岐路に立つ「井筒屋」百貨店/実質私的整理のガイドラインで再建へ⑤
井筒屋の財務内容は以前から悪く、最近では資金繰りまで窮するようになってきている。
当然今回の再建計画はそうした財務問題を一時的にも解消すべく、金融機関向けに作成されるものである。
井筒屋の再建は、消費者が集まる店作りを如何になしえるかにかかっているだけである。立派な収支計画を作成すれば、計画倒れになることも見えている。今回の再建計画は本業外資産や遊休資産の売却、リストラなどが再建計画の骨子のようである。当然なすべきことはなすべきであるが、低金利の時代、どれほどのメリットがあるか計算も必要であろう。得てして銀行が喜ぶ借入金の減少だけでは、何の解決策にもならないと思われる。
また極端に少なくなっている純資産の再構築は、利益による内部蓄積が見えてこない以上、増資でしか成しえず、北九州の救世主であった(故)大迫氏は今はおらず、高田工業所のような金融機関によるDESも含めた改善策が望まれるところである。
次表は、井筒屋財務内容の推移であるが、①でも明らかなように資本金の105億32百万円を03年2月期より食い潰し今日がある。最近では不動産の再評価により帳尻合わせをしており、今期の第③四半期(11/30日)株主資本段階では、▲16億63百万円に見られるように赤字に突入している。
流動比率や当座比率などは、見るに耐え難いものとなっている。次表では流動比率の推移を見ることができ、現預金も急激に減少しているが、流動比率も急激に悪化していることが伺える。
「井筒屋」連結財務概要推移/百万円 | ||||||
07/2期 | 08/2期 | 09/2期 | 10/2期中間 | 11月30日 | ||
流動資産 | 20,319 | 13,870 | 15,824 | 13,223 | 11,724 | |
現預金 | 6,759 | 3,469 | 3,731 | 2,781 | 2,553 | |
売掛債権 | 5,378 | 4,428 | 5,047 | 4,833 | 2,913 | |
棚卸資産 | 5,170 | 5,191 | 5,912 | 4,488 | 5227 | |
固定資産 | 69,009 | 65,876 | 64,713 | 64,613 | 63,681 | |
不動産 | 50,207 | 47,405 | 45,012 | 44,595 | 43047 | |
貸付金 | 12,546 | 12,316 | 12,116 | 11,996 | 11,956 | |
資産合計 | 89,328 | 79,747 | 80,537 | 77,836 | 75,405 | |
流動負債 | 54,180 | 45,438 | 47,074 | 47,614 | 50,075 | |
買掛債務 | 12,986 | 10,554 | 9,190 | 8,230 | 9,157 | |
短期借入金 | 27,241 | 21,167 | 22,487 | 24,975 | 26,965 | |
前受金 | 7,848 | 7,837 | 7,802 | - | - | |
流動比率 | 37.5% | 30.5% | 33.6% | 27.8% | 23.4% | |
固定負債 | 26,646 | 23,029 | 27,073 | 24,384 | 21,404 | |
長期借入金 | 18,773 | 14,753, | 16,491 | 14,560 | 11,435 | |
退職引当金 | 2,130 | 2,235 | 2,205 | 2,144 | 2,011 | |
再評価繰延税金負債 | 5,265 | 5,065 | 4,341 | 4,341 | 4,341 | |
負債合計 | 80,827 | 68,468 | 74,147 | 71,998 | 71,479 | |
純資産合計 | 8,501 | 11,279 | 6,390 | 5,837 | 3,925 | |
資本金 | 10,532 | 10,532 | 10,532 | 10,532 | 10,532 | |
株主資本 | 1,553 | 4,623 | 819 | 256 | -1,663 | |
(自己資本) | 11,279 | 6,390 | 5,837 | 3,925 | ||
負債+純資産 | 89,328 | 79,747 | 80,537 | 77,836 | 75,405 |
08/2月期の借入金は、07/2月期に比し、利益も出ていないのに金融機関から100億円も減らされており、その後の資金繰りの悪化を招く一因ともなっている。その後借入金は長期借入金の減少を短期借入金の増加でカバーして、実質借入金残高は殆ど動いていない。
利益が出なければ返済原資も捻出できないが、ここ3期同社は実質赤字で経過している。08/2月期は利益を計上している(①参照)が、博多井筒屋の立退料が、特別利益で計上されたためであり、事業利益では赤字になっているのである。棚卸資産を減らして資金捻出する方法もあるが、百貨店の商品はそう減らせるものではなく、販売委託にすれば利益が損なわれるというジレンマに陥る。
長期貸付金については、単体段階で次の通りとなっている。
関係会社長期貸付金 | |
09/2月期の貸付先 | 金額(千円) |
㈱エビス | 11,785,000 |
㈱久留米井筒屋 | 8,240,000 |
㈱エッグ | 3,582,000 |
㈱山口井筒屋 | 1,650,000 |
㈱レストラン井筒屋 | 1,006,000 |
その他 | 787,000 |
合計 | 27,050,000 |
連結から外れている㈱エビス(井筒屋の駐車場経営、29.0%出資)の分が計上されている。
社長に誰がなろうと、ここまで財務内容が疲弊した段階での交代は、前途多難である。
[ 2010年1月18日 ]
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