2023年は、テスラ対BYDのEV頂上戦でもある低価格戦争の口火が切って落とされた。今年第一四半期のテスラは値下げしても中国でマイナスとなり、世界でもマイナスとなっている。このEV戦争に中国のほかのEVメーカーが生き残りをかけ続々参戦してきている。
また、今年の第一四半期もEVの販売の増加率よりPHVの増加率が圧倒しており、ここでもPHVを10万元以内から販売車を持つBYDに強い追い風が吹いている。(BYDの10万元以下のモデルから、EVシーガル、EVドルフィン、PHV秦/BYDはEV用バッテリーメーカーでもある)
中国の3月の自動車販売は国内、輸出共に好調だった。
値引き合戦に支えられたと見られているが、この勢いは続くのだろうか。
情勢は昨年と異なり、EVには逆風が吹き始め、さらに新たな変数が加わり、今後は大混戦必至の情勢となっている。
<3月のデータと今後の見通し>
乗用車市場信息聯席会(乗聯会)によると、
3月の中国内販売は前年同月比6.0%増の168万70百台だった。
うち新エネ車(EV、PHEV、FCV)は同29.5%増の70万90百台、
中国内ブランドは同51%増の93万台、
外資系ブランドは同▲8%減の50台。
輸出は39%増の40万60百台で過去最高を記録した。
新エネ車は2月に月間ベースで初めて前年実績を下回ったが、すぐに回復した(春節との関係あり)。
乗聯会は、3月は様子見ムードが強かったとみている。
ユーザーは春節休暇前から続くセール合戦の成り行きと22年モデルのマイナーチェンジ状況を見極めていたようだ。
今後は新モデル投入を契機とし、消費熱は高まると考えている。
もう一つの業界団体、中国汽車流通協会は4月の乗用車市場について、おおむね順調に推移するとみている。
温暖な気候、各地で開催される春のモーターショー、話題の新モデルなどが好材料をもたらすだろう。
しかし、ディーラー各社は、需要の伸びは不十分と考え、前月比で若干の減少を予想している。
<政策支援>
政策支援が出てきた。国務院は3月、「大規模設備の更新と消費品の下取り・買い替え促進の行動方案」を通知した。
自動車、家電、キッチン、浴室などの耐久消費財のリニューアルを全国規模で敢行する。下取りし買い替えを促すことで、産業構造を近代化する。
自動車がこの政策の看板で、方案には「自動車の下取り・買い替えを展開する」と明記されている。中央政府は地方政府と連携し、廃車と買い替えを奨励する。金融機関は法令順守やリスクコントロールを前提に自動車ローンを合理的に決定する。融資条件を緩和する。大消費地である上海市、重慶市、山東省などが積極的に反応し、すぐに下取り関連の補助金政策を打ち出している。
ディーラーの42.5%はこれが第2四半期(4~6月)の販売にプラスになると答えている。
<新車攻勢>
さらに、4~7月に新車11車種が市場へ投入される。
値引きに加え、政策支援と新車攻勢が新たな変数として加わった。以下に話題の新車を取り上げたい。
<シャオミ「SU7」>
スマホ大手シャオミ(小米)は2021年、IoTシステムのラストピースを埋めるためと称し、自動車生産に乗り出すと宣言した。あれから3年が経過し、初のEV「SU7」の発売に漕ぎ着けた。
「SU7」は、クーペ風のスタイリッシュなセダンで、価格は21万59百元(約453万円)から。車載電池トップCATL(寧徳時代新能源科技)の最新型の三元系リチウムイオン電池「麒麟電池」を採用し、炭化ケイ素(シリコンカーバイド)を用いた超級400V高圧プラットフォームにより、一般条件下での航続距離は700キロで、テスラの「Model 3」より130キロ長い。
最上級モデルでは800キロも可能。15分で350キロ分を充電できる。これも「Model 3」より100キロ長い。最上級モデルでは800Vプラットフォームで同じく15分で510キロ分が充電可能。
シャオミ創業者兼最高経営責任者(CEO)の雷軍氏によると、「SU7」の開発に100億元(約2100億円)を投資。「SU7」は最初の5日間で1073台を納品し、受注残は10万台を抱えている。雷氏はこれを「予想の3~5倍の成功」と称した。雷氏の知名度やマーケティングの巧みさが大きく貢献したようだ。
<固体電池搭載車「智己L6」=「光年固体電池」>
もう一つの話題の新車は智己汽車(IMモーターズ)の「智己L6」。
智己汽車は、2020年に上海汽車(国有最大の自動車企業)、張江高科(上海でハイテクパーク運営)、アリババが共同して設立。2023年に純EVのSUV「LS7」と大型セダン「L7」を発売した。第3弾のクーペ風セダン「L6」は今年5月中旬に発売予定で、価格は23万元(約483万円)からとシャオミの「SU7」とほとんど変わらない。
「L6」の売りは、世界初の量産型固体電池搭載。これまでに比べ、
出力は30%アップ、
0→100キロ加速は2.7秒、
航続距離は1000キロ。
電池重量は▲25%軽量化、
急速充電可(高圧電力の急速充電所と高電圧に対応できる車両)
といいことずくめだが、コストは高い。
この電池は上海汽車がバックアップする青島清淘というベンチャーが開発し、「光年固体電池」と名付けられた。
これまでの半固体電池とは一線を画したとしているが、固体か半固体か、業界では激しい論争が続いている。
BYDとメルセデス・ベンツの合弁企業「騰勢(DENZA)」の幹部は、現時点で半固体電池を推進している人たちは言葉遊びをしているだけだと断じた。
全固体へ一歩近づいたというのが実態だろう。
とはいえ、インパクトは大きかったようで、予約注文は最初の23時間で1万台を突破した。
<消耗戦の先には>
新車11車種の中に唯一の日本車、7月中旬発売予定のトヨタ新型「プラド」がある。生産は一汽トヨタで、2.4Lエンジン+モーターからなる得意のハイブリッド車。予定価格は47万~57万元(約987万~1197万円)と発表され、予約注文の受付を開始すると、わずか1時間で5000台を突破、1000万円クラスでこの数量はヒットといえる。
これらインパクトの強い話題の新車は、絶好調だが、それ以外の車種は値引きや補助金頼みの消耗戦となる。
ディーラーはそれを覚悟しているがゆえに、慎重姿勢を崩さない。
また、政府の企図した産業リニューアルも簡単ではない。
EVの値崩れが激しく、これが中古車市場のみならず、市場全体に悪影響を与えているという。激しい消耗戦により、倒れる企業が出るのは確実。そして、その先は見えてこない。
以上、レコードチャイナ等参照
スクロール→
中国の自動車販売状況(商用車含む)
|
|
3月
|
2月
|
1月
|
販売総数
|
千台
|
前年比
|
千台
|
前年比
|
千台
|
前年比
|
2,694
|
9.9%
|
1,584
|
-19.9%
|
2,439
|
47.9%
|
中国のメーカー別販売状況 トップ10
|
2024年
|
3月
|
2月
|
1月
|
千台
|
前年比
|
千台
|
前年比
|
千台
|
前年比
|
BYD
|
260
|
35.4%
|
119
|
-32.8%
|
207
|
48.0%
|
一汽VW
|
141
|
-4.2%
|
85
|
-23.4%
|
162
|
45.4%
|
吉利
|
114
|
28.9%
|
87
|
-3.7%
|
187
|
115.9%
|
長安
|
105
|
10.9%
|
87
|
-7.9%
|
190
|
59.9%
|
上汽VW
|
87
|
3.9%
|
63
|
-14.3%
|
115
|
42.7%
|
奇端
|
75
|
62.6%
|
57
|
45.9%
|
107
|
160.2%
|
上汽通用五菱
|
68
|
3.1%
|
55
|
-28.3%
|
76
|
46.9%
|
テスラ
|
62
|
-18.6%
|
|
|
|
|
北京ベンツ
|
61
|
22.2%
|
|
|
|
|
一汽トヨタ
|
58
|
-7.2%
|
|
|
70
|
59.4%
|
唐風ホンダ
|
|
|
|
|
76
|
217.1%
|
広汽トヨタ
|
|
|
43
|
-35.4%
|
72
|
17.6%
|
華シンBMW
|
|
|
40
|
-19.3%
|
|
|
東風日産
|
|
|
39
|
-31.4%
|
|
|
日本勢の中国販売、輸入車含む
|
トヨタ
|
132
|
-3.1%
|
83
|
-35.7%
|
158
|
39.2%
|
ホンダ
|
60
|
-26.3%
|
45
|
-38.6%
|
100
|
57.3%
|
日産
|
60
|
10.0%
|
41
|
-30.3%
|
65
|
37.9%
|
新エネ車ほか販売状況
|
2024年
|
3月
|
2月
|
1月
|
千台
|
前年比
|
千台
|
前年比
|
千台
|
前年比
|
EV
|
566
|
15.5%
|
294
|
-21.8%
|
445
|
55.1%
|
PHV
|
317
|
95.1%
|
183
|
22.4%
|
284
|
135.0%
|
FCV
|
0.2
|
-52.2%
|
0.2
|
370.0%
|
0.4
|
133.3%
|
新エネ小計
|
883
|
35.3%
|
477
|
-9.2%
|
729
|
78.8%
|
ほか従来車
|
1,811
|
|
1,107
|
|
1,710
|
|
合計
|
2,694
|
9.9%
|
1,584
|
-19.9%
|
2,439
|
47.9%
|