ソフトバンク 英ARMを3.3兆円で買収 ARMとはスマホCPU95%搭載技術保有
SOI-CPU、GPUの半導体技術が今後の世界をリードする
ソ フトバンクは7月18日(日本時間)、英国の半導体企業ARM Holdings(以下、ARM)の買収を発表した。孫社長が両社の戦略的合意について、英国で開いた記者会見を開き、「モバイルから IoT(Internet of Things)というパラダイムシフトの初期に投資したい」と説明した。
家電や自動車などさまざまな機器がネットにつながるIoT時代、ARMの半導体技術へのニーズが飛躍的に成長すると見通し、買収に踏み切ったという。
当買収については、裁判所の認可を受けた後実施される。今回の買収額は、日本企業によるこれまでの最大の買収額となる。買収は9月中に完了見込みという。
ソ フトバンクは、ARM株式の100%を約3兆3千億円(約240億ポンド、約310億米ドル)で取得する。発表文書によると、ARMの1株当たりの取得額 は1700ペンス。これは15日の株価終値1189ペンスに約43%上乗せした水準で株式14億1200万株を取得する計画。ARMは上場を廃止する。
非上場化により「次の四半期決算を心配しなくてよくなり、大きな投資ができる」とし、5年かけてエンジニアを倍増させる計画。
<スマホ用CPUで95%のシェア>
ARMは半導体ファブレスメーカー(製造しない製造会社)。自らはチップの製造・販売を行わず、技術のライセンス販売のみを行っている。
特にスマホに強く、昨年販売されたスマホの95%にARMアーキテクチャのチップが採用されているという。
孫社長は、英EU離脱後の将来に賭けていると述べ、英国の従業員を次の5年で倍増し、独立性は保持すると強調した。
<買収資金はこれまで3社株式売却資金と借入1兆円による>
買収資金は全額、現金で確保。中国のアリハバ株(ネット通販)やフィンランドSupercell株(ゲームソフト会社)、ガンホー(国内ゲームソフト会社)の株売却により得た資金で70%をまかない、残りの30%は、7月15日、みずほ銀行から総借入限度額1.0兆円の借入(ブリッジローン)契約を締結、その調達による資金を充当する。
<ポンド安は絶好の機会? >
ただ、ARMの株価はパテント料がドル契約の海外企業から入ってくることから、この2週間で逆に15%程度株価が上昇しているという。(本当はもっと安く購入できると見込んだだろうが、ポンド安で恩恵を受ける輸出企業は見直されている)
<ARMについて>
ARMについては、「大きなパラダイムシフトはインターネットからモバイルに移り、その次はIoT」「このパラダイムシフトの初期に投資をしたい」と、ARMをソフトバンクグループの一員とした理由に挙げた。
ARMは上場を廃止し、研究開発とエンジニア採用に集中的に投資する。「ARMはファブレスメーカーなのでエンジニアが資産。今こそがエンジニアを増やすタイミングだ」とし、優秀なエンジニアの採用に最大の投資を振り向けると話した。
ARMの将来性については、モバイルコンピューティングでは85%以上のシェアを持ち、これから伸びる自動運転分野での可能性、セキュリティへの注力、Cortex MaliなどのGPU(画像処理用演算プロセッサ)製品も、これから伸びる要因として挙げた。
また、Sprintの経営立て直しに自信を持っているからこそ、ARM買収に乗り出したと説明している。
孫社長がARMのトップと接触し、買収交渉を始めたのは2週間前。わずか2週間で交渉がまとまったという。
なお、情報筋では、「ソフトバンク側からの働き掛け、英EU離脱前から買収を検討していた」「孫正義社長は独占率と利益率が高いことと、成長性を評価し、買収を決めたのだろう。アリババとスーパーセル株式の売却は、この買収の準備だったと考えるのが妥当だ」とみている。
ただ、次期社長を確約されたニケシュ副社長が辞任したのも、ファブレスメーカーとはいえこうした製造にかかわる企業の買収に巨額を投じることに難色を示し決裂した可能性がある。
孫社長は、米ヤフーにしろ、アリハバにしろ、その長期投資の臭覚は桁はずれているが、歳とともに臭覚・知覚は衰えることから、今回の買収は最後の巨額投資になり、世界で持続的に収益を下支えすることになろう。
SBはIOTの強化とされているが、ARMはIOTを支えるCPUやGPUのファブレスメーカーであり、ソフトとハードの世界で別、今後SBが融合させる可能性はあるが、IOT分野での活躍は総じて期待できるだろう。
<ARMとは>
ARMホールディングス (ARM Holdings plc) は、イギリスのケンブリッジに本社を置く持株会社。
1990年にエイコーン・コンピュータ、アップルコンピュータ、VLSIテクノロジーのジョイントベンチャーとして創業している。
現在の傘下事業会社は、"ARM Ltd."によるARMアーキテクチャ、RealView やKEIL というブランドのプログラミングツール、システムおよびプラットフォーム、System-on-a-chip基板とソフトウェアなどの開発を行っている。
ARMが主力とするCPU設計品は、大容量化、高速化が進む中で省電力が売り物、スマホやタブレットで圧倒的なシェアを持つ。
また買収も継続的に数多く行ってきており、以前には2006年10月にシリコン・オン・インシュレータ(SOI= LSIの高速性・低消費電力化を向上させる技術)を使った(当時)フィジカルIPのリーディングカンパニーである仏SOISIC社を買収、またSOI Physical IP を得意としGPU(画像処理用演算プロセッサ)なども開発しているノルウェーのFalanx社を買収し、高速化技術を集中させていた。
最近では昨年4月に、自動車通信関連で注目されるBluetooth関連の非上場の米Wicentric社と米Sunrise Micro Devices(SMD)社を買収し、同年7月にはイスラエルのサイバーセキュリティ会社のSansa Securityを買収している。・・・戦略分野に特化した買収を続けているようだ。
ARMホールディングスは上場していることから、戦略的買収は株主にも歓迎されやり安いものの、しかし、傘下企業群の戦略的投資には経費増を招き、直下業績の利益を損ねることから、経営陣が株主から責任を問われ、なかなか踏み出せないのが現実となっている。
そうしたことも踏まえ、非上場を条件にSBの買収に応じたようだ。当然、SBの買収後は、SBは何年か同社を上場させることはできない契約になっていると見られる(詳細は明らかにされていない)。
<買収コンサルにレインやみずほなど>
なお、SBの買収コンサルには米ブティック方投資銀行のレイングループが入っている。ハイテクやメディア、情報通信の案件に特化している同社は、ソフトバンクによるスプリントの経営権取得やテンセントへのスーパーセル売却にも携わっていた。ARMではほかにロビー・ウォーショー、みずほフィナンシャルグループなどがSBのアドバイザーとなっており、5千万ドル~6千万ドルを分けあう見込み。ARM側コンサルにはゴールドマンサックスなどが入っているという。
超短期持株のハゲタカの株主さえ、いまや神様以上に世の中をノシ歩くようになってしまった。いずれ短期取得株の株主権限の範囲は見直されることだろう。企業本来の活動を抑制させ、労働者が働く企業をハゲタカのおもちゃにさせる米新自由主義経済の仕組みは、いつか世界の良識が封じ込めることになる。(中国上場企業の株式は、いくら株式を買っても乗っ取りは寸分たりとも出来ないように第3の会社を通じて上場させている。国営企業が上場できる由縁ともなっている)
今回の買収劇は、英EU離脱から英国から逃げる・離れる・縮小する一方の外資にあり、日本企業による大投資になり、開発のための従業員の大幅増も発表しており、新政府メイ首相も大喜びだろう。
英EU離脱で、英国の不動産や企業案件はポンド安により、総じて安価になっており、再度中国勢が押し寄せているという。英EU離脱決定後、中国からロンドン行きの飛行機は急増していると中国紙が報じている。
ARMのHPからリリースへ
英語が読めたら、こちらには詳しく掲載されている。
http://ir.arm.com/phoenix.zhtml?c=197211&p=irol-irhome
ARM Holdings plc
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市場情報
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NASDAQ: ARMH、LSE: ARM
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本社所在地
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イギリス・イングランド・ケンブリッジ・シリコンフェン
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設立
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1990年
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業種
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半導体ファブレスメーカー
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事業内容
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RISCマイクロプロセッサのIP
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代表者
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Doug Dunn(会長)
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Warren East(CEO)
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営業利益
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£406.1 million (2015)
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純資産
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$3.21 billion (2016)
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従業員数
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約3,300 (2014)
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