
全日本空輸(ANA)が、2026年10月から静岡空港発着の札幌・沖縄路線を運休する。これにより、ANAは静岡空港から事実上撤退する形となる。単なる不採算路線の整理ではなく、日本の航空ネットワークが大きな転換点に入ったことを象徴する動きだ。
■ 人手不足と機材制約が迫る「選択と集中」
ANAが撤退を決めた最大の要因は、赤字そのものよりも、リソース不足の深刻化にある。操縦士や整備士、地上要員の不足は業界全体の課題で、限られた人員をどこに振り向けるかが経営を左右する。
ANAにとっては、羽田発着の国内幹線や需要が急回復する国際線こそが優先順位の高い路線だ。静岡路線に機材と人員を配置し続けるより、収益性の高い路線へ振り向けた方が、全社的な利益率は大きく改善する。今回の判断は、その冷徹な合理性を反映している。
■ 静岡空港が抱える構造的ハンディ
静岡空港は2009年の開港以来、営業赤字が続いてきた。背景には立地上の制約がある。
静岡県は東に羽田空港、西に中部国際空港という巨大ハブ空港に挟まれている。さらに東海道新幹線が県内に多数停車するため、東京・大阪方面では航空機の優位性が発揮しにくい。結果として、航空需要は北海道や沖縄などの観光路線に限定され、近隣空港との競争にさらされてきた。
■ FDA優位が鮮明に、競争環境は変化
静岡空港を拠点とするのが、鈴与グループ系のフジドリームエアラインズ(FDA)だ。FDAは小型機を用いることで、地方路線でも高い搭乗率を確保しやすい。一方、ANAは中型機中心で、同じ路線でもコスト構造が不利だった。
ANA撤退により、静岡空港の国内線は事実上「FDA一強」となる。利用者にとっては、ANAマイルが使えなくなるほか、競争低下による運賃高止まりへの懸念も残る。
■ 地方自治体に突きつけられた現実
鈴木康友知事が「残念」と述べた背景には、地方空港を維持する自治体の危機感がある。多くの地方空港は補助金や着陸料減免で路線を支えてきたが、大手航空会社が「補助があっても撤退する」判断を下したことは、他地域にとっても重い前例となる。
大手キャリアの就航は、地域の信用や企業誘致にも直結する。「ANAが飛ばない空港」という事実が、地域ブランドに与える影響は小さくない。
■ 航空ネットワークの再編が本格化
今回の撤退は、「大手航空会社が地方空港を網の目のように結ぶ時代」の終焉を示している。今後は、
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大手(ANA・JAL): 幹線・国際線に特化
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地域航空・LCC: 地方路線や観光需要を担う
という役割分担が一段と明確になるだろう。
静岡空港にとっては、FDAとの連携深化やインバウンド向け国際線チャーターの誘致など、新たな戦略が不可欠となる。ANA撤退は、地方空港の生き残りを巡る競争が、次の段階に入ったことを示している。