【カナダ】ステルコ最大500人削減、政府が国有化も検討 米親会社の雇用維持約束巡り対立
カナダの鉄鋼大手ステルコ(Stelco Holdings)が最大500人の人員削減を進めている問題で、カナダ政府が同社の国有化を含む対応を検討していることが明らかになった。ステルコは米鉄鋼大手クリーブランド・クリフス(Cleveland-Cliffs)の傘下企業で、米国の鉄鋼関税や需要低迷などを背景に、一部製造工程の無期限休止を決めていた。
カナダのメラニー・ジョリー産業相は2026年10月16日、外国企業による投資を規制する「カナダ投資法」に基づき、国有化を含む選択肢を検討していることを明らかにした。政府は2024年の企業買収時に交わされた雇用維持の約束が守られていないと問題視している。
一方、ステルコ側は市場環境の悪化に対応するための一時的な人員削減と説明し、買収時の約束に違反していないと反論している。政府と企業側の見解が対立するなか、問題は製鉄所の雇用削減から外国企業による買収条件の履行を巡る問題へ発展している。
最大500人削減、製鉄所の一部工程を無期限休止
ステルコは9月28日、カナダ・オンタリオ州ハミルトンの製鉄所「Hamilton Works」で、冷間圧延や表面処理などの仕上げ工程を無期限に休止すると発表した。関連する「Lake Erie Works」を含め、最大500人の従業員が影響を受ける。
対象となるのは、自動車や建設、製造業などに使用される冷延鋼板や亜鉛めっき鋼板などの製造工程。会社は一部の製造工程を縮小する一方、Lake Erie Worksを中心とした鋼材生産を継続し、事業の合理化を進める方針を示している。
従業員への解雇通知は10月7日ごろから順次始まり、11日には最初の人員削減が実施された。現地労働組合によると、ハミルトンの工場では約330人が影響を受ける見込みで、Lake Erie Worksなどでも追加の削減が予定されている。
会社側は、一部の従業員にLake Erie Worksでの就労機会を提供する方針を示している。ただし、最大500人という人数は削減計画の上限であり、全員の退職が確定したわけではない。
2024年に約34億カナダドルで買収、5年間の雇用維持を約束
今回の問題で大きな争点となっているのが、クリーブランド・クリフスによるステルコ買収時の雇用維持に関する約束である。
クリーブランド・クリフスは2024年7月、ステルコを企業価値約25億米ドル(約34億カナダドル)で買収することで合意。同年11月1日に買収を完了し、ステルコを完全子会社とした。
ステルコはオンタリオ州のHamilton WorksとLake Erie Worksを主要拠点とする鉄鋼メーカーで、買収発表時には約1,800人の労働組合員がクリーブランド・クリフスの従業員に加わると説明されていた。
カナダ政府は2024年10月、カナダ投資法に基づく買収審査を経て取引を承認した。その条件として、買収企業には5年間にわたる法的拘束力のある複数の約束が課された。
その内容には、買収発表時と同数以上の労働組合員を雇用すること、非組合員についても大多数の雇用を維持すること、ハミルトンの本社機能を維持すること、既存の労働協約や年金制度を尊重することなどが含まれていた。
また、カナダ国内の製鉄事業に対する設備投資や研究開発投資も約束されていた。
今回の人員削減は、買収完了から2年に満たない時期に実施されることとなった。政府側は雇用維持の約束との整合性を問題視しているが、会社側は一時的な操業休止に伴う人員削減が直ちに約束違反になるわけではないと主張している。
政府が法的措置を警告、資産売却命令や国有化も検討
カナダ政府は10月5日、親会社クリーブランド・クリフスに対し、買収時の雇用維持義務をどのように履行するか説明するよう求めた。回答期限は5営業日とされ、十分な対応が示されなければ法的措置を検討する方針を伝えた。
しかし、ステルコ側は予定していた人員削減を進めた。政府と企業の協議が続くなか、ジョリー産業相は10月14日、カナダ投資法第40条に基づく法的措置の可能性を明らかにした。
政府が検討する措置には、裁判所を通じた買収時の約束の履行要求、金銭的制裁、カナダ国内資産の売却命令などが含まれる。
さらに10月16日には、ジョリー産業相がステルコの国有化も検討対象となっていることを明らかにした。政府は親会社が買収時の約束に複数回違反しているとの認識を示し、法的手段を含めて対応を検討している。
ただし、ステルコの国有化が正式に決定したわけではない。裁判所による違反認定や資産売却命令も確定しておらず、今後の政府と企業の対応が焦点となる。
米国の鉄鋼関税50%、カナダの製鉄事業を圧迫
ステルコが生産縮小に踏み切った背景には、米国とカナダの通商摩擦がある。
米国は2025年6月、外国製の鉄鋼・アルミニウムに対する追加関税を原則50%に引き上げた。カナダの鉄鋼メーカーにとって米国は重要な輸出先であり、関税の引き上げは輸出競争力を大きく損なう要因となった。
ステルコ側は米国向け冷延鋼板・表面処理鋼板の輸出が大幅に減少したと説明。さらにカナダ国内市場への輸入鋼材の流入や、関連製品の需要低迷などが重なり、従来の生産体制を維持することが難しくなったとしている。
カナダの鉄鋼産業全体でも、米国向け輸出が急減する一方、国内の鉱業、エネルギー、インフラ建設などに向けた販売の拡大が進められている。
カナダ政府は国内の鉄鋼産業を支えるため、鉄鋼製品の輸入管理や国内調達の促進、企業向け融資支援などを実施している。しかし、米国向け輸出の落ち込みを短期間で補うことは難しく、鉄鋼各社は生産品目の見直しや事業再編を進めている。
買収時の雇用維持義務と経営判断、今後の焦点は
ステルコの人員削減問題は、関税による製造業への影響だけでなく、外国企業による企業買収の条件がどこまで守られるべきかという問題にも発展している。
会社側は製造工程の一時休止に伴う従業員削減について、需要が回復すれば操業を再開する方針を示している。一方、カナダ政府は事業環境の変化を理由に買収時の雇用維持義務を免れることはできないとの立場を示している。
今後は両者の協議に加え、政府による訴訟提起の有無、裁判所が雇用維持の約束をどのように判断するかが注目される。
10月18日時点では、最大500人の削減計画が発表され、一部従業員への解雇通知と削減が始まっているものの、最終的な削減人数や全対象者の処遇は確定していない。
また、国有化や資産売却命令などの措置についても正式な決定は確認されていない。米国の関税政策、カナダの雇用保護政策、米国企業の事業再編方針が交錯するなか、北米鉄鋼産業の今後を左右する事例となっている。





