ドイツの自動車部品大手マーレ(MAHLE)が、スペイン中部カスティーリャ=ラ・マンチャ州クエンカ県のモティージャ・デル・パランカル工場で、新たに170人の人員削減を計画していることが分かった。同工場では2025年から2026年にかけて466人を削減しており、約1年で2度目の大規模な雇用調整となる。
現地労働組合CCOOが10月16日に明らかにした。今回の削減計画は現在の従業員の約35%に相当する。会社側は、欧州自動車産業の低迷、特に電動モビリティ分野の需要減速に加え、2026年中に工場の稼働を維持できる規模の新規契約を獲得できなかったことを理由に挙げている。
人員削減はスペインの集団解雇手続き「ERE」によって進められる予定で、労働組合側は計画に反対している。最終的な削減人数や退職時期は確定していない。
前年に466人削減、残る従業員の約35%が対象に
マーレは2025年9月、モティージャ・デル・パランカル工場で550人、バレンシア州パテルナ拠点で190人、合計740人の削減計画を発表した。
その後の労使交渉を経て、削減人数はモティージャ・デル・パランカル工場で466人、パテルナ拠点で40人の計506人に縮小された。クエンカ県の工場では2025年11月に大部分の削減が行われ、2026年3月には残る150人の雇用削減が完了した。
一連の人員削減によって、モティージャ・デル・パランカル工場の従業員数は約500人まで減少。今回計画された170人の削減がそのまま実施されれば、さらに約3分の1の雇用が失われることになる。
ただし、170人は現時点での計画人数であり、最終的な解雇人数ではない。今回の追加計画にパテルナ拠点は含まれていない。
2017年に電子部品メーカーを買収 EV関連事業を強化
今回の対象となるモティージャ・デル・パランカルは、マーレが自動車用電子部品事業への参入を進めるうえで重要な拠点の一つだった。
マーレは2017年5月、スペインの電子部品メーカーNagares(ナガレス)の買収を完了した。同社はモティージャ・デル・パランカルに本拠を置き、電気自動車向け電力変換装置、電子制御装置、熱管理システム関連部品などを製造していた。
買収発表時のNagaresの従業員は435人で、2015年の売上高は約7,000万ユーロだった。マーレは買収を通じて電動車関連の製品開発を強化し、車載電子機器を成長分野の一つに位置付けた。
その後もスペインでは、EV向け充電装置や電力制御関連の開発・生産体制の整備が進められてきた。
EV関連投資に1,500万ユーロの公的助成
マーレの公式拠点情報によると、スペイン法人MAHLE Electronics S.L.U.は、電気自動車向けの車載充電器などに関する研究開発や設備投資を進めてきた。
その中には、欧州連合(EU)の復興基金NextGenerationEUを財源とする電動モビリティ支援制度「MOVES Proyectos Singulares II」の対象事業も含まれる。
同社が公表している助成対象投資額は3,784万899ユーロ、助成額は1,500万ユーロに上る。EVの省エネルギー技術や関連設備を対象とする投資事業で、電動化への対応を進めてきたことがうかがえる。
一方、今回の追加削減計画では、電動モビリティ関連の受注不足が理由の一つとして挙げられている。EV関連事業への投資を進めた企業が、当初想定した需要の拡大を確保できず、生産体制の縮小を迫られる状況となっている。
なお、1,500万ユーロは企業公式資料に記載された助成額であり、実際の全額受領や、今回の人員削減に伴う返還義務の有無までは確認できていない。
グループ全体は黒字 2025年の売上高112億ユーロ超
工場の雇用削減が続く一方、マーレグループ全体では黒字経営を維持している。
2025年12月期の連結売上高は112億5,700万ユーロ、調整後営業利益(EBIT)は4億4,200万ユーロ、最終利益は2,000万ユーロだった。2025年末の従業員数は6万4,242人で、前年末から3,466人減少した。
グループは世界的な需要減速に対応するため、生産拠点の統廃合、間接費の削減、管理・開発部門の合理化などを進めている。特に欧州と北米では、生産能力を需要に合わせる取り組みを継続している。
マーレは電動化、熱管理システム、内燃機関関連技術を中心とする長期戦略を進めているものの、欧州の電動車市場は同社の想定を下回る成長にとどまっている。
今回のスペイン工場での人員削減は、グループ全体の赤字に伴う緊急的な経営再建ではなく、受注状況に合わせた事業再編の一環となる。
政府も代替産業を模索 地域経済への影響懸念
マーレの雇用削減は、スペイン・クエンカ県の地域経済にも影響を及ぼしている。
2025年9月にはスペイン産業・観光省、カスティーリャ=ラ・マンチャ州、バレンシア州が、工場の人員削減を受けて代替産業の誘致や再工業化を検討する協議体を設置した。
労働組合は今回の追加削減計画に反対し、既存施設の有効活用や新規事業の導入など、雇用維持に向けた代替策を求めている。また、公的支援を受けてきた企業として、地域の産業基盤を維持する責任についても問題提起している。
会社側と労働組合は今後、集団解雇手続きを巡る協議を進める。最終的な削減人数、対象職種、退職条件などは明らかになっていない。
EV関連事業への大型投資が進められてきた工場で、短期間に繰り返される人員削減がどこまで抑えられるのか。地域の再工業化策とともに、今後の労使協議が注目される。