政府が年内にも予定する安全保障関連3文書の改定に向け、自民党の提言がまとまった。焦点となったのは、防衛費のさらなる増額と、無人機や人工知能(AI)を活用した「新しい戦い方」への対応だ。2022年に策定された現行3文書で日本は反撃能力の保有を明記し、防衛政策の転換を進めてきた。今回の改定論議は、その延長線上で、防衛力の質と量を一段と引き上げる性格を持つ。
提言では、防衛費について北大西洋条約機構(NATO)加盟国が中核的防衛費を国内総生産(GDP)比3.5%へ引き上げる方針を示したことなどに触れた。ただ、日本としての具体的な数値目標は明記しなかった。党内では、対外的な抑止力を高めるため明確な目標を掲げるべきだとの意見がある一方、財源の裏付けがないまま数字を示せば、政府の予算編成を縛りかねないとの慎重論も根強かった。
防衛費は2027年度までの5年間で約43兆円を投じる現行計画が進んでいる。だが、無人機、AI、サイバー、宇宙、弾薬備蓄、施設の強靱化などを本格的に拡充すれば、次期計画では一段の増額が避けられない。防衛費は装備購入だけでなく、維持整備費、人件費、訓練費、燃料費などの恒常的な支出を伴う。増額の規模が大きくなれば、増税、国債、歳出改革のいずれで賄うのかが改めて問われる。
今回の提言で目立つのは、無人機やAIを軸とする戦闘様式の変化を「喫緊の課題」と位置づけた点だ。ウクライナや中東では、安価な無人機を大量に投入し、高額な戦車、防空システム、艦艇などを脅かす事例が相次いだ。ミサイルと無人機を組み合わせる複合攻撃は、迎撃側の負担を大きくし、従来の装備体系の限界を浮き彫りにしている。
日本にとっても、この変化は無関係ではない。南西諸島を含む島しょ防衛では、広大な海空域を少人数で監視・防衛する必要がある。有人機や大型艦艇だけに依存する体制では、コスト面でも運用面でも限界がある。無人航空機、無人水上艇、無人潜水機を組み合わせた多層的な防衛体制は、今後の防衛力整備の柱となる可能性がある。
ただ、課題は装備の導入にとどまらない。AI、通信、電子戦、サイバー防衛、衛星情報を一体で運用する能力がなければ、無人機は十分に機能しない。戦場で得た情報を即座に分析し、部隊運用に反映する仕組みも不可欠となる。従来のように長期の仕様策定を経て装備を調達する方式では、技術革新の速度に追いつけない恐れがある。
防衛産業への波及も大きい。重工、電機、通信、造船、電子部品、AI関連企業にとっては、新たな需要が見込まれる。一方で、防衛分野は高い機密管理や品質保証、サイバー対策が求められるため、参入できる企業は限られる。サプライチェーンの強靱化や民間技術の取り込みをどう進めるかが、産業政策上の論点になる。
自民党が今回、具体的な防衛費目標を見送ったことは、財政論争を先送りした面がある。だが、安保環境の悪化と戦闘様式の変化を踏まえれば、防衛費の増額圧力は今後も続く。政府は「金額ありきではなく中身が重要」と説明するが、無人機やAI、弾薬、継戦能力の整備を積み上げれば、結果として予算規模は膨らむ。
安全保障政策は、反撃能力の保有を決めた段階から、次の局面に入りつつある。焦点は、どれだけ多くの装備を持つかだけではなく、安価で柔軟な無人システムをどう組み込み、持続的に運用できる体制を築くかに移っている。年内の3文書改定では、防衛費の規模と財源、そして新たな戦闘様式に対応する産業・技術基盤の整備が問われることになる。