保に買収資金を調達し、買収した企業の資産(資産やキャッシュフロー)の売却や事業の改善などを買収後に行うことによってキャッシュフローを増加させることにより、負債を返済していくM&A(企業買収)手法。
 
少ない自己資本で、相対的に大きな資本の企業を買収できることから、梃の原理になぞらえて「レバレッジド・バイアウト」と呼ばれる。また、こうしたM&Aに対する金融を「レバレッジド・ファイナンス」と呼ぶ。
プライベート・エクイティ・ファンド(Private Equity Fund)とは、複数の機関投資家や個人投資家から集めた資金を事業会社や金融機関に投資し、同時にその企業の経営に深く関与して「企業価値を高めた後に売却」することで高いIRR(内部収益率)を獲得することを目的とした投資ファンドのこと
 
LBOでの買収は、事前に金融機関と買収資金の借入契約をしておくことが前提となるる。当然、買収日には、その借入金により買収費用を支払うことになる。
 
今回のケースでは、ダイセンビルディングによるさとうベネックの買収である。そのため、ダイセンビルディングは、SBI-Cから資金調達して購入金の決済をしている。しかも、SBI-Cへの返済に当っても、ダイセンビルディングの資金により行われるべきものであった。
しかし、LBOであったら、名義上一時的にダイセンビルディングにしていたことになり、さとうベネックの資金を使用しようとも問題はない。但し、新オーナーは、さとうベネックが借入を起こすなどして、同社の資金繰りには万全をきたす必要がある。
 
LBOでは、SBI-Cからの借入金返済には、新オーナーが、前もって(絶対条件)さとうベネックが金融機関から借り換え資金を借り入れさせる必要があった。
後先になれば、保守的な金融機関は、「相談もなく、勝手な行動をした」として、面倒を見ないことになる。長年の一連の動きからしても大分銀行は、同社から早く撤退したいと思うのが自然だろう。
 
さとうベネックの借入月商倍率は、平成23年6月期では0.6ヶ月分にも満たなかった。ただ、不動産を担保とする借入余力は、経営が行き詰っていた旧さとうベネックから分割された現業部門の(新)さとうベネックであるため、その余力はなかった。
通常、金融機関との借入交渉では、さとうベネックには恒常的な現預金や売掛債権が何十億円もあり、そうした売掛債権などを担保として、借り入れることができる・・・。
しかし、残念ながら、貸すか貸さないかは、大分銀行はじめ金融機関が決めるものである・・・。
 
今回、大分銀行が貸し剥がしもやったとされている。本来なら、これまでの同社のメイン銀行である大分銀行が、(新生)さとうベネック(本社:大分市)の面倒を見続けるべきものであったろうが、逆に融資金を返済させ、さとうベネックの資金繰りをますます悪化させたとも言われている。
 
(新オーナーは、SBI-Cに返済する前に、ダイセンビルディングなり、さとうベネックが、確固たる返済資金の調達(=借り換え)先を、確保しておく必要があった。手続きを一つ間違ったため、大きく計画や思惑が狂い、こうした事態に至ってしまったと思われて仕方がない。)
 
現在のさとうベネックは、8月末の支払も一部しか履行できない旨、債権者に説明しており、今後の動きが・・に注目されるものとなっている。
 
<M&Aの買い手の心構え>(中小企業用)
以前、筆者は、M&Aに買い手として対応したことが何回かある。その時、売り手はともかく、仲介するM&A会社の攻勢はすごいものであった。買うように仕向ける心理作戦、オーナーを褒めちぎり、これでもかこれでもかと行ってくる。番頭として、案件先の将来性に付き約10億円での購入をためらったが、最終的にはオーナーが決めること。見事数年後、購入した会社は整理する破目に至った。
購入を検討する場合は、相手社だけを見、前から、後ろから、横から、斜めから見る必要があり、最終結論を出す場合は、更に、上からも下からも見る必要がある(人・物・金・時間軸)。
M&A仲介会社などは、企業の売買を成功させて何簿のもん、相手社の良い情報しか説明しないし、買いを躊躇すれば、すかさず、他に買い手が山ほどいるという嘘八百を並べて購入を煽る。そうした心理戦に、オーナーは得てして弱い。
 
ファンドから購入する場合も全く同じである。彼らが、案件先に投資している資金は、機関投資家や個人から集めた金利の付くお金である。そのため、法律内で手段を選ばず、超合理的に会社を再建させていく、いかに早く、良いタイミングで、より高値で売却するかを至上命題としている。(他には、会社資産を切り売りしてぼろ儲けするファンドもある)
 
再生支援ファンドとか聞こえは良いが、所詮、企業(=商品)を安く買って、高く売るのが商売。金儲けの手段でしかない。そこには、決して人が見えてこない。
 
[ 2012年8月31日 ]
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