トヨタグループの源流企業である豊田自動織機を巡るTOB(株式公開買い付け)が、単なるグループ内再編を超えた構造問題として注目を集めている。
買い手側はトヨタ自動車。一方で強く異議を唱えているのが米アクティビストのエリオット・マネジメントだ。争点は価格だけではない。日本型の持ち合い経営と、グローバル資本市場の規律が正面からぶつかっている点に本質がある。
なぜ「1.8万円」と「2.6万円」で評価が割れるのか
最大の対立軸は、資産価値の見方だ。
トヨタ側は、将来キャッシュフローや市場株価を基礎とした一般的なバリュエーション手法を採用し、一定のプレミアムを加えた水準を提示している。事業継続を前提とした実務的評価といえる。
これに対しエリオット側は、豊田自動織機が保有するトヨタ株などの含み益に着目する。保有株式をすべて時価評価すれば理論価値は大きく跳ね上がるはずだ、という「清算価値」的アプローチである。
親子上場構造の下で、織機の時価総額が保有資産価値と必ずしも一致しない点は、アクティビストにとって典型的な論点だ。資産を抱え込む企業は「ディスカウント」を受けやすい。そこを突くのが今回の戦略とみられる。
トヨタが価格引き上げを拒む理由
トヨタ側は買付期間を延長しながらも、大幅な価格引き上げには応じない姿勢を示している。背景には三つの事情がある。
第一に、前例回避だ。もし要求を全面的に受け入れれば、将来のグループ再編で同様の要求が連鎖的に発生する可能性がある。トヨタグループにはデンソーやアイシンなど中核企業が控える。再編コストの膨張は経営上のリスクとなる。
第二に、ガバナンスの正当性維持だ。「不当な吊り上げには応じない」という姿勢を示すことで、提示価格が公正だというロジックを守ろうとしている。
第三に、代替戦略の存在だ。仮にTOBが不成立でも、市場での段階的買い増しや持ち合い株の整理など、時間をかけた資本効率改善策に切り替える選択肢が残されている可能性がある。
日本市場全体への波及
今回の攻防は、他の上場企業にも無関係ではない。
まず、東証が要請するPBR1倍割れ対策との関係だ。資産を多く抱え込みながら低評価に甘んじる企業は、外部株主からの圧力を受けやすくなる。
次に、持ち合い解消の加速である。従来の「安定株主」構造は、資本効率を重視する市場環境の中で再検証を迫られている。
さらに、TOB価格の透明性や少数株主保護の在り方も問われる。M&A指針の運用がより厳格に見られることは確実だ。
今後の焦点
現状の力学を前提にすれば、TOBが不成立となる可能性は低くない。不成立となった場合、エリオットは株主提案や資産売却要求など次の手を打つ公算がある。一方トヨタは、創業100周年という節目を前に、源流企業の位置づけをどう整理するのか、戦略の再設計を迫られる。
今回の事案は、日本最大級の企業グループであっても、身内の論理だけでは資本市場を説得できない局面に入ったことを示す象徴的な出来事だ。持ち合い経営の再定義は、トヨタだけの問題ではない。