アイコン 第7話:啓介、走る

Posted:[ 2025年11月17日 ]

 

朝7時。街はまだ眠っている。
だが、政治は夜が明けていない。

大石県知事 プリント

啓介は車を降りる。
冷えた空気が頬を刺す。
コートを閉じる余裕はない。
時間は衣服より優先される。
県内有力者の事務所。
表札は古いが、電話線と人脈は今も現役だ。



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大石県知事 プリント

ドアをノック、待たない。許可は必要なく、
同席を拒まれない程度の存在で十分だ。
応接。テーブルの上には湯飲みだけ。
茶は出されていない。
もてなしの形が省略されるのは、関係が既に効率化されている証拠。
「静かですね」
啓介の言葉は情報の探索。
意見ではない。
相手はゆっくり眼鏡を外し、布で拭く。
沈黙が返答になる階層。
「噂が出るぞ」
声は枯れている。
感情が枯れたのではなく、
必要がないのだ。

大石県知事 プリント

啓介は頷く代わりに、手帳を閉じる。
「内容は把握しています」
「否定するか?」
「まだです」
「なぜだ」
啓介は短く答える。
「否定は話題を作ります。
無視は、理解を誘います」
老人は微かに笑う。
それは感心ではなく、
確認。
「若いのに、心が古い」
「年齢で戦うつもりはありません」
「戦うのか?」
「生きるだけです」
沈黙。
それは認可。
次の場所。
車内、通知が点灯。
“一本、揺れた”
名前は書かれていない。
書く必要はない。
察せる者だけが、受け取ればいい。
啓介はすぐに返信しない。
反応が早いほど、
計算が浅く見える世界がある。
信号待ち。
車の外を、通勤前の市民が歩く。
誰一人、この瞬間に政治が動いていることを知らない。
知らなくていい。
結果だけが触れる現実になる。
午前10時。
次の訪問先。
地方組織の会館。
表情のない受付、
静かな廊下。
部屋に入ると、書類を前に三人が待っている。
挨拶は簡潔。
礼は形式、力は実質。
「……状況は」
啓介が先に問う。
相手の言葉を待つのは、優しさではなく、遅延だ。
「確定ではない。
だが、“確定しない”という状況自体が……」
「こちらの余地になる」
「そうだ」
一拍。
「ただし、二つ条件がある」
啓介は手帳を開く。
「一つ。
表向きは静観。どちらにも寄らない」
「理解しています」
「二つ。結果が出た後、“判断が早かった”という体裁を用意してほしい」
啓介は即答しない。
三秒。
冷却のための時間。
「可能です」
「本当に?」
「体裁は真実ではありません。
構築するものです」
わずかに、相手の眉が動いた。
評価ではない。
計算の更新。
部屋を出て、
啓介は深く息を吸う。
肺に入った空気は冷たい。
だが、
呼吸は感情を与えない。
走る理由は理想ではない。
歩けば、追い抜かれるだけだ。
携帯が震えた。
また一件。
『ひとり戻る。午後確定』
啓介は短く返信。
了承
その二文字に、感謝も歓喜もない。
勝利はまだ遠い。熱は不要。
11月30日の大石賢吾総決起大会まで、ただ、進む。

JC-net・日刊セイケイ編集長・中山洋次

 


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