外国為替市場で円高が進み、円相場は一時1ドル=153円台まで上昇した。約7カ月ぶりの円高水準となり、160円前後まで進んでいた円安局面から流れが変わりつつある。
円高は輸出企業にとって収益の下押し要因となる一方、地方経済では燃料や飼料、食品原料、資材などの輸入コストを抑える方向に働く。円安と物価高に苦しんできた地方の中小企業や家計にとっては、負担軽減につながる可能性がある。
円高153円台、地方の中小企業にはコスト低下の追い風
地方企業への影響で最も注目されるのが、輸入原材料やエネルギー価格への波及だ。
近年は円安に加え、原材料や燃料、電気代、人件費など幅広いコストが上昇。一方、中小企業ではコスト上昇分を販売価格に十分転嫁できないケースが多く、利益を圧迫する要因となってきた。
円高が定着すれば、ドル建てで輸入する原油、飼料穀物、食品原料、木材、金属、化学製品などの円換算価格を押し下げる方向に働く。
ただし、153円台は過去と比べれば依然として円安水準で、海外の商品価格自体が上昇すれば円高効果が相殺される。このため、企業コストが一気に低下するというより、「円安による追加的な負担が弱まる」とみるのが適切だ。
北海道・東北・九州の畜産、飼料価格にはプラス要因
地方で円高の恩恵を受けやすい業種の一つが畜産業だ。
牛、豚、鶏などの飼育に使われる配合飼料は、トウモロコシなど海外から輸入される原料への依存度が高い。円安になると輸入価格が上昇し、畜産農家の経営を圧迫する。
円高が続けば、ドル建ての穀物価格が同じ場合、円換算した飼料原料の調達価格は下がる方向となる。
北海道、東北、九州など畜産業の比重が高い地域では、飼料価格の上昇圧力が弱まれば、農家の経営負担軽減につながる可能性がある。
漁業地域では燃油負担の緩和に期待
漁業も為替の影響を受けやすい。
漁船を動かすための燃油は漁業経営の主要コストの一つで、原油価格と為替相場の双方に左右される。
北海道や東北、長崎、山陰、三重、鹿児島など漁業が盛んな地域では、円高によって輸入原油の円建て価格が抑えられれば、燃油価格の負担軽減につながる可能性がある。
特に近年は燃料高によって出漁コストが上昇しており、円高が定着するかどうかは水産業者にとって重要な材料となる。
食品製造・飲食・スーパーにも原材料高の緩和効果
地方の食品製造業や飲食店、小売業にも円高はプラス材料となる。
小麦、食用油、乳製品原料、コーヒー豆、冷凍食品、水産物など、多くの食品や原料は海外から輸入されている。
さらに食品包装に使われるプラスチック製品や容器、物流に必要な燃料なども為替の影響を受ける。
これらの価格上昇が落ち着けば、値上げを繰り返してきた食品メーカーやスーパー、飲食店の仕入れ負担が軽減される可能性がある。
特に価格転嫁が難しい地方の中小飲食店や食品加工業者にとっては、円高による原価上昇圧力の緩和は利益改善につながる余地がある。
建設業は資材価格にはプラス、人手不足の問題は残る
地方の建設業にも一定の恩恵が期待される。
輸入木材、金属製品、石油由来の建材、建設機械、燃料などは円高によって調達価格が下がる方向となる。
住宅建設やリフォーム、公共工事などでは資材価格の高騰が続いており、円高はコスト上昇を抑える要因となる。
ただし、現在の建設業では人手不足や人件費の上昇も大きな問題となっている。このため、円高だけで建設コスト全体が大幅に下がる可能性は低い。
愛知・東海など輸出製造業には円高が逆風
一方、円高によるマイナスの影響が大きいのが輸出企業だ。
自動車や機械、電子部品などを海外で販売する企業では、海外で得たドルを円に換算した際の収益が減少する。
また、日本から輸出する製品は海外から見れば価格が上昇するため、価格競争力が低下する可能性もある。
愛知県を中心とする東海地方の自動車・部品産業、北陸の機械関連、九州の半導体・電子関連などでは、円高が続けば業績への影響が意識される。
ただし、輸入部品や海外原料を多く使用している企業では仕入れコストが低下するため、同じ製造業でも影響は企業ごとに異なる。
京都・大阪・北海道・沖縄など観光地には円高が逆風
インバウンド需要が大きい地域では、円高が長期化すると外国人旅行者の消費に影響する可能性がある。
円安局面では外国人旅行者から見て日本のホテルや飲食、買い物が割安になり、訪日客消費を押し上げてきた。
円高になると同じ商品や宿泊料金でも外国通貨換算では高くなるため、京都、大阪、北海道、沖縄、福岡などインバウンド比率が高い地域では消費額を押し下げる要因となる。
ただし、1ドル=153円台になっただけで訪日客が急減するとは考えにくく、航空便や各国の景気、旅行需要など他の要因も大きい。
地方の家計にはガソリン・灯油・食品価格の上昇抑制も
円高は企業だけでなく、地方の一般家庭にも影響する。
地方では自動車を日常的に利用する世帯が多く、ガソリン価格の上昇は都市部以上に家計負担につながりやすい。
北海道や東北、北陸など寒冷地では、冬場の灯油価格も生活費を左右する。
円高によって原油や天然ガスなど輸入エネルギーの円換算価格が下がれば、ガソリン、灯油、電気、ガスなどの価格上昇を抑える効果が期待される。
食品や日用品についても輸入コストが落ち着けば、値上げ圧力が弱まる可能性がある。
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地域・業種 |
主な影響 |
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北海道・東北・九州の畜産 |
飼料原料の輸入コスト低下に期待 |
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漁業地域 |
燃油価格の上昇圧力緩和 |
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食品製造・飲食・小売 |
輸入食品・原材料・包装材などの負担軽減 |
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建設業 |
輸入資材・燃料にはプラス、人件費高は継続 |
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東海など輸出製造業 |
輸出採算や海外利益の円換算には逆風 |
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京都・大阪・北海道・沖縄など観光地 |
円高長期化ならインバウンド消費に下押し圧力 |
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地方の一般家庭 |
ガソリン・灯油・食品などの値上げ圧力緩和 |
円高は地方経済に「全面的な逆風」ではない
円高というと、一般には輸出企業の業績悪化が注目されやすい。
しかし地方経済では、輸出企業よりも燃料や原材料、飼料、食品などを購入する中小企業の数が圧倒的に多い。
円安による輸入コスト上昇を価格転嫁できず、利益を削ってきた企業にとっては、円高は経営環境を改善する材料となる。
一方で、輸出製造業やインバウンドに依存する地域には逆風となるため、地域や業種によって影響は大きく異なる。
今回の1ドル=153円台への円高は、地方経済全体を一方向に動かすものではなく、「輸入コスト高に苦しんできた地域には追い風、輸出・観光依存地域には逆風」という二面性を持つことになりそうだ。
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