函館寅沢ウインド合同会社は7月23日、函館市寅沢町付近の道有林で計画していた大型風力発電施設の建設を見送ると発表した。同社は理由について「事業性を総合的に考慮した結果」としている。
計画地は新中野ダム東側の道有林約1000ヘクタールで、最大11基の風車を建設し、最大総出力4万7300キロワットの発電施設を整備する計画だった。2031年4月に着工し、2035年1月の営業運転開始を予定していた。
同社は4月10日に環境影響評価方法書を公開し、5月29日まで住民らから意見を受け付けていた。しかし、計画地が水源涵養保安林に含まれることから、水質の悪化や洪水、土砂災害の危険性、森林伐採による生態系への影響などを懸念する声が相次いだ。
風車の設置だけでなく、資材運搬や維持管理に必要な道路建設、土地造成による森林の分断も問題視された。低周波音による住民の健康への影響を不安視する意見も出ていた。
市町会連合会は大泉潤市長に対し、住民の理解を得ながら事業を進めるよう求める要望書を提出。市民団体「函館の水源と生態系を守る会」は計画撤回を求める署名運動を展開し、3万筆を超える署名を市に提出した。
函館市議会も6月定例会で、計画の白紙撤回を含む再考を求める決議案を全会一致で可決した。決議では、事業について「民間投資ビジネスの性格が強い」としたうえで、災害リスクなどの不利益だけを地域住民に負わせる恐れがあると指摘していた。
事業者は見送りの具体的な理由を明らかにしておらず、住民反対や環境問題が直接的な撤退理由だったかは確認できない。ただ、水源林での開発に伴う追加調査や許認可、住民説明、設計変更などが必要となれば、事業費の増加や工期の長期化につながる。
市議会の全会一致による再考要求と大規模な署名運動によって、地域の合意形成が困難になったことも、事業性を判断するうえで無視できない要素となったとみられる。
計画見送りを受け、守る会の田柳恵美子共同代表は、早い段階での決定に安堵を示したうえで、函館市に対し、環境や災害リスクの高い地域での開発を規制するゾーニング条例などの検討を求めた。
大泉市長は「事業者が市民の不安や懸念を重く受け止めた結果であると捉えている」とコメントした。
今回の計画見送りは、再生可能エネルギー事業であっても、立地場所の妥当性や防災、水源、生態系への影響について地域の理解を得なければ、事業継続が難しくなることを示した。
今後は、個別の計画が持ち上がるたびに対応するのではなく、開発を抑制する区域と再生可能エネルギーを誘導する区域をあらかじめ定める制度づくりが課題となる。