見て見ぬふりの境界線。
令和8年3月25日。
佐賀県知事あてに、一通の「申入書」が出された。
差出人は「玄界灘と共に生きる会」と佐賀玄海漁協の有志である。
内容はシンプルだが、中身は重い。
長崎県の業者(有明商事グループ・中村満社長)。(葵新建設・出口勇一社長)が、県境ラインを越えて、佐賀県側ギリギリの海底の砂を採っているように見える。
しかも何度も通報している。
しかし、調査は行われていない。
このままでは海の生態系が壊れる。
ちゃんと調べて対策をしてほしい。
要するにこういう趣旨の「申入書」である。
「佐賀県の県境越えて海砂持っていかれよるばってん、誰も止めん。」

境界線は、海の上ではただの線
地図の上には線が引いてある。
「ここから佐賀県」「ここから長崎県」。
でも海の上には線は無い。
だから越えても分からない?
いや、分からないはずがない。
船にはGPSがある。
採取位置は全部記録されている。
つまり、知らなかった、は通用しない世界なのである。
それでも何年も続いている。
通報もされている。
それでも調査が無い。
これを地元の漁師はこう言う。
「知らんふりしとるだけやろ。」
砂は、ただの砂じゃない
海砂は、海の生態系そのものだ。
砂地があるけん、魚が住む。
砂地があるけん、貝がおる。
砂地があるけん、海が生きる。
それを根こそぎ吸い上げたらどうなるか。
海は確実に死ぬ。
これは大げさでも何でもない。
実際に、海砂採取で漁場が消えた場所は日本中にある。
だから漁師は怒るのである。生活がかかっているからだ。
怒らないで笑っているのは壱岐市東部漁協の浦田和男組合長ぐらいのものである。

一番の問題は「誰も責任を取らない構造」
・県境の問題だから県は強く言わない
・許可の問題だから国は県に任せる
・業者は「許可の範囲内」と言う
・でも現場では境界を越えているという話が出る
・通報しても調査されない
結果どうなるか。
誰も止めない。
誰も調べない。
でも砂だけは消えていく。
これが今、玄界灘で起きている構図だ。
これは砂の問題じゃない
これは海の問題であり、漁業の問題であり、地域の問題であり、そして何より、
行政が仕事をしているのかという問題である。
申入書の最後は、静かな文章で終わっている。
「このままでは海底の生態系の環境悪化は避けられないと大変懸念しており、課題解決に向け何卒お力添えを賜りたく存じます。」
ものすごく丁寧な文章だ。
でも、現場の本音はたぶんこうだ。
「お願いやけん、ちゃんと仕事してくれ。」
JC-net・日刊セイケイ編集長・中山洋次