長崎県内で犬や猫をめぐるルールを調べると、県内一律の制度ではなく、地域によって異なる条例や支援制度が重なっていることが分かる。
長崎県は2023年4月から動物愛護管理条例を施行し、犬と猫を合計10頭以上飼う場合の届出や、飼い主のいない猫への給餌に関するルールを設けた。一方、長崎市には県条例とは別の独自条例があり、対馬市にはツシマヤマネコの保全まで目的に盛り込んだ「ネコ適正飼養条例」がある。
さらに2026年度は、長崎市、佐世保市、大村市、壱岐市などが、それぞれ異なる条件で野良猫の不妊去勢を支援している。長崎の動物行政は「県の共通ルール」に加え、各地域の生活環境や野良猫問題、離島特有の事情に合わせた制度が組み合わされている。
数字で見る 長崎の動物愛護制度
壱岐市
さくらねこTNR
約4,000頭
2024年9月~2026年3月
2023年に県条例 犬猫10頭以上は届出
長崎県は2023年4月1日、「長崎県動物の愛護及び管理に関する条例」を施行した。
大きな柱の一つが多頭飼養の把握だ。生後90日以内を除き、飼っている犬と猫の合計が10頭以上となった場合、県立保健所などへの届出が必要となる。佐世保市の場合は県生活衛生課が窓口となる。
条例ではこのほか、動物の健康管理、飼養場所の清潔保持、鳴き声やふん尿、臭いによる周辺への迷惑防止、繁殖制限、終生飼養などについて飼い主が守るべき事項を定めている。
飼い主のいない猫への給餌についても、不妊去勢や排せつ物の適正処理など、周辺の生活環境に配慮した管理を求めている。
長崎市は県条例ではなく独自条例
長崎市は県条例の適用区域ではない。市は県に先行する形で、2022年7月1日から「長崎市動物の愛護及び管理に関する条例」を施行している。
市条例でも犬と猫を合計10頭以上飼う場合は多頭飼養の届出が必要で、10頭以上となった日から30日以内に動物愛護管理センターへ届け出る。飼養場所や頭数が変わった場合の変更届、9頭以下になった場合の廃止届も設けられている。
長崎市で特徴的なのが、飼い主のいない猫への餌やりを「全面禁止」としていない点だ。
条例では、周辺の生活環境に支障が生じるような給餌を禁止し、猫に餌を与える場合は不妊去勢やふん尿処理など、市が定める基準を守る必要がある。市は2026年1月の市民への回答でも、野良猫への餌やり自体は禁止していない一方、生活環境に支障が生じないようルールを守る必要があると説明している。
さらに、基準に沿って餌やりをしている人については、動物愛護管理センターへ届け出ることで「届出済証」の貸与を受けられる制度も設けている。猫を世話する人と、ふん尿や鳴き声などに困る周辺住民とのトラブルを減らすための仕組みでもある。
対馬は猫の登録まで義務化 背景にツシマヤマネコ
県内でも特に地域性が強い制度を持つのが対馬市だ。
対馬市は2010年に「対馬市ネコ適正飼養条例」を制定した。目的には市民の生活環境だけでなく、絶滅のおそれがあるツシマヤマネコへの被害を防ぎ、生物多様性を確保することが明記されている。
条例では、飼い猫を取得した場合や市内へ転入した場合などに、原則として30日以内にマイクロチップを装着し、市へ飼養登録を申請することを義務付けている。
また、やむを得ず猫を屋外で飼う場合には不妊去勢などの繁殖制限措置を求め、飼養頭数については生後90日以内を除き、おおむね5匹以内にするよう努めるとしている。
自分が飼養していない猫への「みだりな餌やり」も禁止されている。一般的な野良猫対策だけでなく、飼い猫と野生のツシマヤマネコとの接触や感染症、生態系への影響まで視野に入れた制度となっている。
なお、長崎県条例のうち、飼い主のいない猫への餌やりを定めた規定は対馬市には適用されず、市独自のネコ適正飼養条例がその役割を担っている。
同じ野良猫対策でも自治体で制度が違う
条例だけでなく、不妊去勢を支援する制度も市によって異なる。
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地域 |
2026年度の主な制度 |
主な内容 |
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長崎市 |
まちねこ不妊化推進事業 |
オス上限8,000円、メス上限18,000円。自己負担1頭2,000円 |
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佐世保市 |
地域猫不妊・去勢手術助成 |
オス上限8,000円、メス上限18,000円。地域で活動するグループと町内会長の了承が必要 |
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大村市 |
野良猫不妊・去勢手術助成 |
2026年度からメス20,000円、オス10,000円へ引き上げ。1回の申請は1人5頭まで |
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壱岐市 |
飼い主のいない猫の不妊・去勢補助 |
メス18,000円、オス8,000円。2026年3月までの大規模TNRから個別補助へ移行 |
長崎市では、単純な先着順ではなく、野良猫の数や生活環境への被害、手術後も給餌や清掃などの管理を続けられるかを審査し、助成対象を決める。
佐世保市では、猫を管理する市民グループを作り、活動地域の町内会長の了承を得ることが条件となっている。個人だけのTNRというより、地域全体で猫を管理する「地域猫活動」を制度の前提としている。
大村市は2026年度から助成額を引き上げ、メス2万円、オス1万円とした。従来は申請者負担だったノミ・ダニ駆除も助成対象に加えている。
壱岐では約4,000頭をTNR 2026年度から補助制度へ
離島ではさらに踏み込んだ事業も行われている。
壱岐市は公益財団法人どうぶつ基金や島内の動物愛護団体などと連携し、2024年9月から2026年3月までに約4,000頭の「さくらねこTNR」を実施した。
TNRは、飼い主のいない猫を捕獲し、不妊去勢手術を行った後、元の場所へ戻す取り組み。壱岐市の大規模事業は2026年3月で終了し、現在は飼い主のいない猫に対する不妊去勢手術費の補助制度へ移行している。
2026年度はメス1頭1万8,000円、オス1頭8,000円を補助。予算額に達した場合は受付を終了する仕組みとなっている。
県条例という共通ルールだけでなく、猫の生息状況や地域の対応力に応じて、市町村単位の事業が追加されていることが分かる。
「餌をやる・やらない」だけでは解決できない
各制度に共通しているのは、野良猫問題を単なる餌やりの是非だけで処理していないことだ。
不妊去勢で繁殖を抑え、決められた場所と時間で給餌し、残った餌やふん尿を片付け、周辺住民の生活環境を守りながら、その猫を地域で管理する仕組みへ移行している。
その一方で、長崎市では一定のルール下で給餌を認めるのに対し、対馬市では飼っていない猫へのみだりな給餌を禁止するなど、地域によって考え方は異なる。
対馬にはツシマヤマネコという希少野生動物が生息し、壱岐では短期間に約4,000頭規模のTNRが実施された。都市部、離島、希少野生生物の生息地では、同じ猫問題でも必要な制度が違うことを示している。
課題は「制度を作った後」
条例や補助制度が整備されても、それだけで野良猫や多頭飼育の問題がなくなるわけではない。
多頭飼養の届出から問題が深刻化する前の相談につなげられるか、地域猫活動に住民の理解を得られるか、不妊去勢を一度実施した後も適切な管理を継続できるかが重要になる。
また、長崎県内では住む地域によって条例の適用主体や申請窓口、助成条件が異なる。長崎市と県条例対象地域、対馬市では猫への給餌に関するルールにも違いがある。
動物行政を「保護や殺処分の問題」だけで見るのではなく、繁殖を防ぐ制度、周辺住民の生活環境、多頭飼育の早期把握、地域猫活動、生物多様性まで含めて考える必要がある。長崎では、地域ごとの事情に合わせた制度づくりがすでに始まっている。