米国ではIRA法に基づき、2023年1月からEV購入に対する補助金制度が設けられ、EV元年となり、上半期のEV販売は絶好調だった。
ところが、下半期になるとEV販売台数の伸びは鈍化、変わってHVが注目され、通年では補助金が付いたEVより、HVが販売台数も伸び率も高くなるという異常現象が生じている。
こうした現象は米国にとどまらず環境先進国の欧州でも似た現象が生じている。
米国ではIRA法に基づき、2023年1月からEV購入に対する補助金制度が設けられ、EV元年となり、上半期のEV販売は絶好調だった。
ところが、下半期になるとEV販売台数の伸びは鈍化、変わってHVが注目され、通年では補助金が付いたEVより、HVが販売台数も伸び率も高くなるという異常現象が生じている。
こうした現象は米国にとどまらず環境先進国の欧州でも似た現象が生じている。
<失速原因>
1、高い価格
最高7千ドルの補助(購入税控除)でも高いEV
EV車両価格に占めるバッテリー価格のウエイトは25%~40%に達する(搭載量により異なる)。
原材料が米もしくはFTA国以外の生産物に対する補助金規制
…中国製の安価なEV用バッテリー搭載車は補助除外。
・・安全性が高く安価な新しいリン酸鉄リチウムイオン二次電池(LFP)は走行距離が伸び、3元系にひけをとらない。米国では韓国勢+パナ社の3元系であり、自動車用LFP電池は市場投入されていない。
さらにバッテリー価格の75%前後は材料費。その材料のほとんどでシェア№1の中国、リチウムもコバルトも純粋黒鉛も中国なくして材料さえ手に入らず、中国産材料を規制強化すれば、さらにバッテリー価格は高くなる。
だが、保護貿易とIRA法に守られた米国以外の世界市場では、中国製バッテリーと戦うことはほとんど不可能。強いては中国製バッテリーを搭載した車両との競争にも勝てない。米国市場だけに通用するもので、米国離れが進む結果をもたらすことになる。
(GMはCATLのリン酸鉄系をミシガン州でライセンス生産すると発表。ベンツは普及車でCATL-LFPをすでに搭載販売している)
2、一巡・環境
環境派の高額所得者の購入一巡、俳優などが率先して購入した宣伝効果も一巡。
古くなったEV電池の再利用問題やリサイクル問題はなんらまだ解決していない。
EVの急速普及は環境を急激に悪化させる。
欧州の環境派は近視のようだ。
鉄もアルミも銅もレアメタルも熱源や電炉源の材料は世界一の生産量でも足りず輸入までしている中国の石炭。
EVでは、銅をモーター類にも使用することからこれまでの3倍以上必要とする。リサイクルが確立する2035年まで銅の使用量は増加が続く。
北部九州は通常の晴れ日でも15キロ先の山々がぼやっ~と霞んでいるが、黄砂の季節ではなく、中国製PM2.5の襲撃。地球全体に硫黄酸化物やPM2.5を撒き散らしている。その多くがEV用の材料。
3、インフラ未整備
米国では急速充電所が高速道や都市部中心に急速に整備されてきているが、広大な米国では一般道など未設置地域や設置箇所が限られる。
住宅充電用は別途費用がかかり、充電時間もかかり、補助制度もなく普及していない。
高圧の急速充電所でも冬季はさらに充電時間がかかり長い列。EV利用者もため息。
4、EVバッテリー・価格の問題
米国で、IRA法下に生産されるバッテリーは米国の高コストで生産されることから、さらに価格が高くなり、中国勢に大きく水を空けられ続けることになる。
米国では中国に対する25%の高額関税と国産勢への補助金支給である程度調整されるが、世界市場では通用しない。
走行距離を大幅に伸ばした新LFPは中国CATLから2020年に発表され、韓国勢も開発を急ぐとしたが、特許問題もあり、いまだ独自開発できていない。
5、EVバッテリー・性能の課題
(1)EV用バッテリーは、現在は、米国勢が採用している韓国勢の3元系と中国勢のリン酸鉄系(LFP)に分かれ、LFPではコバルト・ニッケルを使用しないことから3元系に比し2~3割安い。
2027年から走行距離・安全性に優れた全固体電池も市場投入される。
(2)EV用バッテリーは化学反応を利用して発電することから、極寒地では反応が低下し、屋外駐車では走行不能に陥るケース多発する問題を生じている。
電池設置面積は広く極寒地で搭載電池である程度暖め続けておくことは走行距離との関係も発生する。
(3)米国の自動車使用平均年数は12年、
新車購入者が乗る平均年数は9年、
走行距離平均は20万キロ以上。
※EVの保証期間は8年もしくは16万キロ。
EV電池を搭載しなおす価格は電池代と作業費用により超高額となる。
6、次期大統領問題
秋の大統領選挙、トランプ優位に進んでいる。2017年のトランプ大統領就任では、即日、パリ協定離脱を宣言、大型車に乗ろうと呼びかけ、以降、大型のピックアップトラックがバカ売れした。
トランプになれば補助金制度も打ち切られ、IRA法の停止させる可能性もある。
公的支出のインフラ充電設備やEV・EV用バッテリーの新工場建設にかかわる各種補助も打ち切られる可能性もある。
その他
出る釘は打つ国、アメリカ№1主義はトランプの専売特許ではなく、第2次世界大戦以降、米国人が持ち続けている愛国主義思想でもある。
米国では2010年、マスメディアが挙ってトヨタHV機能欠陥・暴走のインチキ生放送を伝え、裁判も提起され、米連邦議会でも公聴会を開催するなどトヨタを総攻撃した。攻撃には一部外国メーカー系も加担したとされる。
結果、ごく一部でトヨタ車が暴走した原因は、床マットのズレ問題だった。それもマットの上にマットを敷いた2重マットのズレ問題で、ブレーキ下にマットがズレ動き、ブレーキを踏み込んでも効かず暴走する事案だった。HVの品質問題ではまったくなかった。
当然、トヨタ車の車両は販売台数が激減。当時、どっかの国のメーカーが米市場で販売台数を大幅に増加させた。
同じようなことは米不動産を買い占めたバブル時代以降、米国の日本タタキは常態化、自動車に加え(米国への工場進出で決着)、鉄鋼(ダンピング適用)、半導体・OSなど多くが通商交渉で問題視され、挙句、小泉-竹中政権時代では米国ハゲタカ勢に多くの企業も不動産も売り渡した。
日産も欧米承認のゴーンをたたいたことから、欧米人のマスメディアの逆鱗に触れ、執拗に総攻撃され続け、以降、販売台数は低迷している。その後の日産経営陣もだらしなく、回復もしていない。ダットサン・技術の日産など遠いむかしのことのようだ。
現在、貿易での米国の赤字問題の相手国は日本から中国に移り、両国は米中貿易戦争を繰り広げている。
中国政府は日本の政権や官僚たちのように米国の言いなりにならないことから、米中貿易戦争に発展、さらに米指定取引禁止国との取引や中国の人権問題などにより米国の中国に対するエンティティリストの数は増え続けている。
2023年の米自動車販売内容、EV・HV・ほか |
||||
/万台 |
2022年 |
2023年 |
前年比 |
構成比 |
EV |
71 |
107 |
51.0% |
6.9% |
HV |
75 |
124 |
61.0% |
7.9% |
ほか |
1,244 |
1,329 |
6.8% |
85.2% |
合計 |
1,390 |
1,560 |
12.3% |
100.0% |
<テスラの業績推移>
テスラは販売台数が増加すれば、大幅に利益が拡大するとされたが、計画通りに売っているものの、値下げして売り続け、ほかの自動車メーカーの営業利益率となんら変わらなくなってきている。
2012年第4四半期にはすでに売れなくなり、同年12月になると23年1月から補助金先取り販売として7千ドル前後値引きして販売し、計画販売台数をクリア、2023年には第2四半期から売れなくなり、米国では補助金もある中で値引き販売、中国ではBYDに押され、値引き販売で対抗、結果、テスラの四半期決算では22年3Qには17.1%あった営業利益率も23年1Qには11.4%まで落ち、同年2Q以降は一桁台の営業利益率となっている。
テスラは2023年は目標の180万台を値引きでクリア、24年は220万台を計画、2030年には2000万台を販売する計画でもある。
自動車の販売市場は年間8500~9000万台、営業利益率が既存の自動車メーカーと変わらなくなる中、市場規模は限られ、どうやって2000万台を達成するのだろう。
マジックとしてGM+フォードを買収するのだろうか。
テスラの決算推移/百万ドル |
|||||
|
売上高 |
営業益 |
率 |
税前利益 |
株主利益 |
2018/12. |
21,461 |
-388 |
- |
-1,044 |
-1,062 |
2019/12. |
24,578 |
-69 |
- |
-655 |
-775 |
2020/12. |
31,536 |
1,994 |
6.3% |
1,154 |
721 |
2021/12. |
53,823 |
6,523 |
12.1% |
6,343 |
5,524 |
2022/12. |
81,462 |
13,632 |
16.7% |
13,719 |
12,583 |
2023/12. |
96,773 |
8,891 |
9.1% |
9,973 |
14,999 |
|
|||||
直近四半期ベース |
|||||
22/3Q |
21,454 |
3,688 |
17.1% |
3,636 |
3,331 |
22/4Q |
24,318 |
3,901 |
16.0% |
3,983 |
3,707 |
22下計 |
45,772 |
7,589 |
16.5% |
|
|
23/1Q |
23,329 |
2,664 |
11.4% |
2,800 |
2,539 |
23/2Q |
24,927 |
2,399 |
9.6% |
2,937 |
2,614 |
23上計 |
48,256 |
5,063 |
10.4% |
|
|
前期比 |
5.4% |
-33.2% |
|
|
|
23/3Q |
23,350 |
1,764 |
7.5% |
2,045 |
1,851 |
24/4Q |
25,167 |
2,064 |
8.2% |
|
7,927 |
23下計 |
48,517 |
3,828 |
7.8% |
|
|
前期比 |
0.5% |
-24.3% |
|
|
|
世界の自動車販売台数推移 |
||
出典:OICA版/万台 |
前年比 |
|
2010年 |
7,497 |
|
2015年 |
8,968 |
1.5% |
2016年 |
9,385 |
4.6% |
2017年 |
9,589 |
2.2% |
2018年 |
9,564 |
-0.3% |
2019年 |
9,124 |
-4.6% |
2020年 |
7,878 |
-13.7% |
2021年 |
8,275 |
5.0% |
2022年 |
8,162 |
-1.4% |
2023年 |
|
|