福井県鯖江市の眼鏡枠製造業者、(有)山裕(福井県鯖江市、法人番号8210002013491)は、2026年10月29日付で事業を停止し、事後処理を弁護士に一任して破産申請の準備に入った。負債総額は約9億円。
同社は1982年創業。眼鏡フレームのOEM(相手先ブランドによる受託生産)製造を主力とし、メタル枠やコンビ枠などを手がけてきた。海外メーカーとの競争で受注が減少した時期を経て、主力取引先からの受注回復で売上高を持ち直したものの、採算改善には至らなかった。
2025年9月期には売上高が再び減少。資金繰りが悪化し、事業継続を断念した。
今回の経営破綻で注目されるのは、受注が回復しても収益の改善につながらなかった点だ。福井財務事務所が2025年1月に公表した眼鏡産業調査でも、受注の増加が見込まれる一方、価格転嫁や生産体制に課題を抱える産地の実態が明らかになっている。
1982年創業、メタル枠を中心とするOEMメーカー
山裕は眼鏡の一大産地である福井県鯖江市で、40年以上にわたり眼鏡枠製造を手がけてきた。
福井県眼鏡協会が運営する「JAPAN GLASSES FACTORY」にもフレームメーカーとして掲載されており、主要取扱品目はメタル枠、コンビ枠、サングラス。福井県眼鏡工業組合の名簿にも、金枠やナイロール枠などの製造業者として登録されている。
鯖江商工会議所関連の企業情報によると、資本金は500万円、2023年2月時点の従業員数は29人。自社ブランドによる小売販売ではなく、他社ブランド向けの製造を中心に事業を展開していた。
同社は福井県の「社員ファースト企業」にも登録され、設備導入による労働能率の向上や時間外労働の削減、従業員の賃金引き上げなどを掲げていた。
受注は回復したが利益確保できず、売上も再び減少
同社は海外の眼鏡生産地を含む同業者との競争によって、一時は受注が後退していた。
その後、主力取引先から安定した受注を確保できるようになり、売上高は回復。しかし、製造部門の採算は厳しい状態が続き、十分な利益を確保できなかった。
2025年9月期には売上高が再び減少し、資金繰りが悪化。支払いの遅延も生じるなど経営環境が厳しさを増していた。
受注回復によって売上を取り戻しても、収益力の立て直しが進まなければ事業継続は難しい。今回の山裕の経営破綻は、その問題を浮き彫りにした。
眼鏡メーカーの82.9%が「価格転嫁は不十分」
山裕の経営悪化を考えるうえで、鯖江を中心とする眼鏡産業全体の動きも見逃せない。
福井財務事務所が2025年1月に公表した「福井県の眼鏡産業における現状や課題等に関する調査結果」では、県内の眼鏡枠・眼鏡製造業者41社に対して、2024年11~12月に聞き取り調査を実施した。
調査では、2025年度の生産量について58.5%の企業が2023年度実績からの増加を見込んでいた。一方、価格転嫁については82.9%が取り組みを進めているものの不十分と回答。十分に価格転嫁できている企業は17.1%にとどまった。
また、68.3%の企業が人員不足と回答し、部品加工などを担う外注先の減少や納期の長期化も課題に挙げられている。
受注が増える一方で、製造コストの上昇を販売価格に十分反映できないという問題が、産地の企業に広く存在していたことが分かる。
ただし、これらの数値は調査対象41社の回答であり、山裕の価格設定や利益率を示したものではない。山裕の採算悪化と産地全体の価格転嫁問題を直接結び付ける資料は確認されていない。
福井県も課題としてきたOEM依存、自社ブランド・直販への転換
鯖江の眼鏡産業では、他社ブランド向けのOEM製造が長く主要な事業形態の一つとなってきた。
福井県は2015年改訂の「福井経済新戦略」で、相手先ブランド名による生産への依存を産地の課題に挙げ、自主企画製品の開発や直接販売、産地企業が主導する販路の拡大を支援する方針を示していた。
また、福井財務事務所の2025年1月調査では、41社のうち6社が自社の課題としてOEM生産への依存を挙げている。
調査対象企業からは、OEM製造と比べて価格交渉や生産量の調整がしやすい自社ブランド製品の販路拡大を進めているとの回答もあった。
もっとも、OEM製造そのものが採算悪化を招くわけではない。受注条件、製造工程、取引先との関係などによって収益構造は異なる。山裕についても、具体的なOEM契約条件や製品別の採算は明らかになっていない。
今回の経営破綻は、産地で長く課題とされてきた「製造技術だけでなく、どのように収益を確保するか」という問題を考える契機となる。
全国シェア93.5%の産地で事業所数は半減
福井財務事務所の調査によると、2022年の全国の眼鏡枠出荷額に占める福井県の割合は93.5%。国内の眼鏡枠製造を支える圧倒的な産地となっている。
一方、県内で眼鏡枠などを製造する従業者4人以上の事業所数は、2003年の387事業所から2013年には237事業所、2021年には195事業所へと減少した。
18年間で事業所数はほぼ半減しており、産地全体の生産を支える企業や加工事業者の減少が続いている。
眼鏡製造は部品加工や組立てなど、多くの工程を地域内で分担する産業でもある。福井財務事務所の調査では、外注先の減少を自社の課題に挙げた企業が41社中24社に達した。
生産需要があっても、地域内の加工体制や人材の確保が追いつかなければ受注機会を失う。鯖江の眼鏡産業は、需要の確保と生産体制の維持を同時に進める局面にある。
鯖江では2026年1月にも眼鏡枠メーカーが破産
鯖江市では2026年1月、眼鏡枠製造のマツバ眼鏡工業が福井地裁から破産手続き開始決定を受けている。
同社は1950年創業の老舗メーカーで、負債総額は約2億7,438万円。海外製品との競争などによって受注が減少し、事業規模を縮小していた。
山裕とマツバ眼鏡工業は別法人であり、個々の経営事情も異なる。ただ、眼鏡産業の集積地で製造業者の経営破綻が続いていることは、地域経済にとって見過ごせない動きだ。
負債約9億円、破産申請の準備へ
山裕は2026年10月29日付で事業を停止。事後処理を弁護士に一任し、破産申請の準備に入った。
負債総額は約9億円。破産手続きの開始決定については、現段階で確認されていない。
有限会社山裕の企業概要
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企業名 |
(有)山裕 |
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所在地 |
福井県鯖江市 |
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法人番号 |
8210002013491 |
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創業 |
1982年 |
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資本金 |
500万円(2023年登録情報) |
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従業員数 |
29人(2023年2月時点) |
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業種 |
眼鏡枠製造業 |
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主要事業 |
眼鏡フレームのOEM製造 |
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主な取扱製品 |
メタル枠、コンビ枠、サングラス |
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事業停止日 |
2026年10月29日 |
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法的整理 |
破産申請準備 |
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負債総額 |
約9億円 |