アイコン 中国の労働事情② 頻発するストライキ

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)は、世界の富豪の資産を示す年度報告書で、09年の資産百万ドル以上の富豪数は、中国が米国と日本に続いて、世界3位になったとしている。
また、世界銀行は5月、中国国内では1%の家庭が41.4%の富を占めており、世界で最も貧富の格差が大きい国の1つであるとも発表している。
<赤色世帯・赤色世族 富豪実態>
中国では500世族が富を握っているともいわれている。江家(元総書記・江沢民一族)、 
李家(元首相・李鵬一族)、現職の胡家(総書記・胡錦濤一族)、温家(首相・温家宝一族)、これらの世族の総資産は各々百億元を超えるとされている。この巨富をどうやって築いたのか、公職の収入ではないのは明らかである。

ホンダからの連鎖 日・韓・台系中国工場へ
ホンダ中国部品工場のストライキは、賃上げを求めて、5月17日から突入。6月4日、給与33%アップの合意で解除となったが、労働者側は大幅の賃上げに成功した。しかも、ストに批判的な政府系の組合を排除した労働者を主体とする集団交渉において、初の成功事例として、中国各地へストライキの波が広がっている。iPadを製造している台湾系の富士康の深セン工場では低賃金による過剰な超過勤務のため自殺者が多発、社会問題化していたが、拡大するのを恐れた会社側は5月に賃上げ、10月にも再度大幅賃上げすると発表している。
6月5日、江蘇省昆山市にある台湾系の車部品工場「KOK書元機械」でスト突入。6日には、深セン市で7000人の台湾系の「美律・電子公司」電子部品工場、広東省恵州市で韓国現代自動車の部品工場、7日には、佛山市にあるホンダ系列の日系工場「豊富・汽配有限公司」(ユタカ技研+台湾資本の合弁)、9日には陝西省西安市の日系ミシン工場および江西省の台湾系スポーツ用品メーカーでストライキが発生。トヨタ系の豊田合成の天津工場でも賃上げストライキが発生する事態に至っている。
(殆どのスト決行企業では、企業側が賃上げをのみ、ストライキは収拾されているが、ストライキの報道が、日本では日系企業しか報道されていない。中国政府による報道規制が行われていることや、スト突入以前に賃上げを了承する企業が増加しているからである)
ストを決行した各企業の労働者側は「もし彼ら(ホンダ中国)のストライキが成功しなかったら、私たちも今回のように一致団結することはなかった」と述べているとされる。
経営者側にとって、中国での賃上げ要求問題が、急速に浮上しており、対応に慣れていく必要があると指摘する向きもある。「もし労働者の要求に応えることができなければ、社会的な安定が脅かされることになる」、今後3年で、賃金は14-17%上昇すると予測されている。
中国政府にとっても、中国ホンダのストは、中国共産党が政権掌握以来、中国の労働者の手によるストライキという歴史上の出来事となっている。
中国政府は、労働者が自発的に結成する労働組合を禁止してきたが、ホンダのストライキをきっかけに、労働者を代表する労働組合が誕生する時期が来ているのである。
一方、相次ぐ外資系のストライキに、中共中央政府直轄の労働組合「中華全国総工会」が6月4日、傘下にあるすべての労働組合に対し、外資系や台湾・香港資本などの非国営企業内で、労働組合を設立し、出稼ぎ労働者も組合への参加などを促進するように通達を出した。同時に、「各レベルの労働組合は党の主導のもとで運営される」「従業員への思想・政治工作を強化する」など、共産党の指導介入を強調。労働者の手による独立した組合が形成される動きに対して「中華全国総工会」(政府系労働組合)は、弱体化を警戒している。

<中国政府の動き>
これまで「ストライキ」に敏感だった中国当局は、中国ホンダの部品工場でのストライキについての新聞報道をトップ扱いさえ黙認した。しかし、6月に入り、広東省中山市で起きた3件目のホンダ中国系列工場のストライキに対し、当局は態度を180度方針を変え、国内メディアの報道禁止や、海外メディアを現場から追い出すなどの対応を取っている。
ホンダから始まったストライキは、ドミノのように南部の広東省から中国各地に拡大。広東省のほか、江蘇省や、江西省、上海市、陝西省などの各地へストライキは広がっている。政府共産系の「中華全国総工会」の労働組合では、こうした動きに対して既に押さえが効かなくなっているが現実。労働者側の要求には、賃上げだけではなく、政府系労組を解散して独立の労組設立の要求すら、ストライキの要求項目に入ってきており、中国政府に対して政治の難題を突きつけている。

<ストライキ拡大 中国政府>
 ファイナンシャルタイムズ(FT)は6月10日、もし、ストライキがこれからも続発するのであれば、ストライキに対する態度表明を避けてきた中国政府は、やむを得ず方針表明に追い込まれるだろうと報道している。
その理由を、
① 経済の改革者と一般国民は、増給を求める努力を、所得の不平等配分を縮小する第
一歩の成功とみなしている
② 企業側は、コストの上昇を心配している
③ 共産党の幹部は、集団抗議の発生を憂慮している。
「政府が労働法に基いてどう対応するのか、正念場になる」としているのである。
中国のこれまでの労働争議は、ここ数十年間、相当数の労働争議が発生していた。その多くは地域的な事件だったため、広範囲の民衆の目には届かなかった。事件の起因はほとんど、給与の未払いや、過酷な労働条件にあった。
しかし、ホンダでのストライキは新たな情勢であるとの認識で一致している。これらの労使紛争の起因は、殆ど賃上げだけの問題であり、たとえ運営が健全な工場でも、この種の労働争議は、内外資企業に関係なく発生する可能性がある。
上海師範大学の劉誠教授は、ホンダのストライキを「新しい形式で象徴的な事件だ」としている。中国政府の2008年版「労働法」の起草の顧問を務めた同氏は、フィナンシャル・タイムズに対して「長期にわたり給与が低く抑えられてきた」と指摘、「ついに爆発を引き起こした。労働者は自分たちの正当な権利を徐々に認識するようになり、関連の議論や研究もよく行われているためだ」と述べている。
労働者のこの認識を、共産党内部の一部関係者は重大な脅威と受け止めはじめている。その理由は、ストライキの連鎖は、政府系労働組合「中華全国総工会」のコントロール範囲外で、新たな労働組合の誕生を促すからである。労働者らは、携帯電話やメールなどを使って連絡を取り合い、最新の情報を入手。メールなどの連絡ですぐ集まり、現代の携帯電話やパソコン技術を駆使してストライキが拡がっている現実がある。

<動き出した情報規制、しかし限界か>
ストライキの拡大に対して、メディアを主管する共産党「中央宣伝部」は、6月第1週に中国国内メディアに通達を出し、各地のストライキおよび「富士康」の従業員連続自殺の報道禁止を命じた。昆山市の台湾系企業のストライキも、当局に報道を禁じられている。
 しかし、「ホンダと富士康は、私たちが見習う模範と力だ」とした新たなる労働争議は、拡大し続けており、政府も押さえ込むことは困難と見られている。
今回賃上げによるストが収拾されたとしても貧富の格差が大きい中国では、地方と都市間、労働者と特権階級、ブルーカラーとホワイトカラー間など多岐にわたる所得格差問題があり、今後、表面化し続けてくるものと思われる。また、こうした賃上げが経営を圧迫する恐れもあり、海外の進出企業の動向も注目される。
中国製品がコスト上昇で価格が高くなれば、国際競争力が減じ、経済成長が鈍化することや今や世界の製造基地化している中国発の世界インフレが進むことも考えられる。

以上、最近の報道により中国の労働事情を考察してみた。
 

[ 2010年6月21日 ]
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