アイコン 倒産危機VW ご法度のDefeat Device NOx排ガス規制は米が一番煩い

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VWの不正排ガスNOx=窒素酸化物(nitrogen oxides) は窒素の酸化物の総称。
一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素)(N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素(N2O4)、五酸化二窒素(N2O5)など。化学式の NOx から「ノックス」ともいう。

VWが指摘を受けたのは、「Defeat Device(ディフィートデバイス=無効化機能)」と呼ばれる違法プログラムを使用していたこと。

ディフィートデバイスは、排出ガス規制に適合させるためのシステムを、試験の時だけ作動させ、ユーザーが実際に使う時には停止や作動を制限するプログラムで、欧米では反社会的行為として排出ガス規制の中で禁止が明文化されている。
なぜ違法プログラムを使ったのか? 
その背景には“世界で最も厳しいアメリカの排ガス規制”とトヨタとの燃費争いにあるとされる。

現在の米・日・欧の排ガス規制の厳しさは同程度などと言われるが、実はNOxの規制値では、アメリカは日本よりも2倍も厳しい。
さらに、アメリカでは使用開始後も長期に渡って排ガス性能が規制値をクリアしていることをモニターする義務まで課せられている。

ディーゼル技術者にとっては、アメリカの一部地域で売られている低品質の軽油も悩みの種だという。
というのは軽油に含まれる硫黄が「NOx吸蔵触媒」に使われる白金(プラチナ)を被毒させてしまい、触媒機能を劣化させてしまう。
さらにセタン価も低い。セタン価とはガソリンのオクタン価と同等の意味を持ち、セタン価が低いと、ディーゼル特有のノッキングが発生しやすく、排ガス性能に影響する。
ちなみに日本では2007年頃から世界でもっともクリーンな軽油が提供されるようになっている。

つまり、アメリカでクリーン・ディーゼルを市販するには、かなり高度なエンジン制御システムが必要となる。
過去にも、アメリカの厳しい排出ガス規制がクリアできないことから、多くのメーカーがディフィートデバイスを使っていたという歴史がある。
しかし、現在は少なくとも今回のVWの疑惑を除けば、使われていない。
しかも、アメリカではメルセデスやBMWもクリーン・ディーゼルを販売していて、問題を解決している。

厳しい排ガス規制を制するためには、NOx発生をいかに低減できるかがカギになる。その要の技術が排ガスを浄化する触媒だが、現在VWとアウディは「NOx吸蔵触媒」(=NOxトラップ)と「尿素SCR」(アドブルー)という二種類の触媒方法を用いている。

今回、違反の対象となっているのは全米で市販されたVWとアウディのディーゼル車・約48万2千台で、2009年から2015年まで市販されたゴルフ、ジェッタ、ビートルと、最新のパサートの4車種、および2009年から2015年式のアウディA3である。

2009年モデルのジェッタなどはNOx吸蔵触媒を使っているが、USパサートは当初から尿素SCRを使っている。また、新型ゴルフやアウディA3は尿素SCRを使っている。つまり、触媒方式に関わらず不正プログラムが使われていたことになる。

一方、2008年前後に同じVWグループの一員であるアウディが開発した3リッター・V型6気筒のディーゼルは、今回、問題視されていない。
また、2016年型のTSIディーゼルエンジン車も問題ないという。

排ガスの試験法は、室内に設置されたローラーの上を走って、テールパイプから排出されるガスを測定分析し、その値が規制値に合致するかどうかを見る。
今回、問題視されているディフィートデバイスは室内試験の時は、動かさないハンドル操作を検知して触媒機能が働きテスト合格、実際のユーザーの手に渡ったときにはハンドル操作を検知し、触媒機能が機能しないようにしていた。
検査には直接関係ないが販売に有効に働く動力性能や低燃費を表記(表記も試験を受けるが別機関)どおりに機能させるため、こうした作為を行っていたという。

ここからは推測だが、ディフィートデバイスを使って実際の路上走行ではNOxなど有害な排ガスに目をつぶることで、燃費や走りを向上できる。
そして、試験の時だけEGR(排ガス還元装置)や尿素SCRの量を減らす。
さらには、燃料を濃くすることで燃焼温度が下がるので、NOxの排出量を下げることが可能となる。
その一方で発生するススは増えるが、空にしておいたDPF(ススのフィルター)に貯めれば外に出ない。

なぜ、VWが法令に違反したのか? VWはアメリカ市場でトヨタやホンダに対してライバル心を燃やしている。
クリーン・ディーゼルの燃費性能でハイブリッドを打ち負かし、是が非でもディーゼルの先駆者になりたかった。
しかし、厳しい排ガスをクリアする正規のプログラムでは燃費で不利になる事が、違反の原因を作ったかもしれない。

もちろんVWのトップが法令違反を認めるとは思えないが、強烈なトップダウンの結果主義が現場を混乱させたのだろう。

巨額の制裁金よりも、ブランドの失墜が心配だ!
VWが法令に違反しており、アメリカでの対象車は48万2千台、最大で1台当たり3万7500ドルの制裁金が求められるので最大で約180億ドル(2兆円超)となるという。
制裁金の額以上にVWとアウディのブランドに傷がつくことが心配される。
それよりもVWの時価総額は7兆円超しかなく、1100万台の制裁金や裁判などもろもろの費用に耐えうるか、経営上も心配される。制裁金や費用しだいでは、同社の解体・再編成や倒産の危機に瀕しているともいえる。

VWは不正対象の1100万台をリコールするとしているが、米国政府に支払う制裁金相当の65億ユーロ(約8700億円)を7~9月の決算で引き当てると発表した。その額は前期(通年)決算利益の半分にも及ぶ。

この問題はディーゼルの主要マーケットであり、環境問題にうるさい欧州で深刻に受け止められている。
ドイツ環境省は、監督官庁である連邦自動車局(KBA)が、ドイツや欧州で似たような不正があったかどうか、自動車メーカー各社に信頼できる情報の提供を求めている。

欧州委員会は、詳細な情報を収集するため米国EPAやカリフォルニア州大気資源局(CARB)とも連携して調査している。
再発防止のために欧州委員会は、排出ガス試験と現実の使用環境での乖離を無くすために、実際の走行時の排ガス量も測る新試験法を2016年1月から開始する予定だった。

もはやアメリカだけの問題ではなく、ディーゼル車全体の信頼問題にも影響が出てきた。既にBMWのディーゼル車も走行テストで基準値の10倍のNOxを排出したというニュースも報じられている。
以上、
サンケイ新聞記事に加筆再構成。

[ 2015年9月26日 ]
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