倒産危機VW トヨタ越え至上命題 NOxは光化学スモッグ・酸性雨の原因物質
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大気汚染は1970年代以降、先進国の工業発展と自動車の普及により急激に進行、現在の中国のような状態が続いた。
その結果、光化学スモッグによる健康被害のほか、酸性雨により多くの森林が枯れ破壊、湖沼の生物死滅、大理石が溶け遺跡破壊など大きな社会問題となり、環境規制が先進国を中心に設けられ、現在に至っている。
<現在も欧州の大気汚染は進行中>
しかし、欧州では現在でも大気汚染は進んでおり、特に内陸部に位置するパリの汚染は深刻なもので、現パリ市長は2020年までにディーゼル車を廃止するとまで、ディーゼル車を目の敵にしているほどだ。
<ドイツ政府 環境より自国産業防衛>
欧州連合(EU)の環境規制に対してドイツ政府の立場は、メルケル首相が述べているように「環境保護を目指す私たちの行動が、自らの産業基盤(自動車産業を指す)を壊さないように保証する必要がある」とし、EUが進める環境規制強化に、これまでことごとく反対してきた。
こうしてドイツ政府は、EU自動車環境基準に違法となる不正プログラムの車両搭載禁止条項までカットさせていた。CDUコール政権時の元運輸大臣がドイツ自動車工業会の現トップで、CDUのメルケル首相がコール政権当時環境大臣として初入閣したときの運輸大臣だった。
<欧州勢EVへの過渡期に既存技術で対応>
技術立国のドイツは、環境車の開発を積極的に進めてこなかった。当然、次世代車の開発として、テスラモーターズのようなEV専門メーカーの一つもない。既存技術の逆転の発想により、ダウンサイジングエンジンを開発したものの、既得権益の延長戦で世界の№1になろうとしたところに、今回の問題が潜んでいるようだ。
トヨタとホンダは、日産や三菱はEVに走ったものの、EV普及には、充電時間の改善、充電施設の整備には時間がかかるとしてHVを進化させてきた。
しかし、欧州では過去、ディーゼル車は燃費が良く、トルク性能も良いことから補助金を与え普及させた経緯もあり、VWはディーゼル車の特性を生かしつつ、ターボチャージャー(加給器)を取り付け、エンジン自体を小型化することで、さらに燃費の改善を図る動きに出た。
<掛け声だけの厳しい欧州基準>
ドイツ政府や自動車業界主導と思われるEUの自動車の環境規制にも問題がある。
CO2規制に重点が置かれ、NOxについての規制がない。(ただし、各国で規制している)
ディーゼルエンジンに加給器を取り付け、圧縮比を高め燃焼させれば高熱を発し、CO2の排出量は大きく下がる。また、その分燃費効率も良いということに比例する。エンジンがあまりにも高温になることからインタークーラーを取り付け冷やすほどだ。
(マツダは圧縮比を下げ、インタークーラーも付け、NOxの排出を抑えるため高温燃焼を防ぐ独自技術)
<軽油燃焼に付きまとう大気汚染物質NOx>
だが、ディーゼル車の場合、燃料に問題があった。燃料には軽油(欧州ではガソリン価格の10~20%安い)を使用することから、エンジン内の燃焼温度が高温になるほどNOxやPMを発生させる。それを取り除く必要があり、排ガス管内に機器を設置して尿素水を散布、分解させたり、触媒により除去、PM(微粒子・スス) はフィルターで除去する必要があった。当然、尿素水散布や触媒機能させれば、自動車のエネルギーを消費、燃費や動力性能に影響する。それでも販売していれば、今回の問題は発生しなかったが、VWは日本のHV勢に対して、圧倒的な優位性を確保したかったと思われる。
<ダウンサイジングエンジン車はHV潰しの戦略車>
ダウンサイジングディーゼル車は、プリウスやインサイトなど普及型HVとのパワーの違いである。HVも進化しており、ダウンサイジングディーゼル車と燃費効率はどっこいどっこい、VWは、ならば、出力(=馬力)とディーゼル車持ち前のトルク性能でHVを圧倒することだった。(新型プリウスの燃費は40キロ/ℓとされている)
特にアメリカは大自動車市場であり、トヨタやホンダに販売台数で大幅に後れを取っており、HVを圧倒したダウンサイジングパワーでアメリカに乗り込んだ。しかし、そのためには、パワーロスのNOx除去装置の機能を運転中には切ってしまうという違法な暴挙に出ていたことから、今回の問題に至った。
アメリカでの両社の販売台数/台
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|
VW-G
|
TOYOTA-G
|
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2010年
|
383,779
|
21.5%
|
1,763,595
|
-0.4%
|
2011年
|
470,986
|
22.7%
|
1,644,661
|
-6.7%
|
2012年
|
612,486
|
30.0%
|
2,082,504
|
26.6%
|
2013年
|
608,088
|
-0.7%
|
2,236,042
|
7.4%
|
2014年
|
595,988
|
-2.0%
|
2,373,771
|
6.2%
|
2015年(8月累計)
|
403,013
|
2.6%
|
1,673,002
|
2.8%
|
<VW 時代にそぐわないセダンが主力>
くしくも、アメリカでは、シェールオイル革命が生じ、燃料価格は安くなるばかり、景気もよく、燃料食いのピックアップトラックや大型SUVがバカ売れ、セダンが売れなくなり、また、環境車のHVの売上台数も大幅に減じた。
こうしてVWが目論んだアメリカ市場での計画は頓挫したのだった。
<VW全精力を中国に集中>トヨタ越えの早道
だが、VWはアメリカで伸ばす必要もないほど中国市場で急拡大させた。また、尖閣問題で日本勢が中国市場で自滅したことにより、その拡大を加速させ、当時№1だったGMさえも圧倒した。当然、VW=ドイツ自動車工業会とメルケル首相は緊密な関係であり、メルケル首相もたびたび習近平国家主席を訪問してバックアップ体制をとった。
昨年の2014年には、販売台数世界一のトヨタを数万台の差で越えることができなかったが、完全にターゲット圏内に入れた。
/万台
|
VW-G計
|
中国
|
|
|
台数
|
シェア
|
|
2007年
|
619
|
91
|
14.7%
|
2008年
|
623
|
102
|
16.4%
|
2009年
|
629
|
140
|
22.3%
|
2010年
|
714
|
192
|
26.9%
|
2011年
|
816
|
225
|
27.6%
|
2012年
|
928
|
317
|
34.2%
|
2013年
|
973
|
327
|
33.6%
|
2014年
|
1,014
|
368
|
36.3%
|
2015上半期
|
504
|
|
|
<ツキのないVW>
ところが、肝心要の中国大市場に異変が生じた。今年に入り、中国経済の動きが急激に悪化、中国で一番売れているブランドであるVWは、月を重ねるごとに販売台数が伸びず、マイナス基調に突入、上記の状況でも、今年はトヨタを追い越す最大のチャンスであり、
アメリカ市場に再度注力することを宣言、アメリカに工場建設まで打ち出した。
確かにアメリカではVWグループの高級車ブランドのアウディは大幅に販売台数を伸ばしているが、絶対数は限られたものだった。また、上記の燃料安に大衆向けのVWブランドは昨年マイナスとなっていた。ただ、アメリカ経済は拡大しており、伸びる余地はあった。
そうしたアメリカ市場に注力している最中、今回の問題が発生した。
やはりVWはアメリカではツキがないのかもしれない。
おまけに、中国では、VWの修理部門が不正に修理し高額請求していたことが、中国国営放送の人気番組が隠しカメラによる不正現場の映像を織り込みながら放映、落ち込みにも拍車がかかっていた。
2015 VW 中国乗用車販売推移
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|
独系
|
前年比
|
VWG推
|
中国計
|
前年比
|
S+M
|
1月
|
44.62
|
12.3%
|
41.68
|
203.80
|
10.4%
|
30.2%
|
2月
|
30.42
|
21.8%
|
28.41
|
139.67
|
6.4%
|
30.7%
|
3月
|
33.34
|
-3.4%
|
31.14
|
187.04
|
9.4%
|
30.1%
|
4月
|
31.09
|
-9.6%
|
29.04
|
166.88
|
3.7%
|
31.5%
|
5月
|
30.76
|
-9.9%
|
28.73
|
160.93
|
1.2%
|
31.5%
|
6月
|
28.56
|
-11.5%
|
26.68
|
151.14
|
-3.4%
|
31.9%
|
7月
|
25.57
|
-20.6%
|
23.88
|
150.30
|
-7.1%
|
33.7%
|
8月
|
30.62
|
-3.5%
|
28.60
|
141.85
|
-3.4%
|
35.2%
|
累計
|
253.97
|
-5.4%
|
237.21
|
1278.21
|
2.6%
|
31.8%
|
・VWは年1回しか公表しないため、2014年の独系に占めるVWの販売割合の93.4%で推定。S+MはSUV+MPV、独系は7月から値引販売により在庫処理。
|
<VW 経営陣の対立>
そうした中、VW会社自体も創業家のピエヒVWグループ会長(監査役会会長)が4月解任された。会長と対立したVWのウィンターコルン会長が次期グループ会長になることが内定、9月25日開催予定の監査役会で会長就任決議がなされる予定だった。しかし、9月18日に今回の問題が米国で発生、追い込まれ、22日にはVWの会長兼グループCEOを辞任するに至った。
何が問題だったのだろうか。
やはり、トヨタを追い越すことばかりを至上命題にしたところにVWの問題があったようでならない。
<トヨタの動き>
ダウンサイジングエンジンもHVも、所詮、EVのつなぎであり、HVはよりEVに近い存在でもある。トヨタはそれを認めてHVを進化させてきていた。
BMWとトヨタが共同開発しているエンジンは、ダウンサイジングガソリンエンジンとHVシステムを融合させた新エンジンとされ、共通のプラットフォームに両社独自デザインの架装を施すという。HVも当然リチウム電池を使用し、最強のマシンに仕上げる予定のようだ。
<鳴りを潜めたHVガラパゴス論>
日本では、9月に入り、いきなりVWのダウンサイジングエンジンを高評価する記事が多発した。内容は、HVはガラパゴス化するというものだった。あまりにも突然、いくつもの記事が掲載されたことから、JC-NETではVWによるステマ広告(記事広告)ではないかと掲載した。
折りしもVWジャパンは、ベンツにも抜かれるほど販売不振で今7月、日本社の社長が辞任し交代していた。ステマ広告としてタイミング的にも合致する。
ステマ疑惑記事
http://car.lifelifelife.net/?p=7955
日本のVWとベンツの販売状況/自販連数値
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VW単体
|
前年比
|
ベンツ
|
前年比
|
2011年
|
50,635
|
8.4%
|
33,212
|
7.4%
|
2012年
|
56,191
|
11.0%
|
41,911
|
26.2%
|
2013年
|
67,282
|
19.7%
|
53,731
|
28.2%
|
2014年
|
67,438
|
0.2%
|
60,839
|
13.2%
|
2015年1月
|
3,760
|
-35.8%
|
4,556
|
12.8%
|
2月
|
5,394
|
-24.5%
|
5,257
|
3.7%
|
3月
|
8,870
|
-14.2%
|
9,011
|
3.3%
|
4月
|
2,549
|
-10.7%
|
3,189
|
35.6%
|
5月
|
3,660
|
-15.7%
|
4,318
|
40.4%
|
6月
|
5,433
|
2.2%
|
6,346
|
52.1%
|
7月
|
4,199
|
0.3%
|
4,373
|
13.3%
|
8月
|
4,339
|
16.4%
|
4,581
|
0.3%
|
累計
|
38,204
|
-12.1%
|
41,634
|
16.1%
|
<中国・米国はSUV時代>世界の潮流となっているのだが・・・
中国でも今やセダンは売れず、SUVが全盛期に入っている。VWの販売車はファビア、オクタビア、スベルブ、ポロ、ラヴィーダ、サンタナ、パサート、トゥーラン、ティグアンなどセダン車の類で、過去あった個性的なイメージも今やなくなっている。
8月までの累計でのセダンは、乗用車市場全体で前年比▲8.6%、乗用バン型は▲9.6%。*
<VW 中国での信用失墜は新型攻勢の日本勢とGMか>
今回の問題を通しVWは、中国でのイメージダウンは計り知れず、反日から日本車嫌いも多く存在し、そのメリットはGMに注がれるものと見られる。反日に関係ない人たちは、日系車に走ることになる。中国の自動車業界は総じて景気低迷を受け売れていないが、日本のトヨタとホンダは新車投入もあり、バカ売れし、ホンダでは納期待ち状態が続いているという。
なお、中国における問題車両は、中国ではガソリン車しか製造しておらず、輸入車の1946台だけが対象となっているという。
<ツキを持っているGM>
一方、ツイているのはGM、アメリカではスイッチ問題から死人がいっぱい出ていたにもかかわらず何年間も知らんふりを続け、やっと昨年大問題として表面化、開発段階から不良だったこと、その後の新車にも継続して取り付けられていたことなどにより同社の存続さえ危ぶまれる事態だったが、上手に立ち回り、ロビー活動理性化として議会の追及を終わらせ、トヨタの司法取引額より少ない制裁金で終わらせた。特にその後も当GM問題はロビー活動の成果により、当局や議会の問題の矢面をタカタ製エアバックに集中させることに見事成功、スイッチ問題はマスコミにさえ登場しなくなった。(死亡した人の訴訟は続き、その数は100人超とされている、しかし2億円支払っても200億円で済む)。そうした中、中国での販売が急成長、アメリカでは景気回復により市場拡大、販売増で業績までも急回復させている。
<実質№1はGM>
なお、2014年の世界一の販売台数はトヨタとなっているが実質はGM。GMブランドで販売製造している上海GM五菱の159万台がカウントされていない。GMの販売台数は992万台であり、これに加算すれば1151万台となり、1023万台のトヨタも越える。ただ、上海GM五菱(バンなど商用車+トラック)は3社合弁であり、GMは同社株の過半数を所有しておらず、VWからクレームが出て、トヨタが1番となり、2位にVWとなった経緯がある。カウント規定上、過半数の株を有する企業をグループ会社としている。
以上、
今回の問題での特別費用(制裁金+リコール費用+購入者の賠償請求訴訟+自治体の環境損害賠償訴訟+投資家の損害賠償訴訟など)などの行方
内紛による経営陣の対立、決着付いたが、なお創業家の影響力は絶大。ポルシェと統合したのは良いが・・・、筆頭株主。
今回の社内責任問題での社内動揺
今回の問題で信用毀損による業績そのものの悪化、時間がかかる信用回復
厳しくなる世界での環境規制、走行排気ガス検査導入、ドイツ政府も規制強化反対を言えなくなった
VWのダウンサイジングディーゼル車は触媒機能強化で高くなるか?、パーワーが落ちる。
大衆に対してコストパフォーマンスのディーゼル車を提供できるかが今後の課題。
ダウンサイジングエンジンガソリン車は小排気量でパワフルだが高い。
(恩恵を受ける排気量による税体系は日本だけ)
[ 2015年10月 1日 ]
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