フィリピンのサラ・ドゥテルテ副大統領(前大統領の娘)が11月23日、自分が殺された場合にマルコス大統領を暗殺するよう「殺し屋を雇った」などと発言したことを巡って、マルコス氏は25日、脅迫を軽視するつもりはないと述べた。
マルコス氏はビデオメッセージで「このような犯罪計画を見過ごすことはできない」とした。副大統領を名指しはしなかった。
「この数日に聞いた発言は問題だ」とした上で、「私は彼女らと闘う」と宣言した。
副大統領の発言を受けて、治安当局は週末、警備を強化するとともに、調査を実施することを明らかにした。
一方、サラ氏は記者団に対し、大統領の声明をまだ聞いていないが、後で返答すると述べた。
司法省によると、副大統領に訴追免除の特権はなく、サラ氏は脅迫で国家捜査局から呼び出しを受けることになる。
同省のジェシー・ヘルモゲネス・アンドレス次官は記者会見で「これは深刻な脅迫であり、非常に高い官職に就く当局者からなされたこのような種類の脅迫に対して法的措置をとらないのであれば、わが国にとって非常に、非常に悪い前例となる」と述べた。
以上、
サラ氏のマルコス氏への攻撃は、サラ氏の父のドゥテルテ前大統領が2016~22年の任期中に推進した薬物犯罪対策「麻薬戦争」における6千人以上の殺害について議会で追及された数週間後に行われた。
マルコス政権は議会の公聴会で、国際刑事裁判所(ICC)が人道に対する罪の疑いで調査しているドゥテルテ前大統領の逮捕に向けた国際的な取り組みに協力する姿勢を初めて示していた。
ただ、マルコス政権誕生には、ドゥテルテ前大統領派の支援がなければ難しく、前大統領が脱退したICCに復帰することは考えていないと表明し、もしもICCが国内でドゥテルテ前大統領を逮捕する動きがあれば、国内法により、そうした行為をICCにさせないと公言していた。
ドゥテルテ氏は、
今年10月と11月の下院と上院の公聴会に出席、「麻薬戦争」における殺害の正当性を主張し、警官以外にも7人の「殺し屋」を雇い、自らも「6、7人を殺害した」と、直接手を下したことも認め、多くの子供を含む殺害に関与した警察官についてはすべて自らの命令指示であり、すべての責任は自分にあるとも表明している。また、ICCが捜査にフィリピンに来るなら、協力するとも表明している。
しかし、マルコス氏にしても、今回のICCへの迎合する動きは、ドゥテルテ派をこのまま放置すれば政局にも関係し、次期大統領にサラ氏が就任する可能性も高く、それを阻止し、院政をしくためにもドゥテルテ家の信用を失墜させる狙いがあると見られる。
マルコス政権は、国内でドゥテルテ氏の尻に火をつけるため、国会で「麻薬戦争」の公聴会を開催したものと見られる。
今回の「殺し屋指示」は、フィリピンで政治的に絶大な影響力を誇るマルコス家と(巨大な新興勢力の)ドゥテルテ家の確執が激化したと受け止められている。
ドゥテルテ前大統領の娘であるサラ氏(現在は副大統領の職のみ)は、今年6月にマルコス政権の閣僚ポストの教育相を辞任していた。
サラ氏は、2022年のマルコス大統領誕生の立役者でもあった。
サラ氏は選挙前に撤退し、マルコス氏に協力することを表明し、見返りに副大統領の要職に就いた。その時には両家の政治同盟と受け止められていた。
サラ氏は、親父のようなポピュリスタではなく、穏健派とみなされていたが、今回の発言に国民も驚きを持って受け止めており、親父の信奉者以外はサラ氏から離れ、次期大統領の席は遠のいたとも見られる。
いずれにしろマルコス氏によるドゥテルテ派の排除の動きが根底にあるようだ。
フィリピンの大統領の任期は1期限りで6年。2028年まである。