アイコン 松尾建設㈱研究① 2010.12

同社は、九州を代表するゼネコンである。佐賀市に本社を有し、東京および福岡を主力に建築から土木まで幅広い営業活動を展開している。佐賀空港は松尾空港と揶揄されるほどその実力も有している。
しかし、2003年12月佐賀銀行にて取り立て騒ぎが発生した時は、その原因が同社の破綻の噂が引き金であったという一面も有する(当時は多くのゼネコンが銀行の不良債権処理から潰されていた)。その後、同社に噂がなかったかといえばそうでもない。理由は①官庁工事への依存度が高く、官庁工事の減少が明確になっていたこと。②大型工事が高速道関係では東自動車道で受注機会僅少、九州新幹線工事は佐賀県をかする程しか通らないこと。ダム工事も限られていたこと。③自己資本率が低いことなどによる。

<業績推移の内情>
同社が今日まで持ちこたえているのは、建築部門の存在と東京支店の存在である。土木部門は民間の大規模宅造工事などがなければ、元請・下請け問わず殆ど官庁工事、その受注工事は減少の一途であった。しかし、建築部門は、官庁工事からオフィスビル・工場倉庫・マンションに至るまで受注幅は広い。
都市銀行の不良債権処理が平成14年頃には終わり、景気はファンドバブルへ移行していったが、東京はじめ主要都市で建築ラッシュとなり、同社の建築部門が経営に寄与してきた。ところが、同社の売上高は、土木部門の官庁工事の受注減少が大きく、総じて維持するだけのものとなっていた。それに加え、同社の利益は売上高の減少とともに人員削減はしてきたものの、それほどまでに上がらなかった。
同社は長い間、官庁工事を主としてきたため、殿様商売を続けてきた。そのため価格競争力はあまりないとされ、利益は自ずと低収益に苛まれ続けることになった。
但し、近年は手馴れてきて、価格競争力も有してきているともいわれている。
人員削減にしても、佐賀という受け皿のない地域を代表する企業であるため、無茶な人員削減もできないが、下記表で分かるとおり、上場各社と比しまだかなり多いように思える。企業あっての従業員である。

<財務内容、自己資本率の現状>
 同社の財務内容は、過去3期利益を積み上げ自己資本は増加してきている。しかし、41億59百万円の自己資本とその率9.29%は、10%以下の水準である。民間の大型工事で、失敗や受注先がコケたら大きな影響を受けてしまう内容である。そのためか、同社は選別受注しており、自ずと競争に巻き込まれるものとなっている。経営をより安定させるためにも20%以上の自己資本率が望まれる、まずは、も少し利益が出る企業構造にする必要がある。 
このままでは達成に長期間を要し、それだけ焦付きやリーマンショックのような景気による経営リスクは高くなる。
 借入については、07年期以降、念願の200億円台を切っている。お膝元の佐賀銀行がメインであり、各取引行は福岡銀行を除き受注に対して幅を持ち柔軟に応じている。

<結 論>
 同社に今すぐ経営不安があるわけではないが、より経営を安定させるためにも、自己資本の充実が求められる。
また、現場での事故による指名停止が九州地方整備局から相次いで発せられたことから、現場管理者および協力業者の徹底した再教育が必要である。九州地方整備局が指名停止になっている期間は、県からの受注もあまり期待できない。こうした指名停止が今後も頻発すれば、同社は官庁工事の受注ができなくなり、大きな大きな痛手を負うことなる。工務部長などの責任も明確にすべきであろう。規律が崩れている結果と言われても仕方あるまい。
過去、同社の業績で足を引っ張っていたのは、売上高の減少や採算性の問題もあるが、不良資産問題もあった。同社はバブル時代、基山地区の不動産開発などにより、各地に開発用不動産を購入して不良資産化した。しかし、そうした資産の殆どは売却するなり、評価減するなりして、片付けてきており、その後も保有していた福岡市西区の田尻地区の土地は区画整理事業地として、同社などでにより今では「福岡学園都市アカデミア周船寺」として開発された。現在同地は、売主(松尾・吉原・飯田建設工事共同企業体)として、宅地分譲を行っている。
そうしたことから経営を不良資産問題で揺るがすことは今後ないと見られる。
 中期では、長崎新幹線工事が本格化すれば、地場である同社の力が存分に発揮されるものと思われる。

 <各取引行の残高推移>

借入高/百万円
08/3期
09/3期
2010/3期
佐賀銀行
6,375
7,702
6,942
十八銀行
3,479
3,677
3,572
福岡銀行
1,948
1,964
1,808
佐賀共栄銀行
1,473
1,915
1,481
三井住友銀行
650
600
898
その他
3,240
3,192
2,217
借入合計
17,165
19,050
16,918

 
<松尾建設の過去9年間の業績推移>
連結/百万円
2002/3期
03/3期
04/3期
05/3期
06/3期
売上高
85,736
71,693
64,533
65,854
68,337
経常利益
544
680
712
750
625
当期利益
-228
-1,373
529
177
-2,228
純資産額
6,658
5,043
6,011
6,214
4,468
総資産額
77,560
66,158
58,535
57,264
57,626
自己資本率
8.58
7.62
10.26
10.85
7.75
従業員数
1,067
978
965
914
891
(外、臨時平均)
261
247
256
261
272
 

連結/百万円
07/3期
08/3期
09/3期
2010年3期
売上高
67,466
61,462
69,946
51,595
経常利益
180
415
548
805
当期利益
-592
516
564
783
純資産額
3,565
3,178
3,458
4,159
総資産額
53,667
45,731
50,221
44,512
自己資本率
6.48
6.9
6.85
9.29
従業員数
864
789
802
788
(外、臨時平均)
231
261
257
228

 
20103月期における売上高と従業員数の関係>
連結
売上高/百万円
従業員数/人
平均/百万円
東洋建設
135,450
1,645
82.3
大本組
77,947
860
90.6
若築建設
65,449
688
95.1
大末建設
54,017
615
87.8
松尾建設
51,595
788
65.5
     どの社も2009年期より、リーマンショックから大きく売上高を落としている。
 

<松尾建設の財務内容>
松尾建設㈱の要約貸借対照表2010年版 
連結/百万円
2010/3期
科目
2010/3期
流動資産
27,417
流動負債
33,558
 現金
5,020
 仕手・工事未払金
15,155
 受手・工事未収金
15,893
 短期借入金
14,944
 販売用不動産
4,369
 未成工事受入金
2,004
 未成工事支出金
955
固定負債
6,793
固定資産
17,095
 長期借入金
1,974
 有形固定資産
11,873
 退職給付引当金
4,723
  うち土地
8,967
負債合計
40,352
 その他投資等
5,071
 資本金
300
  うち投資有価証券
1,859
純資産
4,159
総資産計
44,512
総資本計
41,512
当座比率:62.31%  当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100
流動比率:81.70%    流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
純資産率:10.01%    自己資本率:9.29%
 
 
[ 2010年12月15日 ]
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