アイコン 避けられるか/中国の不動産バブル崩壊

中国政府はリーマンショック後、それまで貿易黒字で溜め込んだ資金を内需に向け、4兆元(約57兆円)に上るインフラ整備に投下するとともに金融緩和策を執った。ショックによる一時的落ち込みはあったものの、すばやく株価や不動産投資が復活。政府系金融機関が主導して不動産向け融資を行ったことにより、主要都市の不動産が急上昇、海南島や上海始め不動産バブルで沸き立った。
また最近では、米ドルに対する人民元の相場上昇を抑えようとする中国当局が「元売り
ドル買い介入」を継続させているため、中国内に人民元資金が貯まるという為替介入の「副作用」も生じ、過熱化する一方である。

そうしたことから中国政府は、本年に入り不動産バブルをソフトランディングさせるため躍起になっており、次のような施策をとっている。 

       1月より不動産投資に対する金融引締策を実行、金融機関の預金準備率を引き上げる政
策。1月・2月に引き上げられ、5月2日にも0.5%(=50ベーシスポイント)引き上げた。短期間に3回も預金準備率を引き上げるとは異常ともいえるが、そこまで不動産バブルが加熱、インフレ(CPI指数上昇)が勢いを増しているという現われでもある。今回の引き上げで大手国有銀行の預金準備率は17%に達する(一種の総量規制であり、過剰流動性資金の国家による吸い上げ)。
       政府系金融機関の2月の不動産業者に対する新規融資は7,001億元、1月の1兆3,900
億元から大幅に減じさせ、不動産市場への融資を強制的に抑制させている。
       4月14日、国務院常務会議で1軒目の住宅購入の頭金を30%以上、2軒目の頭金は50%
以上、且つローン利率は貸付基準金利の1.1倍以上にすることを決定。
       4月17日、中国国務院は各銀行に対して、住宅価格が高く、供給が緊迫している地域
で3軒目以降の物件を購入する消費者に貸付を一時停止する指示を発している。
また、1年以上の納税証明や社会保険支払証明がない非居住者へは、住宅ローンの融資を
停止することを求めているという。
 
こうした政策や措置も不動産バブルを演じている投資家が、既に巨万の富を築いており、金融機関に頼ることなく、今でも不動産を買い漁り、こうした政策の影響は少ないと見る向きもある。
ところが、こうした動きに反応して、既に海南島(世界のリゾート観光都市にするという国家表明がある)など不動産投機が盛んな都市で大量の物件が投売りされ、深圳、上海でも多くの物件を売り出す投資ファンドが相次いでいる情報もある。以外と早く不動産バブルが崩壊してしまう危険性すらある。
 
 日本では、5・6年前から北京オリンピック後の上海万博まで、中国の高成長は続くとの見方をしていた。ところが、07年7月アメリカの株式市場で金融バブルの象徴たるサブプライムローン問題が表面化、極めつけは08年9月生じたリーマン破綻、いっきに金融パニックは全世界を覆ってしまった。ところが、中国では4兆元を国内インフラ整備に充てるとして、これまで外需依存から内需への切り替えに成功。国の資金が金融機関から流れ出て、それまでにも不動産投機が盛んに行われていたものに拍車がかかった。

中国の不動産バブルは、それでも上海万博とともにピークに達するという見方が大勢である。こうしたバブルがいつまでも続くわけがなく、タイムアウトして調整期間に入るのは上海万博終了直後ともいわれている。
2007年4月から13回NHKで報道された「激流中国」シリーズに見られたようなことがいつまでも続くものではない。「チベット 聖地に富を求めて」では、その後に生じたチベッド暴動を予感させるものでもあった。
中国政府が頭を痛めているのは、地方政府の財政が不動産バブルで成立している点である。地方政府が土地を整備(インフラ整備)=不動産開発し、民間に開発させており、不動産の(借地権)売買に基づく税収が、地方財政の主な収入源ともなっている。また開発して民間への売却を値上がり見込みから、抱え込む行政府まで現れている。地方政府による既存居住者に対する強引な立ち退き要請は日常茶飯事。こうしたことが地方政府の役人の懐をも潤沢にしており、貧富の格差拡大とともに地方政府や中央政府への不満が民衆に吹き溜まっているのが実情である。

中国政府は、情報も完全にコントロールしており、国民に実情を知らせていない。これまで北京オリンピック・上海万博とそうした不満の矛先を消し込めるほどのイベントがあったが、上海万博後はそのエネルギーの昇華方法は見当たらない(アメリカも選挙の前にいつも戦争を仕掛けていた)。2010年11月・12月の広州アジア競技大会は前2つのイベントに対してインパクトが薄過ぎ、それも12月で終わる。
不動産バブルが破綻した場合、地方政府の財政破綻は中央政府が面倒を見ることになり、中央政府の財政問題に直結することにもなる。貧富の格差拡大問題とともに不動産バブルは居住権の問題を孕み共産国中国の前途は多難といえる。
 
<中国の貿易収支>
年/月
1
2
3
4
5
6
2006
9.63
2.53
11.15
10.38
12.95
14.42
2007
15.87
23.78
6.87
16.71
22.43
26.89
2008
19.35
8.19
13.11
16.30
19.73
20.67
2009
39.11
4.84
18.56
13.13
13.39
8.25
2010
14.20
7.60
 
 
 
 
 

 
7
8
9
10
11
12
2006
14.57
18.81
15.31
23.83
22.90
21.00
177.48
2007
24.36
25.17
24.03
27.14
26.32
22.61
262.18
2008
25.12
28.78
29.36
35.24
40.09
38.98
294.92
2009
10.63
15.70
12.90
24.00
19.10
18.40
198.01
2010
 
 
 
 
 
 
21.80

中国国家統計局資料(単位:10億ドル)
 
① 2008年9月のリーマンショックで輸出産業主体に多くの中国企業が破綻、そのため09年上半期だけでも、国内での新規融資の総額は7.44兆元(約105兆円)にも達している。 
08年度の上半期、国内新規融資額2.5兆元、09年度上半期のそれは前年同期比196%増と超大幅増となっている。これでは超インフレが生じるのはあたりまえ。
② 2010年2月11日の中国新聞社:中国国家発展改革委員会と国家統計局は合同で今年1月の全国70都市の不動産価格を発表。9.5%高と8ヶ月連続で前年同月比を上回った。海南省では、海口市で35.1%、三亜市で31.2%と高い伸びを示している。広州市(広東省)、温州市(浙江省)、北京市、銀川市(寧夏回族自治区)、深セン市(広東省)、昆明市(雲南省)、杭州市(浙江省)などでも上昇率は2桁を超えている。
 
③ 2010年4月28日の国連世界観光機関:09年の中国観光客の海外消費額437億ドルで世界第4位。2000年から中国人観光客の消費額は毎年平均して22%伸びている。
 
       2010年4月14日中国国家統計局発表:3月の70都市の不動産価格指数は、平均が前
年同月より11.7%上昇。2008年1月の11.3%を上回り、05年7月に月ごとの統計を取り始めて以降、最も高い上昇率になった。
都市別では、リゾート地の海南島にある海南省海口市が前年同月比53.9%、同省三亜が52.1%と急騰。ほかにも浙江省杭州が13.9%、北京が12.3%、江蘇省南京が11.7%上昇するなど、殆どの都市で上昇が加速している。
 
       2009年における住宅売却額は5600億ドル(約50兆4000億円)にのぼり、1年前
より80%以上も増加。不動産ブームの中心地である上海では、地価が03年から150%以上も上昇。北京や上海などの大都市では、面積100平方メートル前後の住宅(つまり、特別豪勢であるとは思えない住宅)が、500万元(約6,500万円)以上で取引されるケースも多い。中国の1人当たりGDPは日本の10分の1以下であることを考えると、これは異常な価格であると考えざるをえない(富裕層の率ではなく絶対数が多いことから生じている)。
 
       2010年4月9日、法制晩報は、中国の不動産価格の上昇によって北京市民の資産が倍
増、数十を超える仲介業者が「北京の不動産を売却して海外に移民しよう」とのキャンペーンを進めていると報じている。特にカナダは7200万円の純資産ほかで永住居住権が取得でき、1999年以降中国からの移民が急増しているという。カナダのほかオーストラリアが人気のようである。
 
       上海不動産情報センター、3月中旬売り出された翠湖天地嘉苑(外環状内側)は12万元/ 
㎡を超え、地元でも対象外とされているが、3月中旬(3月15日~3月21日)の上海市の分譲物件は、成約面積22.3万㎡で3月上旬と比べて34%の増加、その反面平均成約価格は上旬より2%下落して19,328元/㎡となっている。富裕層が人口の10%であろうと3000万世帯以上が金持ちになっていることを意味し、桁違いのその層だけをターゲットにしても充分、不動産バブルやインフレに対応できるが、残りの10億人以上が大混乱に陥ることになる。
 
     09年の香港不動産価格の上昇幅は世界一の33%、中国本土からの買い付けが入ってお
り上昇に拍車を掛けている。ワースト1はドバイの▲42%。・・・Knight Frank LLP
 
     2010年1月6日の東亜通信社、全国規模の固定資産税(=物業税)導入調査へ、地方政府
が土地を抱え込み売り惜しみして高騰させている。不動産会社も売り惜しみ、契約不履行も多発、摘発へ。値上がり目的の未入居住宅急増に対して税導入を検討。
 
     既に新築物件はテナント料と投資利回りとの乖離が大きく、転がし物件としての投機対
象とはなっているが、純然たる投資目的での購入はなくなって来ているともいわれている。
 
中国不動産バブルは、遅かれ早かれ調整局面に入ろうが、急激に不動産マーケットが縮小すれば、崩壊となり、リーマンショックが再度到来することを意味し、外需(中国)依存型の日本経済への影響は計り知れないものとなる。
 
ドバイと中国が異なるのは、ドバイは経済基盤のない外資依存型の不動産バブルであったこと。中国バブルは日本のバブルに似たものである。その後も日本のような政策の貧困で失われた10年として総称されるようなことはないだろう。一党独裁の中国、短期間(2~3年)に緩やかな回復を目指すものと思われる。世界の経済環境もリーマンショックの後片付けも進んでおり、世界の工場としての中国の存在は顕在であり、中国経済は内需と外需均衡型に移行していくものと思われる。
 
[ 2010年5月 6日 ]
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