全国から巨額の出資金を集めて平成23年に経営破綻した「安愚楽(あぐら)牧場」(栃木県)を巡り、国の監督不行届で被害が拡大したとして、出資者1279人が国に計約63億8900万円の国家賠償を求めた訴訟の判決が26日、東京地裁であった。小川嘉基裁判長は「国の規制権限の不行使が著しく合理性を欠くとはいえない」として、原告側の請求を棄却した。
安愚楽牧場を巡る一連の国賠訴訟は宇都宮、名古屋、大阪の各地裁でも起こされており、司法の判断が示されたのは今回が初めて。先行する東京地裁が行政側の裁量を広く認め、国の責任を否定したことで、今後の同種訴訟の行方に大きな影響を与えるのは確実だ。
■「裁量権の逸脱なし」 国家賠償の壁厚く
国家賠償訴訟において、行政が「あえて権限を行使しなかったこと(不作為)」の違法性を問う場合、その判断が「著しく合理性を欠き、裁量権を逸脱・濫用した」と認められる必要がある。
原告側は、農林水産省や消費者庁などの関係省庁が同社の破綻を予見できたにもかかわらず、業務停止命令などの是正措置を怠ったと主張。預託商法を規制する当時の「特定商品預託法」に基づく監督権限を速やかに行使すべきだったと訴えていた。
しかし判決は、当時の法制度や行政が収集していた情報の範囲を冷静に精査。直ちに強制的な介入を行わなかった国側の対応について、法的な裁量の範囲内であったと認定し、原告側が主張する「不作為の違法性」を退けた。民間企業と投資家間の契約トラブルに対し、国の刑事・行政上の責任を無限に拡大させないという、従来の司法論理を踏襲した形だ。
■負債4200億円、問われる消費者保護のあり方
破綻した安愚楽牧場は、繁殖牛への出資を募って生まれた子牛の売却益を配当する「和牛オーナー制度」を導入。実態は、実際の牛の頭数を大幅に上回る出資者を募る「自転車操業」的な詐欺的商法であり、約7万3000人から資金を集めたものの、約4200億円という巨額の負債を抱えて行き詰まった。元社長らは特定商品預託法違反罪で実刑判決が確定している。
戦後最大級の消費者被害事件と言われた同事件を機に、令和3年には特定商品預託法が抜本的に改正され、販売預託商法は原則禁止となるなど規制は大幅に強化された。
今回の判決は、行政の権限行使のあり方に一定の合理性を認めたものの、15年が経過した今なお救済を求める多くの被害者が存在するという現実は残る。巧妙化する民間の詐欺的商法に対し、事後的な法規制の強化だけでなく、事前の抑止と行政監視の網をどう実効たらしめるかという重い課題を改めて突きつけている。