記録的な猛暑が続いた2026年夏、夏物衣料が売れそうな気候とは裏腹に、国内のアパレル業界では厳しい商戦が続いた。
帝国データバンクが公表した「アパレル業界の最新景況レポート(2026年8月)」によると、8月のアパレル業界の景気DIは35.2。6月から3カ月連続で36を下回り、2022年秋以来の低水準となった。
背景には、物価高による家計の生活防衛に加え、猛暑そのものが日中の外出を減らしたこともある。経済産業省の商業動態統計では、織物・衣服・身の回り品小売業の販売額が2026年6月に前年同月比14.4%減、7月も6.6%減。総務省の家計調査でも、二人以上世帯の「被服及び履物」への6月の実質支出は前年同月比18.5%減となった。
「暑くなれば夏服が売れる」という従来の季節商戦が通用しにくくなる一方、長期化する夏に販売スケジュールを合わせられる企業と、従来通り早期セールで在庫を処分する企業との違いも鮮明になっている。
アパレル景気DIは35.2 全産業を9.4ポイント下回る
帝国データバンクの景気DIは50が好不況の分かれ目となる。2026年8月のアパレル業界は35.2だったのに対し、全産業は44.6。その差は9.4ポイントに広がった。
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2026年 |
アパレル景気DI |
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1月 |
37.3 |
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2月 |
37.9 |
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3月 |
35.6 |
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4月 |
36.2 |
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5月 |
37.2 |
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6月 |
35.3 |
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7月 |
33.9 |
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8月 |
35.2 |
特に7月の33.9は、2022年9月の32.3以来、約3年11カ月ぶりとなる34未満の水準だった。8月には1.3ポイント回復したものの、業界の景況感は依然として低い。
帝国データバンクの調査では、企業から「酷暑による客足の鈍り」やクリアランスセールの不振などが指摘された。猛暑は夏物商品の需要を押し上げるだけでなく、外出そのものを控えさせる要因にもなっている。
衣料品販売は6月14.4%減 家計支出も18.5%減
業界の景況感だけでなく、実際の販売や家計支出にも弱さが表れている。
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指標 |
前年同月比 |
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織物・衣服・身の回り品小売業販売額(6月) |
▲14.4% |
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同(7月) |
▲6.6% |
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二人以上世帯「被服及び履物」実質支出(6月) |
▲18.5% |
物価上昇が続けば、食料品、光熱費など生活に欠かせない支出を優先し、衣料品の購入時期を先送りする家計も増えやすい。
総務省の家計調査では、二人以上世帯の消費支出全体も2026年6月に実質3.3%減、7月に3.6%減となっている。衣料品だけの問題ではなく、家計消費そのものに弱さがみられる局面で、服への支出がより大きく削られている形だ。
「早く夏物を売り切る」商売が猛暑の長期化で裏目に
もう一つ注目されるのが、アパレル業界で長年続いてきた季節商品の販売スケジュールだ。
従来は夏物を早期に販売し、7月ごろからクリアランスセールで在庫を減らしながら、店頭を秋物へ切り替える販売手法が一般的だった。しかし近年は9月に入っても厳しい残暑が続くなど、実際の気温と店頭の商品構成にずれが生じやすくなっている。
帝国データバンクによると、大手百貨店や有力アパレル企業の一部では、クリアランスセールを後ろ倒しして盛夏商品の正価販売期間を延ばすなど、長期化する夏に対応したマーチャンダイジング(MD)の見直しが進んでいる。
一方、資金繰りや在庫消化を優先する中小アパレルや従来型のショッピングセンター(SC)テナントでは、6月下旬から先行セールを始める動きも根強い。
夏が長引けば、本来なら定価で夏物を販売できる7~8月にすでに値引きしてしまい、粗利益を削ったうえ、8月には売る夏物そのものが不足するという問題が生じる。猛暑の長期化は、商品の種類だけでなく「いつ売るか」という商売の仕組みそのものに見直しを迫っている。
値下げしても売れるとは限らない 「選別消費」が定着
消費者の買い方にも変化がみられる。
物価高が長期化するなか、価格が安いという理由だけで商品を購入するのではなく、着用頻度や長く使えるかどうかなどを考えて「本当に必要な1着」を選ぶ傾向が強まっていると帝国データバンクは分析する。
このため、従来のようにセールを早めれば客数や販売数量が増えるとは限らない。値下げによって粗利益率を下げても販売数量が伸びなければ、店舗経営には二重の負担となる。
特に家賃、人件費、物流費、仕入れ価格などの上昇を吸収しにくい中小の衣料品店やSCテナントにとって、販売数量の減少と粗利益率の低下が同時に進むことは経営上の重荷となる。
秋冬商戦も「暦より気温」へ アパレル業界に迫る二季化対応
問題は夏物だけではない。9月になれば秋物、冬になればコートという従来の暦を基準とした商品投入そのものが、気候の変化に合わなくなりつつある。
残暑が長引くなかで厚手の秋冬商品を早期に投入すれば、売れない商品が店頭や倉庫に滞留し、最終的には値下げ処分につながる可能性がある。
逆に、吸汗速乾性のある晩夏商品や薄手の羽織物などを長く販売し、本格的なコートやダウンの投入を実際の気温低下に合わせることができれば、正価で販売できる期間を確保しやすくなる。
猛暑でも服が売れなかった2026年夏。アパレル業界に突きつけられたのは単なる消費低迷だけではない。物価高で衣料品を後回しにする消費者と、長期化する夏という二つの変化に対し、従来の「暦通りに仕入れ、早めに値下げして売り切る」商売から転換できるかが問われている。