札幌市は2026年10月28日、今冬の雪対策事業を発表した。2026年度の除雪費予算は約286億円と過去最大となり、市内の生活道路約2,600kmで、市が費用を全額負担する除排雪の試験施工を実施する。
対象は市内の生活道路の約7割。これまで市と町内会が費用を分担してきた「パートナーシップ排雪」に代わり、市主体で作業を行う新たな方式を検証する。
ただし、地域の費用負担がなくなる一方、従来のパートナーシップ排雪より道路脇に残す雪は多くなる。市は作業量を抑えながら、車両や歩行者の通行に必要な道路環境を確保する方針だ。
札幌市では除雪従事者の高齢化や担い手不足、労務費の上昇が課題となっている。今回の試験施工は単なる排雪費用の負担変更にとどまらず、今後の除排雪体制や建設業者の作業方法を見直す取り組みとなる。
除排雪費286億円、前年度から約1.3億円増加
札幌市の2026年度当初予算では、除雪費に286億1,082万円余りを計上した。前年度当初予算の284億8,373万円余りから約1億2,709万円増え、過去最大となった。
労務費や機械経費の上昇などが背景にあり、市は限られた財源と作業人員で除排雪体制を維持する必要に迫られている。
2026年度当初予算の内訳では、道路除雪費が約227億円、雪対策関係費が約59億円。道路除排雪に加え、融雪施設の整備、老朽化した雪処理施設の更新、ICTを活用した作業の効率化なども進める。
2026年10月28日に発表された今冬の取り組みでは、生活道路の除排雪方式の見直しを大幅に拡充することが柱となった。
生活道路2600kmを市負担に、東区など5区は全域対象
新たな試験施工では、札幌市が生活道路の除排雪作業を主体的に実施し、対象路線について町内会などの地域負担をなくす。
対象延長は約2,600kmで、市内の生活道路全体の約7割に相当する。
東区、厚別区、清田区、西区、手稲区の5区では、対象となる市道全域で試験施工を行う。中央区、北区、白石区、豊平区、南区では一部地域を対象とする。
対象地域と道路延長は次のとおり。
|
区 |
実施範囲 |
対象延長 |
|
中央区 |
一部地域 |
約11km |
|
北区 |
一部地域 |
約230km |
|
東区 |
全域 |
約450km |
|
白石区 |
一部地域 |
約130km |
|
厚別区 |
全域 |
約240km |
|
豊平区 |
一部地域 |
約200km |
|
清田区 |
全域 |
約310km |
|
南区 |
一部地域 |
約290km |
|
西区 |
全域 |
約370km |
|
手稲区 |
全域 |
約370km |
|
合計 |
市内10区 |
約2,600km |
※札幌市の2026年度試験施工計画。対象は除雪機械が安全に作業できる市道であり、私道は含まない。「全域」は区内の対象市道全域を意味する。各区の延長は概数。
試験施工を行う地域の私道や、試験施工の対象外となる地域で排雪を希望する場合は、従来のパートナーシップ排雪制度や市民助成トラック制度を利用する必要がある。
町内会負担ゼロでも道路脇の雪は多く残す
今回の試験施工で重要なのは、地域の費用負担がなくなる一方、排雪の作業水準も変わることだ。
従来のパートナーシップ排雪では、地域と市が費用を分担し、生活道路に積もった雪を排出してきた。
新方式では、市が主体となって排雪を行う代わりに、道路脇に残す雪の量を従来より多くする。作業量や運搬する雪の量を抑制し、限られた人員と機械で広い範囲を処理する狙いがある。
札幌市の試験施工計画では、道路幅が8mの場合、排雪後の通行幅を道路幅の6~7割程度確保することを目安としている。単純計算では約4.8~5.6mに相当する。
また、路面に残す雪の厚さは10cm程度を目安とし、こちらは従来のパートナーシップ排雪と同程度の水準としている。
つまり、新方式は生活道路の雪をすべて取り除く取り組みではない。通行に必要な幅を確保しながら、排雪量を抑える設計となっている。
町内会の負担軽減と道路環境の維持を両立できるかが、今回の試験施工の重要な検証項目となる。
当初計画1500kmから2600kmへ、試験施工を大幅拡大
札幌市の2026年度当初予算資料では、生活道路除排雪の試験施工について、対象延長を約1,500kmに拡大する計画が示されていた。
その後、2026年10月28日時点の実施計画では、対象が約2,600kmとなった。当初予算編成時に想定していた規模よりも約1,100km広い範囲で、新方式を検証することになる。
札幌市は2023年度から生活道路除排雪の試験施工を開始。2023年度は約28km、2024年度は約24kmで実施した。
2025年度は厚別区と清田区の全域、計約570kmで試験施工を予定していたが、2026年1月の大雪による緊急排雪への移行に伴い中止となった。
今回の約2,600kmという規模は、これまでの限定的な地域での検証から、市内の生活道路の大部分を対象とする大規模な実証へ移ることを意味する。
なお、当初計画からの対象延長の拡大が、そのまま同じ割合で事業費の増加につながるわけではない。排雪量や作業方法、道路条件などによって必要経費は異なり、今回の拡大分に対応する個別の追加事業費は確認できていない。
建設業の担い手不足に対応、夏冬一体発注や省人化を推進
札幌市が除排雪方法の見直しを進める背景には、作業を担う建設業者や除雪従事者の確保という問題もある。
除雪作業には重機の運転手や排雪ダンプの運転手など、多くの人員が必要となる。市は従事者の高齢化と将来的な担い手不足を、持続可能な雪対策に向けた重要課題としている。
このため、除雪機械の1人乗り化やバックカメラ・センサーによる安全支援、排雪ダンプの運行管理システムなどを導入し、省人化を進めている。
雪堆積場が市街地から遠くなることで排雪ダンプの運搬距離が増える課題にも対応し、新たな融雪施設の整備や雪処理施設の更新も進めている。
また、夏季の道路維持補修や除草などの業務と、冬季の除排雪業務を一体で発注する取り組みも行っている。
夏と冬の仕事を通年で確保し、受託事業者が人員や機械を維持しやすい環境を整えることが目的だ。
今回の試験施工でも、町内会単位ではなく道路状況や降雪量に応じて作業ルートや時間帯を設定し、作業の効率化を図る。
除雪業務の効率化と建設・運送事業者の事業継続をどう両立するかは、札幌市の今後の雪対策における大きな課題となる。
2027年度以降の除排雪制度を検討へ
札幌市は今冬の試験施工を通じて、道路環境の確保、作業の効率化、地域負担の解消について検証する。
生活道路の除排雪制度については、雪対策審議会でも見直しを議論しており、パートナーシップ排雪制度から市主体の排雪へ転換する方向性が検討されている。
ただし、現時点でパートナーシップ排雪制度の全面廃止や、2027年度からの全市一律の新制度導入が正式決定したわけではない。
今冬の試験施工結果を踏まえ、市は2027年度以降の生活道路除排雪のあり方を整理する。
過去最大の286億円を投じる札幌市の雪対策は、単に雪を運び出す事業から、限られた財源と人員の中で冬の都市機能をどう維持するかを検証する段階に入っている。