2024年4月の働き方改革関連法の適用拡大から約1年が経過し、いわゆる「物流2024年問題」は、もはや運送業界だけの課題ではなくなった。荷物が予定通りに届くことを前提に組み立てられてきた企業活動そのものが、いま見直しを迫られている。
とりわけ足元では、建設資材の搬入遅延や運賃上昇が、建設現場や不動産開発の採算を直撃し始めている。物流は従来、外部に委ねる実務の一部と見なされがちだったが、現在は供給網全体の安定性を左右する経営課題へと性格を変えた。企業に問われているのは、物流を「コスト管理の対象」としてではなく、「事業継続を支える戦略資源」として捉え直せるかどうかだ。
その象徴が、国土交通省が示す「標準的な運賃」の存在である。かつて運賃交渉は、荷主側が優位に立ち、いかに価格を抑えるかが主眼となりやすかった。しかし現在は、適正運賃を前提に取引条件を見直す流れが強まりつつある。とくにコンプライアンスを重視する企業では、早い段階で運賃改定を受け入れ、輸送網の維持を優先する動きが目立つ。一方で、従来型の値下げ圧力を続ける企業は、運送会社から敬遠され、必要なときに運べないという事態に直面しやすくなっている。
制度面でも環境は変わる。物流関連法制の見直しにより、多重下請け構造の透明化が進めば、これまで見えにくかった実運送の実態が可視化されることになる。経営側が自社の荷物を「誰が、どの経路で、どの条件で運んでいるのか」を把握していなければ、法改正への対応だけでなく、突発的な供給網の寸断にも備えられない。不透明な構造の上に成り立つ物流は、平時には安く見えても、有事には真っ先に崩れる。
こうした変化は、倒産動向にも表れている。燃料費や人件費の上昇を十分に転嫁できず、配車効率化やデジタル投資に踏み出せない中小零細の運送会社は、厳しい経営を強いられている。物流事業者の淘汰が進めば、影響は荷主側にそのまま跳ね返る。建設業であれば工期の遅延、不動産業であれば引き渡し時期のずれや資金回収の遅れに直結する。物流の停滞は、単なる輸送の問題ではなく、プロジェクト全体の収益構造を揺るがす要因となる。
では、企業は何を見直すべきか。第一に必要なのは、現場で常態化している荷待ち時間の可視化である。待機は運送会社の損失であるだけでなく、将来的な運賃上昇や取引条件悪化の火種でもある。荷受け予約システムの導入や搬入時間の平準化など、現場任せではなく経営主導で効率化を進める必要がある。
第二に、物流拠点の立地戦略を再構築することだ。長距離輸送の負担が増すなか、高速道路のインターチェンジ周辺や都市近郊に拠点を確保できるかどうかは、今後の競争力を左右する。単なる倉庫確保にとどまらず、土地活用や中継機能、配送ネットワーク全体を見据えた拠点整備が重要になる。
第三に、運送会社との関係を見直すことが欠かせない。輸送を単なる外注先として扱う発想では、持続可能な物流網は築けない。共同配送や中継輸送、積載率向上に向けた調整など、生産性向上を共に考えるパートナーとして向き合う姿勢が、結果として自社の安定供給にもつながる。
物流コストの上昇を「避けられない負担」とみるか、「事業基盤を強くするための投資」とみるかで、経営判断は大きく分かれる。荷物が運べることが当たり前ではなくなった時代において、物流を経営の中心課題として再設計できる企業こそが、次の競争を制することになりそうだ。