マッチングアプリが結婚や交際相手を探す主要な手段として定着する一方、その利用者を狙う犯罪や悪質商法も拡大している。恋愛感情を利用して投資へ誘うロマンス詐欺だけでなく、仕事の紹介を装った高額契約、飲食店への誘導、偽造書類による本人確認の突破など、手口は複雑化している。
前編でみたように、国内市場は会員数を競う拡大期から、安全対策やAI開発に投資できる企業が生き残る選別期へ入りつつある。その背景には、単なる利用者同士のトラブルでは済まされない、犯罪の入り口としての問題がある。

マッチングアプリ市場、拡大から淘汰へ(2) ロマンス詐欺と高額勧誘、本人確認の死角マッチングアプリが結婚や交際相手を探す主要な手段として定着する一方、その利用者を狙う犯罪や悪質商法も拡大している。恋愛感情を利用して投資へ誘うロマンス詐欺だけでなく、仕事の紹介を装った高額契約、飲食店への誘導、偽造書類による本人確認の突破など、手口は複雑化している。
前編でみたように、国内市場は会員数を競う拡大期から、安全対策やAI開発に投資できる企業が生き残る選別期へ入りつつある。その背景には、単なる利用者同士のトラブルでは済まされない、犯罪の入り口としての問題がある。

警察庁が公表した2025年の確定値によると、SNS型ロマンス詐欺の認知件数は5645件、被害総額は546億4000万円に達した。前年と比べ、件数は47.6%、被害額は36.3%増加している。
当初の接触に使われたサービスでは、マッチングアプリが全体の32.7%を占めて最多となった。Instagramが22.8%、Facebookが18.6%で続く。被害者は40~60代が全体の75.6%を占め、暗号資産を送らせる手口も急増した。546億4000万円はSNSなどを含むロマンス詐欺全体の被害額であり、マッチングアプリだけの被害額ではない点には注意が必要である。
典型的な手口では、アプリ上で知り合った相手が日常的なメッセージを重ね、恋愛や結婚を意識させる。信頼関係ができた段階で、「二人の将来のため」「親族が投資に詳しい」などと持ちかけ、暗号資産や架空の投資サイトへ資金を送らせる。
偽の取引画面には利益が増えているように表示されるが、出金を求めると税金、保証金、解除手数料などの名目で追加送金を要求される。被害者が不審に思った時には、相手と連絡が取れなくなっている場合が多い。
アプリで「経営者」を演じ、大学生を高額契約へ
恋愛目的を装い、若者を高額な契約へ誘導する事例も確認されている。消費者庁は2026年6月、マッチングアプリをきっかけにコンサルティング契約を勧誘し、消費者金融から高額な借り入れをさせていたとして、合同会社PLANETに関する注意喚起を公表した。
消費者庁によると、主な対象は大学生などの若者だった。勧誘者はアプリ上で年上の経営者を名乗り、実際に会うと、自らの挫折や成功体験を語ったうえで、相手の夢や将来の目標を聞き出していた。
相手が「海外留学をしたい」「将来成功したい」などと答えると、「営業の仕事を学べる場所がある」「契約を1件取れば15万円程度の収入になる」などと説明し、事業者との面談へ誘導していた。
面談では、仕事を始めるために必要だとして、50万~150万円のコンサルティング契約を提示。「誰でも契約を取れる」「支払額を上回る収入を確実に得られる」などと説明し、複数の消費者金融から借金をさせていたという。
借入申請の際には、職業や年収について事実と異なる説明をするよう指示された事例もあった。契約後の研修では、今度は自分がマッチングアプリを使って新たな消費者を勧誘するよう促されていた。被害者が次の勧誘者となる、連鎖的な仕組みである。
この事例が示したのは、本人確認書類を提出させるだけでは、プロフィールの内容まで保証できないという現実である。
消費者庁の調査では、勧誘者の中に年齢、職業、年収を偽っていた者がいたほか、マッチングアプリ事業者に虚偽の身分証や源泉徴収票を提出していた事例も確認された。
顔写真付きの書類が登録されていても、その書類が真正なものか、記載された勤務先や年収が現在も事実かまでは、通常の確認だけでは判断しにくい。公的証明書を提出したという表示が、相手の職業、収入、独身状態、利用目的まで保証するわけではない。
警察庁が示す出会い系サイト規制法の施行規則では、対象となる事業者に対し、利用者が18歳未満の児童でないことを確認する方法が定められている。運転免許証などの年齢・生年月日部分、マイナンバーカード、クレジットカード決済などによる確認である。
しかし、法律に基づく年齢確認と、利用者が期待する「身元保証」には大きな差がある。一般的な年齢確認だけでは、次の事項までは保証されない。
利用者から見れば、身分証確認済みの表示は相手の信頼性を示すように映る。しかし、制度上確認された内容が年齢に限られる場合、表示から受ける印象と実際に保証される範囲が一致しないことがある。
投資やコンサルティングだけでなく、実際の待ち合わせ場所へ誘い出して金銭を要求する事件も相次いでいる。
2026年7月、マッチングアプリで知り合った20代男性を東京都渋谷区のバーへ誘い、飲食代や賠償金などとして720万円相当をだまし取った疑いで、詐欺グループのトップとされる男が逮捕された。
報道によると、女性役が男性を店舗へ連れて行き、不当な飲食代などを請求。男性を監視した状態でキャッシュカードの利用限度額を引き上げさせ、現金を引き出させたほか、クレジットカードで貴金属を購入させた疑いが持たれている。容疑者は報道時点で容疑を否認しており、有罪が確定した事件ではない。
大阪でも、マッチングアプリで知り合った女性が男性をバーに見せかけたレンタルスペースへ誘い、飲食代などの名目で約1000万円を支払わせたとされる事件が摘発された。警察は、役割を分担するグループによる犯行とみて捜査している。
警視庁も、出会い系アプリで知り合った女性に誘われて飲食店へ行き、法外な料金を請求される事案について注意を呼びかけている。
従来のぼったくりは、繁華街の客引きが通行人を店舗へ連れ込む手口が中心だった。マッチングアプリを使えば、店舗側は年齢、居住地域、職業、趣味などを見ながら標的に接触できる。恋愛目的の待ち合わせだと思わせるため、路上の客引きよりも警戒されにくい。
多くのロマンス詐欺や悪質勧誘では、最初の接触だけにマッチングアプリを使い、その後はLINEなど外部の通信手段へ移る。
アプリ内であれば、運営会社は不審な単語、送金要求、外部サイトへの誘導、同じ文章の大量送信などを検知できる。通報を受けてアカウントを停止し、同じ端末や本人確認情報を使った再登録を防ぐことも可能である。
しかし、利用者が外部サービスへ移った後の会話を、アプリ運営会社が確認することはできない。AIによる監視を強化しても、犯罪者が早い段階でLINEへ誘導すれば、安全対策の範囲外となる。
運営会社が外部連絡先の交換を全面的に禁止すれば、実際に交際へ進む利用者の利便性を損なう。自由な連絡と犯罪防止をどう両立するかは、技術だけでは解決しにくい問題である。
本人確認を厳格にすれば、不正登録の防止には役立つ。一方、運転免許証、パスポート、顔写真などを大量に保管することで、事業者自身がサイバー攻撃の標的となる。
マッチングアプリ「Omiai」では2021年、不正アクセスを受け、2018年1月から2021年4月までに提出された171万1756件分の年齢確認書類画像が流出したことが確認された。
対象には運転免許証、健康保険証、パスポート、マイナンバーカード表面などが含まれていた。安全性を確保するために集めた情報が、流出すればなりすましや二次被害に利用されかねないという矛盾が表面化した事例である。
現在は、身分証の画像を長期間保存する方式から、ICチップや顔認証を使って必要な情報だけを確認する方式への移行が進んでいる。それでも、取得する情報の範囲、保存期間、委託先の管理、退会後の削除基準などは、事業者ごとに検証する必要がある。
大手各社は、同じ写真を使った複数登録、不自然なメッセージ送信、投資や副業に関する誘導、短時間での大量接触などをAIで検知し、悪質な利用者を早期に排除する取り組みを進めている。
エニトグループは2026年7月、愛知県警と連携したロマンス詐欺対策が評価されたとして、取り組みの内容を公表した。同社は「with」と「Omiai」で、AIによる悪質利用者の検知、強制退会、専任者による手口の分析などを実施している。
ただし、正常な恋愛会話と詐欺師による関係構築は、初期段階では見分けにくい。投資や送金の話が出るまで数週間から数カ月かける相手もおり、短いメッセージだけで犯罪目的と断定することは難しい。
検知を厳しくしすぎれば、一般利用者のアカウントを誤って停止する可能性もある。犯罪者の排除と、利用者の表現や通信の自由との間で、運営会社は難しい判断を迫られる。
マッチングアプリの問題を、悪質な利用者が一部に紛れ込んでいるだけと捉えるのは十分ではない。アプリには年齢、居住地域、職業、趣味、結婚への意欲など、犯罪者が標的を選ぶために有用な情報が集まっている。
恋愛や結婚を望む利用者は、相手との関係を壊したくないという心理から、不審な要求を断りにくくなる場合がある。詐欺グループや悪質事業者にとって、アプリは相手の属性と心理状態を見ながら接触できる営業・勧誘の場にもなり得る。
本人確認は、登録者が一定の書類を持つ人物であることを確認する手段であって、その人物が誠実であることを保証する制度ではない。書類の偽造、アプリ外への移動、複数人による役割分担、対面後の脅迫まで組み合わされれば、単独の安全機能だけで防ぐことは難しい。
今後、マッチングアプリ運営会社には、年齢確認だけでなく、顔認証、端末情報を使った再登録防止、不審メッセージの検知、警察や消費生活センターとの情報共有、本人確認データの削除・保護など、複数の対策が求められる。
これらは多額の開発費と継続的な人件費を必要とする。会員数と課金収入の少ない事業者にとっては重い負担となり、安全対策への投資力が市場からの退出を左右することになる。
市場拡大の裏側で、犯罪者もアプリを利用した手口を進化させている。マッチング精度を高めるAIだけでなく、悪質利用者を早期に排除するAI、被害情報を共有する仕組み、取得した個人情報を守る管理体制まで整備できるか。マッチングアプリ市場の次の勝敗は、「出会える人数」ではなく、「安心して会える環境」をどこまで保証できるかで決まりそうだ。
※逮捕・捜査中の事件については、報道時点の容疑に基づいて記載しており、有罪が確定したものではありません。