中東から遠く離れた日本の暮らしと企業活動が、改めてホルムズ海峡に左右される現実を突きつけられた。
米国とイランの戦闘終結に向けた協議で、双方が覚書の内容を最終決定したことが明らかになった。正式な署名式典は19日にスイスで行われる予定だ。原油輸送の要衝であるホルムズ海峡の開放に道筋がつけば、急騰していた原油価格には一定の下押し圧力がかかる。燃料高に苦しむ家計や企業には、ひとまず安堵感が広がる。
ただ、今回の合意は本格的な和平の入り口にすぎない。米国とイスラエルによるイランへの先制攻撃をきっかけに、ホルムズ海峡は封鎖され、世界のエネルギー供給網は大きく揺らいだ。日本ではガソリンや軽油、電気料金、包装資材、物流費など幅広いコストに波及し、物価高に拍車をかける懸念が強まっていた。
原油価格が落ち着けば、運送業や建設業、食品製造、外食など、燃料や資材価格の上昇にさらされてきた業種には追い風となる。価格転嫁が難しい中小企業にとっても、仕入れや輸送コストの上昇が一服する意味は小さくない。
一方で、危機が過ぎれば問題も消えるわけではない。日本は原油の多くを中東に依存しており、海峡の封鎖や地域紛争が起きるたび、国内経済は外部要因に振り回される。円安が続けば、原油相場が下がっても輸入価格の低下は限られる。備蓄で急場をしのげても、エネルギー供給の構造的な弱さは残る。
米イラン双方の溝もなお深い。核開発や制裁解除をめぐる協議はこれからが本番であり、関係国の思惑次第では再び緊張が高まる可能性もある。市場が織り込む「原油安」は、和平への期待を先取りしたものでもある。
ホルムズ海峡の開放は、日本経済にとって朗報である。だが、それは同時に、エネルギーを海外に頼る国の危うさを映し出す鏡でもある。危機が遠のいた今こそ、調達先の分散、省エネ投資、再生可能エネルギーの活用といった地道な備えが問われている。