アイコン 第5話:県庁の灯りは消えない

Posted:[ 2025年11月13日 ]

大石県知事 広告

県庁は昼に語り、夜に決まる。
午後10時。
廊下の蛍光灯は半分だけ灯り、残った光は
迷いと企みを均等に照らす無機質な白だ。
執務室の扉が静かに閉じられた。
音は小さいが、退路を断つ音だった。
県護は机に指を組んだまま動かない。
視線は資料ではなく、壁の一点にあった。
そこに未来があるように見えるのではない。
未来を計算する者は、視界を必要としないからだ。
机上の携帯が震える。
光だけが淡く跳ねた。
画面には名前はない。

 



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数字の羅列だけ。
「……話せ」
声は抑え、低く、
“揺れていない”ことを示すための温度だ。
受話器越しの声は、砂のように乾いている。
『明日の会合、三人外れる』
「理由」
『明言なし。ただ、勝馬に乗りたい、様子見の空気を装っている』
「装っている?」
『本心は——負け戦には参加したくない』
沈黙。
計算が走る。
反応はしない。
正確な温度を保つために。
「補填は」
『可能。ただし、条件が一つ』
「言え」
『噂を、流す』
「誰が発信源になる」
『匿名。出所不明。
“県内の主要議員が再考している”という筋書き』
県護はわずかに時計を見る。
針は真上を指し、動きを見せない。
時間も、従わせる対象。
「やれ」
声は薄い。
意志を示す最低限だけ。
『……了承した』
通話が切れる。
静寂が戻る。
その静寂に、
怒りも焦りも意味はない。
感情は判断を曇らせる贅沢だ。
ペンが置かれる。
一本の線が、書類に引かれた。
その線は、
人ではなく、可能性を切り捨てる線だった。
外の街灯が遠くに瞬く。
港の風は動かない。
だが、動かないと見せる風ほど信じられないものはない。
県護は立ち上がり、
ジャケットを整え、
部屋の灯りを消す。
廊下の薄い光が、影を伸ばした。
夜はまだ終わらない。
権力の呼吸は、静かで長い。
そして扉が閉まる。
県庁の灯りは消えない。
眠らないのではない。
油断しないのだ。

金子

そして静かに政界の影法師、“幻治郎”が動く。

JC-net・日刊セイケイ編集長・中山洋次
 

 


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