アイコン 進化する記憶媒体  日立と京大の三浦清貴教授ら  3億年保存可能

日立製作所は20日、京都大学大学院工学研究科 三浦清貴研究室と共同で、石英ガラス内部に、ブルーレイディスク™並みの記録密度となる100層のデジタルデータを記録、再生することに成功したと発表した。
今回、石英ガラスの奥深くに保存されたデータを再生する際に生じる、他層のデータの映りこみに起因するノイズの低減技術を新たに適用することで、100層という多層でのデータ記録、再生が行えることを検証した。

石英ガラスは、耐熱性、耐水性に優れており、1,000℃で2時間加熱しても保存データの劣化がないことをすでに実証している。
このことは、石英ガラスを用いたアーカイブが3億年を越えるデータ保存にも耐えうることを示しており、今後は歴史上重要な文化遺産や公文書、個人が後世に残したいデータなどの新たな長期保存技術として活用が期待されている。
情報の記録媒体が、紙からデジタルデータへと急速に移行する中、長期保存技術の確立が求められている。特に、半永久的な保存が求められる文化遺産や公文書に対しては、温度や湿度などによる記録データの経年劣化がなく、いつの時代にも記録データを読み出すことができるストレージ技術が必要となっている。

このような課題に対し、半導体や生物のDNAを用いてデジタルデータを長期保存するための技術開発が世界中で進められている。
日立は2009年に、デジタルデータの長期保存を目的に、耐熱性や耐水性に優れた石英ガラスに着目し、フェムト秒パルスレーザーで刻印したデジタルデータを光断層撮影法で、読み出す手法を考案して、石英ガラスがストレージとして有用であることを確認した。
この技術を用いると、石英ガラス内部にレーザーの焦点位置を変えながら、屈折率の異なる微小領域(ドット)を形成することで多層記録が可能となる。

2012年には京都大学と共同で、再生に光学顕微鏡を用いる手法を開発し、4層記録でCD並みの記録密度を、2013年には26層記録でDVD並みの記録密度を達成してきた。
実用化に向けてさらなる高密度化を実現するためには記録層を増やす必要があるが、ブルーレイディスク™と同等の記録密度を得られる100層クラスになると、石英ガラスの奥深くまで記録層が設けられることでドットの品質低下や、再生時に他層に記録されたデータの映りこみにより、再生エラーが顕著になるという課題があった。
今回、日立と京都大学工学研究科・材料化学専攻機能材料設計学講座の三浦清貴教授の研究室と共同で、石英ガラスの内部に100層を超える記録層で記録、再生を実現するための要件を見出し、100層での記録、再生の実証に成功した。
今回、100層での記録、再生は、以下の技術を用いて実証した。

(1) 球面収差補正レンズの適用による、高品質なデータの記録と再生
データを記録するために石英ガラスの奥深くの記録層へ光を集光すると、その集光スポットには球面収差と呼ばれる、スポット品質を劣化させる現象が発生する。
この劣化した品質のスポットでドットを形成する場合、レーザーを強める必要があるが、強度の高いレーザーで得られる集光スポットは石英ガラスの奥行き方向に伸びてしまうため、他の記録層付近にもドットが形成され、再生時のノイズの要因となった。
今回、球面収差補正レンズを採用することで、レーザーの強度を高めることなく記録時のスポット品質の劣化を抑制し、奥深くにある記録層にもドットを形成できることを確認した。
また、再生に用いる光学顕微鏡にも収差補正レンズを適用することで、高品質の撮影画像が得られることを確認した。

(2) ノイズ除去再生アルゴリズムの適用による再生エラーの低減
光学顕微鏡で撮影した画像からデータを再生する際には、ドットを"1"、ドットが生じない部分を"0"としてデジタル信号へ変換する。
記録層が増えるにつれて、石英ガラス内部の奥深くにある記録層を撮影する際に、他層に記録されたドットの映りこみに起因するノイズが、顕著になることがわかった。
今回、このノイズへの対策として、ドットとノイズの識別に、その面積(サイズ)の情報を利用する画像処理アルゴリズムを適用した。
一定のサイズを満たさない画像信号はノイズとみなし除去することで、再生信号のエラー率を実用化の指標となる10-3よりも小さくできることを確認した。
今回、層間距離60µmで、石英ガラスの両面から50層ずつ、計100層の記録と再生が行えることを検証した。
これは、石英ガラスを用いてブルーレイディスク™と同等の記録密度1.5GB/inch2が可能となること示す成果であり、これらの技術により、さらなる多層化の可能性を見出すことができた。
日立は今後、さらなる記録密度の向上により、実用化をめざした実証実験を進めていくとしている。

なお、本成果は2014年10月20日から台湾で開催される光ストレージに関する国際シンポジウム「International Symposium on Optical Memory (ISOM2014)」にて発表する予定。
また、この石英ガラス記録技術が3億年のデータ保存寿命を有することを活かし、画像を描画した石英ガラスを宇宙機に搭載することが決定された。
九工大と鹿大が共同開発した、はやぶさ2相乗り小型副ペイロード「しんえん2」に、3億年後へのメッセージを込めた画像・文字列を描画した石英ガラスを搭載する。

フェムト秒パルスレーザー:レーザー光線1発の持続時間をパルス幅といい、そのレーザーパルスの持続時間を数兆~数百兆分の1秒にまで短パルス化したレーザー。

光断層撮影法:石英ガラス版を回転させながら、発光ダイオードを光源とする可視光線を照射して複数の投影画像の撮影を行い、計算処理によって石英ガラスの断層画像を復元する。
*3
宇宙機打ち上げについては、九工大が9月1日に、鹿大が10月17日に報道発表を実施した。

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国会議員の頭に埋め込む技術も必要だろう。

[ 2014年10月20日 ]
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