アイコン 2010~2012年度経済見通し/日生 2011年は成長鈍化の1.9%

Ⅰ、2010年7-9月期は高成長も景気は足踏み状態に
1―2010年7-9月期は前期比年率4.5%の高成長
2010年7-9月期の実質GDP成長率は、前期比1.1%(前期比年率4.5%)と4四半期連続のプラス成長となり、4-6月期の前期比0.7%(前期比年率3.0%)からさらに加速した。

これまで景気の牽引役となってきた輸出の伸びが大きく低下し、外需寄与度は前期比▲0.0%と小幅ながら6四半期ぶりのマイナスとなったが、自動車、たばこの駆け込み需要などから民間消費が前期比1.2%の高い伸びとなり、成長率を大きく押し上げた。

また、企業収益の改善を背景に設備投資が増加した(前期比1.3%)ことに加え、住宅版エコポイント制度の効果顕在化などから住宅投資も増加に転じた(前期比1.2%)ため、国内民間需要は揃って堅調な動きとなった。

2―鉱工業生産は調整局面に7-9月期は実質GDPが高い伸びとなる一方、鉱工業生産指数は前期比▲1.8%と6四半期ぶりに低下した。
業種別には、設備投資の持ち直しを反映し、一般機械が前期比4.1%と5四半期連続で上昇したが、エコカー補助金終了前から減産体制に入っている輸送機械が前期比▲5.6%、在庫の積み上がりが顕著となっている電子部品・デバイスが同▲4.7%と急低下し、生産指数全体を大きく押し下げた。鉱工業生産指数は月次ベースでは6月から10月まで5ヵ月連続して前月比で低下している。

企業の生産計画を表す製造工業生産予測指数は、11月が前月比1.4%、12月が同1.5%の増産計画となっているが、10月の生産指数を11月、12月の予測指数で先延ばしすると、10-12月期の生産指数は前期比▲1.7%の低下となる。鉱工業生産が2四半期連続で減産となることはほぼ確実な状況となっている。

7-9月期は潜在成長率を大きく上回る高成長となったが、駆け込み需要という一時的な要因によるところが大きく、景気は実勢としては輸出の低迷を主因として足踏み状態にあると判断される。すでに、エコカー補助金終了後の反動減は顕在化しており、自動車販売台数は8月に駆け込み需要で急増した後、9月以降は急速に落ち込んでおり、11月の販売台数はリーマン・ショック直後を下回る水準となっている。10-12月期は輸出の低迷が続く中、駆け込み需要の反動減により民間消費が大きく落ち込むことが見込まれるため、マイナス成長に転じる可能性が高いだろう。

3―ヒストリカルDIからみた景気後退の可能性
(ヒストリカル:過去のデータに基づいて算出した将来の変動率、DI:業況判断指数)
2010年10-12月期は実質GDP、鉱工業生産がともに前期比でマイナスとなることが見込まれるため、景気がすでに後退局面入りしているとの見方が増えてくる可能性がある。

正式な景気基準日付は、主として景気動向指数(一致指数)のヒストリカルDIを用いて決定される。ここで、簡便的にヒストリカルDIを作成すると、一致指数11系列のうち、商業販売額指数(卸売業)、商業販売額指数(小売業)が4月、鉱工業生産指数、鉱工業生産財出荷指数、稼働率指数が5月、中小企業売上高が7月にピークをつけた可能性があり、この場合にはヒストリカルDIは8月に50%割れすることになる。つまり、現時点では2010年7月が景気の山の候補ということになる。

内閣府の景気動向指数研究会では、景気後退のひとつの条件として経済活動の収縮がある程度の期間持続することを挙げており、目安としては直前の谷が直前の山から5ヵ月以上経過していることとしている。このため、最短では、すでにピークアウトしている可能性がある系列が12月まで悪化を続けた場合に、事後的に景気後退と認定される可能性がある。

また、これまで足踏みから景気後退に至らなかったケースでは、景気動向指数のCI一致指数がほぼ横ばい圏の動きとなっていたが、今回はCI一致指数が9月に前月から▲1.2ポイント低下した後、10月は同▲1.4ポイントとさらに大きく落ち込んだため、量的な変化(深さ)についても景気後退の条件を満たしやすくなっている。

仮に、景気の低迷が今年度いっぱい続いた場合、たとえば実質GDP、鉱工業生産が2010年10-12月期に続き2011年1-3月期も前期比マイナスとなった場合には、景気は足踏みではとどまらず、すでに後退局面入りしていたということになる可能性が高くなる。遅くとも2010年度中に景気が持ち直しに向かうことが景気後退回避の条件と言えよう。

Ⅱ--------足踏み脱却の条件
1―輸出は2011年入り後、持ち直しへ
足踏み脱却の条件のひとつは、このところ減速傾向が鮮明となっている輸出が持ち直しに向かうことである。

最近の輸出変動を所得(海外GDP)要因、価格(為替)要因に分けてみると、当研究所が試算した海外経済の実質GDP(日本の貿易ウェイトで加重平均)は2009年度入り後伸びを急速に高め、2010年1-3月期には前期比年率10%を超える極めて高い成長となった。しかし、2010年4-6月期には年率3%台へと伸びが急低下した後、7-9月期は年率2%台へとさらに減速したとみられる。

一方、為替レートは2010年5月以降、円高傾向が続いており、足もとの円・ドルレートは2010年度初め頃と比べると10%程度の円高となっている。実質実効為替レートは水準的には1995年当時よりも3割程度円安となっているが、変化率で見れば対ドルレートと同様に2010年度初に比べて10%程度の円高となっている。足もとでは、所得要因、価格要因がともに輸出を押し下げる方向に働いている。

先行きの輸出を取り巻く環境を確認すると、米国経済は春頃からもたつきが続いていたが、このところ個人消費を中心に明るい動きが見られるようになっている。米国経済の成長ペースは過去の景気回復局面に比べれば緩慢にとどまる可能性が高いが、成長率は今後徐々に高まっていくことが予想される。

米国経済が持ち直しに向かう中、新興国経済が高成長を続けることが見込まれるため、海外経済全体では先行きも回復基調が維持されるだろう。また、米国の長期金利が上昇し始めたことで、円高・ドル安には歯止めがかかる兆しも見られる。今回の予測では、米国経済の持ち直しを背景に今後、円安・ドル高が進み2011年半ば以降は1ドル=90円台での推移が続くと想定した。

2010年10-12月期は既往の円高の影響から輸出はさらに減速し、GDPベースの輸出は前期比0.1%とほぼ横ばいにとどまり、外需寄与度は2四半期連続でマイナスとなるだろう。しかし、海外経済の回復が続く中、円高の是正が進むことにより、2011年入り後には輸出の伸びは徐々に高まり、再び景気の下支え要因となることが見込まれる。

2--------実質成長率は2010年度3.3%、2011年度1.6%、2012年度1.9%
1―3年連続のプラス成長を予想
2010年10-12月期は、輸出の低迷が続く中、反動減を主因として個人消費が大きく落ち込むため、前期比▲0.4%(年率▲1.5%)と5四半期ぶりのマイナス成長となることが予想されるが、2011年1-3月期には個人消費、輸出の持ち直しなどから前期比0.3%(年率1.2%)とプラス成長に復帰し、景気後退局面入りは回避されるだろう。実質GDP成長率は2010年度が3.3%、2011年度が1.6%、2012年度が1.9%と予想する。
実質GDPは2008年4-6月期から2009年1-3月期までの1年間で約10%落ち込んだ後、順調な回復を続けてきたが、依然としてピーク時(2008年1-3月期)よりも3%以上低い水準にとどまっている(2010年7-9月期)。
今回の見通しでは2010年10-12月期にマイナス成長となった後、2011年1-3月期以降は高めの成長を続けるが、実質GDPが元の水準に戻るのは2012年度末になると予想している。また、GDPデフレーターは2012年度まで下落が続き(2010年度:前年比▲1.9%、2011年度:同▲0.8%、2012年度:同▲0.1%と予想)、名目GDPの回復テンポは極めて緩やかなものにとどまるため、2012年度中に名目GDPが元の水準に戻ることはないだろう。

実質GDP成長率の予想を需要項目別に見ると、民間消費は複数の駆け込み需要と反動減に
よって大きく左右される展開が続くことが見込まれるが、年度ベースでは2010年度1.5%、2011
年度0.7%、2012年度0.8%と緩やかな回復が続くだろう。足もとの個人消費は駆け込み需要と反動減によって基調が見極めにくくなっているが、そうした中、雇用・所得環境が持ち直しを続けていることは個人消費の先行きを占う上で明るい材料と言える。

GDP統計の実質雇用者報酬は景気の底である2009年1-3月期に比べ3%増えており、前回、前々回の景気回復局面を上回る回復ペースとなっている。2011年度はエコポイント制度終了、地上デジタル放送への移行完了後にテレビを中心とした家電の反動減が懸念されるが、雇用・所得環境の改善による下支えが続くため、個人消費の腰折れは避けられるだろう。

住宅投資は、2010年度は前年比▲0.7%と6年連続の減少となるが、2011年度に同5.1%と7年ぶりの増加となった後、2012年度も同1.4%の増加となろう。住宅投資は長期にわたり低迷が続いてきたが、住宅版エコポイント制度や住宅ローン金利優遇策といった住宅購入支援策の効果から、このところ持ち直しの動きとなっている。特に効果が大きいと考えられるのは、2010年3月に始まった住宅版エコポイント制度で、同制度の申請数は着実な増加を続けており、新築分の2010年3月から10月までの累計は10.9万戸となった。これは2009年度の新設住宅着工戸数(77.5万戸)の15%程度に相当する。住宅版エコポイント制度は当初予定の2010年末から2011年末まで延長されることとなったため、当面の住宅投資を下支えすることが期待される。

設備投資は2010年度に前年比5.0%と3年ぶりに増加に転じた後、2011年度が同4.0%、2012年度が同5.2%と回復が続くと予想する。設備投資は2009年10-12月期以降、4四半期連続して前期比で増加しているが、円高の進展、輸出の減速に伴い景気の先行きに対する企業の見方が慎重化しているため、2010年度下期にはいったん伸びが鈍化する可能性が高い。2011年度に入り足踏み状態を脱した後は、企業の設備投資意欲も徐々に高まっていくだろう。

2―物価の見通し
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、マイナス幅の縮小傾向が続いており、2010年7-9月期に前年比▲1.0%となった後、10月にはたばこ、傷害保険料の値上げ(それぞれコアCPIを0.28ポイント、0.15ポイント押し上げ)などから下落幅は前年比▲0.5%まで縮小した。
しかし、先行きは円高や景気足踏みの影響からマイナス幅の縮小傾向はいったん足踏みとなる可能性が高い。コアCPIの上昇率がプラスに転じるのは、景気が足踏み状態を脱し、需給面からの物価下落圧力が弱まる中、世界経済の回復を背景とした原油価格の上昇、  
円安の進展に伴う輸入物価の上昇が国内物価に波及する2011年半ば以降となろう。コアCP
Iは2010年度の前年比▲0.8%の後、2011年度が同0.1%、2012年度が同0.5%と予想する。
なお、今回の消費者物価の予測は現在公表されている2005年基準の指数をもとに策定しているが、消費者物価指数は2011年8月(2011年7月分公表時)には2010年基準への切り替えが予定されている。

前回の基準改定(2000年基準→2005年基準)ではコアCPIの上昇率が▲0.5%ポイント程度下方改定されたが、総務省が参考指数として公表している連鎖指数(毎年ウエイトを前年の消費構造に基づいたものに改めて計算した指数)によるコアCPIの上昇率は足もとでは公式指数よりも▲0.4%ポイント程度低く、今回の基準改定でも前回と同程度の下方改定になる可能性がある。

今回の予測では、コアCPIの上昇率が前年比で1%に近づく2012年度末に政策金利(無担保コールレート、翌日物)を0.25%へと引き上げることを想定しているが、基準改定による下方改定幅が大きかった場合には利上げの時期が後ずれする可能性が高くなるだろう。

 

 

[ 2011年1月 4日 ]
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