アイコン 万能細胞STAP幹細胞について吉村昭彦慶大教授が疑問投げかける

理研は5日、小保方晴子研究ユニットリーダーが1月末の論文発表後、初めてSTAP細胞の再現実験に成功したことを明らかにした。実験の客観的な証明には第三者による再現が必要だが、成果の正しさを一定程度裏付けた形だ。
  理研によると、小保方氏は理研発生・再生科学総合研究センターで先月、再現実験を開始。論文通りの手法でマウスの体細胞を弱酸性溶液で刺激し、あらゆる細 胞に分化できるSTAP細胞を作製することに成功した。細かい実験手順も含め同センターとして正しさを再確認したとしている。

人で初めてとなる万能細胞「STAP細胞」の可能性がある細胞の顕微鏡写真を、米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授のチームが5日公表した。バカンティ教授は、さまざまな種類の組織に変化できる能力を持っていることを示す遺伝子が働いているかどうかを詳しく分析しているという(共同通信・中日新聞掲載)。(バカンティ教授は2011年からSTAP細胞による猿・山羊さん・既に人の研究にも入っている・・・情報を小出しにする先生のようだ)

<吉村昭彦慶大教授の疑問>
吉村昭彦氏:1958年生、1986年京都大学理学博士、2008年4月より慶應義塾大学医学部教授(専門:免疫制御)
以下、発表原文。
もうSTAPネタはやらないつもりだったが、この一ヶ月気になってしかたなかった事案に回答が与えられたので一言。喉にささった魚の骨がとれた気分。

3/5ついに理研よりプロトコールが開示された。私には何処が『コツ』なのかわからなかったが、重大な記述があった。TCRについての記述である。
(3月5日の理研の発表では、ネイチャー向けも兼ねており英語バァージョンでしか発表されていない)

We have established multiple STAP stem cell lines from STAP cells derived from CD45+ haematopoietic cells. Of eight clones examined, none contained the rearranged TCR allele, suggesting the possibility of negative cell-type-dependent bias (including maturation of the cell of origin) for STAP cells to give rise to STAP stem cells in the conversion process. This may be relevant to the fact that STAP cell conversion was less efficient when non-neonatal cells were used as somatic cells of origin in the current protocol.

STAP幹細胞にはTCR再構成のあとはありません。予想はしていたけれどこれは(少なくとも私にとっては)衝撃的だ。これは論文のabstractの”induction”説を否定して結局cell-type-dependent=selection説を肯定するものではないか?少なくとも終末分化した細胞のリプログラミングに成功したとは結論できないのではないか。selectionであっても何らかの細胞からマウスにまでなる幹細胞を生み出したことは画期的なのかもしれない。だから西川先生はTCRデータを『重要とは思っていないのでしょう』と回答されたのだろう。ともかくも私の疑問は解消された。T細胞(somatic cell)は酸処理くらいでは(増殖可能な)万能細胞にはなれません。それってやっぱりselectionを示唆しているのでは?

ついでに今度3年になる学部学生に。TCRやBCRの遺伝子再構成は当然講義します。Nature論文のPCRプライマーではTCR再構成が起こった場合、クローンでみるとバンドが見えなくなる場合があります。クローンで見る場合はむしろ不適切かもしれない。その場合はプライマーを選ばないといけない。この理由を試験問題に出したいと思うので講義をよく聞いて欲しい。

追記)STAP細胞とSTAP幹細胞は違ってもよいのでは?とご指摘を受けた。確かにSTAP細胞のほうはまだわからない。しかし私の関心は増殖できないSTAP細胞ではなく応用可能なSTAP幹細胞。免疫分野の者なので『分化したT細胞が酸処理で増殖可能で多能性を有するiPSやESのような幹細胞になるのか』により関心があった。増えてくれないことには医療応用できないと思う。答えはNoと明確に示された。一方STAP細胞は試験管内では増殖しにくいが胚盤胞へinjectionするとマウスや胎盤になる。STAP細胞の一部はT細胞由来でそのなかに様々な組織になりうる細胞はあるかもしれない。つまり『分化したT細胞が酸処理で(胚盤胞にinjectionすると)胎盤にまでなれる万能性を有するSTAP細胞になった』可能性はもちろん残る。これを結論づけるにはキメラのTCR解析の結果を知りたいものだが、しかしD2J2のプライマーでPCRを行う程度の検出の信頼性では、受精卵由来の細胞の影響(ノイズ)があって筆者らの方法の精度では結論を出す事は難しい。明確な結論を出すには4Nやキメラの子孫で確認するべきと思う。キメラの子孫のT細胞はすべて単一TCRβを発現するはずなので(少なくともβ鎖は。αはちょっと違う。)検出はFACSで容易にできる。あ、FACSは苦手だったか(座布団一枚ください)。

クローン8個程度の解析では数が少ないかもしれないという議論はなりたつが、ともかくずっと気になっていたこと『STAP幹細胞はT細胞由来か?』が著者側から明確に回答されたので私自身は納得です。

追記2)上記英文ではCD45+細胞から造ったSTAP幹細胞を8クローン調べたとなっているがT細胞分画由来のSTAP幹細胞の間違いではないかと思う。T細胞は血球細胞の多くて10%くらい(新生児は知らない)なものなのでわざわざ8個のクローン程度でTCRを調べ、それについてコメントしたからにはT細胞分画由来STAP幹細胞を調べたものと解釈したい。論文ではCD45+なのかT細胞(リンパ球?)なのかよくわからない箇所があるので筆者も混乱しているのではないかと思う。もし全血球由来STAP幹細胞8クローンではTCR再構成がなかった、ということなら、今回の検証では『T細胞がSTAP幹細胞になったという証拠は得られなかったが、数を増やせば出てくる可能性はあるかもしれない』程度しか結論できない。積極的にpossibility of negative cell-type-dependent bias と言うからには出発はT細胞であると推測する。丹羽先生が不確かなことを言うはずがない。

上記はよく考えたらSTAP-clusterが細胞数100くらいと考えるとつじつまがあうのか。スタートはCD45+でもよいのかもしれない。10%T細胞が含まれるとして、そのクラスターから得たSTAP幹細胞にはT細胞由来がない。これなら8個のクローンであっても母数が大きいのでだいぶ信頼できるだろう。結論は同じで『T細胞はSTAP幹細胞になれない』。それでも確実なことを言うためにはT 分画由来のSTAP細胞からSTAP幹細胞を誘導したほうがよいにこしたことはない。

追記3)一時サーバーがダウンした模様。アクセスが集中したか?ごくごく論理的なことで大それた事は書いていません。憶測もほとんどなく、発表された事実から論理的に演繹できる推論しか載せてない。

追記4)同様のことを何人かがおっしゃっている。『STAP細胞TCR再構成は無かったという話の衝撃』『STAP細胞の非現実性について』勝手ながら引用させていただく。特に後者のかたはデータベースに登録されたSTAP細胞のDNA配列情報からSTAP細胞もTCR再構成の痕跡が無いと言われている。もしそれが本当なら明らかに論文のPCRの図と矛盾する。はやり組織幹細胞か何かをみていたのか?そうするとinduction説はますます弱くなる。

追記5)今朝のニュースでは『小保方氏再現実験に成功』と出ていた。STAP細胞はできるのだろう。そのオリジンは(すくなともSTAP幹細胞は)T細胞ではない。では何なのだろうか?もしそれがわかればさらに大発見だろう。

追記6)また頻繁にサーバーがダウンする。私の言っている程度のことは論文と今回のプロトコールに書かれたことから当然推論される程度のことで大それた憶測や秘蔵ネタを披露している訳ではない。よくよく論文を見直すとT細胞分画由来のSTAP細胞からはマウスは作製されていないように思える。CD45+分画から造られたSTAP細胞由来のキメラであれば、調べてもT細胞の存在確率から言ってその子孫でTCR再構成が見られる可能性は低いのではないか。これでは議論しようがない。免疫関係の疑問には一応の結論が得られたのでSTAPネタはこれで終わりにしたい。

[ 2014年3月10日 ]
モバイル
モバイル向けURL http://n-seikei.jp/mobile/
スポンサード リンク

コメント

関連記事

  • この記事を見た人は以下も見ています
  •  
  • 同じカテゴリーの記事です。
  •   


PICK UP

↑トップへ

サイト内検索