
2025年に入り、企業倒産の件数がじわじわと増加傾向にある。注目すべきは、それが一部の業種や地域にとどまらず、業界全体に広がる“静かな危機”として進行している点だ。背景には、個々の企業努力では抗いきれない複合的かつ構造的なリスク要因が横たわっている。
第一に挙げられるのが需要の低迷だ。特に消費関連産業では、物価高による実質所得の目減りが個人消費を直撃しており、飲食、アパレル、レジャーといった業態では売上回復の足取りが重い。ウィズコロナの反動需要が一巡し、再び節約志向が強まる中で、既存のビジネスモデルに依存する企業ほど苦境に陥っている。
次に深刻なのがコストの高騰である。エネルギー価格の高止まりや円安による輸入原材料費の上昇が、製造業や物流業を中心に経営を圧迫している。価格転嫁が可能な大企業に比べて、取引構造上、値上げが難しい中小企業は「売っても赤字」の状態に追い込まれている。加えて、金利上昇の影響も無視できない。金融緩和の修正により借入負担が増す中、資金繰りの綱渡りが続く企業は少なくない。
さらに、規制強化の波も企業経営にのしかかる。たとえば建設業界では、時間外労働の上限規制により人手不足が深刻化し、案件の受注を絞らざるを得ない状況が生まれている。環境規制も一層厳しさを増し、対応に遅れる企業は市場からの退出を余儀なくされるリスクを抱えている。
こうした三重苦の中で、経営破綻に至る企業の多くは、「市場そのものの縮小」「急激なコスト増」「制度変更への対応力の差」という構造的問題に直面している。単なる景気の波とは異なり、これは産業構造の歪みと企業の変化対応力の限界が露呈した結果だ。
今後のカギは、こうしたリスクへの“先読み”と“再設計”にある。行政によるセーフティネットも重要だが、それ以上に求められるのは、企業自身が環境変化を前提とした柔軟なビジネスモデルへと転換できるかどうかだ。
倒産は経済の「最終警告」とも言える。業界ごとの声なき警鐘に、社会全体でどう耳を傾けていくかが問われている。