2026年の米国市場は、経済指標以上に「統治機構の衝突」に揺れている。トランプ第2次政権が打ち出した関税政策に対し、最高裁がブレーキをかけたことで、行政と司法の緊張が一気に顕在化。さらに大統領側が別の通商法を持ち出して対抗したことで、市場はドル売り・債券買いへと傾いた。そこにAI(人工知能)投資の過熱と産業構造変化への不安が重なり、ボラティリティは急上昇している。

「司法 vs 行政」関税を巡る憲法的攻防
最高裁は、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税を「権限逸脱」と判断。事実上、大統領の独走に歯止めをかけた形だ。だがトランプ氏は、1974年通商法122条を根拠に、国際収支赤字を理由とする最大15%・150日間の期間限定関税を即時発動可能と主張。10%から15%への引き上げ示唆も飛び出し、恒久的な高関税を狙う意図が透ける。
市場の本質的な懸念は、関税水準そのものよりも「別法を持ち出すいたちごっこ」による政策の予見可能性の低下だ。制度の安定性が揺らぐとき、資本は安全資産へ退避する。
株式市場の異変:AIバブルに影
金融株やソフトウェア株が急落した背景には、AI投資の副作用がある。AIは生産性向上の切り札と期待される一方、既存ビジネスの収益構造を急速に侵食する可能性を秘める。加えて、高関税がインフレ圧力を強めれば、テック企業の巨額設備投資やデータセンター関連コストは上昇する。関税とAIの「ダブルパンチ」が評価修正を促している。
地政学カード:対イラン交渉の思惑
原油価格が弱含んだのは、トランプ氏側近によるイラン代表団との会談報道が緊張緩和と受け止められたためだ。核問題での譲歩と制裁解除を組み合わせる「グランド・バーゲン」の可能性が市場を和らげた。ただし、関税による世界景気減速懸念が残る限り、原油相場は不安定さを免れない。
日本への波及:為替・輸出・倒産動向
ドル安・円高が進み、1ドル=154円台に接近。輸出企業には逆風だが、エネルギーや原材料の輸入コストは低下する。仮に米国の15%関税が発動されれば、自動車や建機、部材関連の対米輸出に影響は避けられない。輸出依存度の高い中小企業の資金繰り悪化が、建設・製造分野の倒産動向に波及するシナリオには警戒が必要だ。
一方、金(ゴールド)は1オンス=5200ドル超と歴史的水準へ。通貨や政策への不信が資産保全需要を押し上げている。
今回の局面は、単なる関税問題ではない。司法と行政の緊張、AIがもたらす産業再編、地政学ディールという三層が同時進行する「制度リスクの時代」を映す。市場が問うているのは、関税率ではなく、統治の安定性そのものだ。