高市早苗首相は15日の党首討論で、飲食料品の消費税減税を協議する社会保障国民会議について、8月初めまでに結論を出すよう求めた。「8月の頭であれば十分間に合う」と述べたが、これは減税が今夏に始まるという意味ではない。現在想定されている2027年4月の実施に向け、法案作成や事業者のシステム対応に必要な期限を示した発言とみられる。
公約の「ゼロ」から実務者案は「1%」へ
高市政権が当初掲げたのは、給付付き税額控除を導入するまでの2年間、酒類と外食を除く飲食料品の消費税率を8%からゼロにする構想だった。首相はこれを中低所得者支援の本格制度が整うまでの「つなぎ」と位置付けている。
しかし、国民会議で示された議長案は、2027年4月から2029年3月まで税率を1%とし、2027年秋から1%分の税収に相当する約6000億円を、働く中低所得者への給付に充てる内容である。すべての消費者を一律にゼロ税率とするのではなく、減税と所得連動給付を組み合わせて対象者の負担を「実質ゼロ」に近づける設計だ。
首相は国民会議の結論を尊重するとしながら、自身の「2年間限定」とする考えは変わらないとも述べた。結論を白紙で委ねるというより、実施期間の大枠を維持したまま、税率や給付方法について各党の妥協点を探る姿勢といえる。
最大の壁は年間4兆円を超える財源
食料品の税率をゼロにした場合、必要な財源は年間約5兆円、1%にとどめても約4兆4000億円と試算されている。首相は赤字国債に依存しない方針を示しており、歳出削減や税収の上振れだけで安定財源を確保できるのかが最大の難題となる。2年間だけでも、1%案で単純計算すれば9兆円近い財源が必要になる。
家計の負担軽減効果についても、試算には幅がある。首相は党首討論で、8%分をなくした場合の軽減額を1人当たり年間約4万円と説明した。一方、民間調査では標準的な4人家族で年間約6万4000円との試算もある。世帯構成や食料品支出の前提によって差が生じるため、政府には計算根拠を明確に示すことが求められる。
税率を下げても価格が同じ幅だけ下がるとは限らない
税率を8%から1%に引き下げた場合、税抜き価格が変わらなければ税込み価格は理論上約6.5%下がる。しかし、原材料費や人件費、物流費が上昇する局面では、企業が今後予定していた値上げを減税と同時に実施し、店頭価格の下落幅が小さくなる可能性がある。
野村総合研究所は、食料品価格の上昇が続くとの前提では、実際の価格低下が約3.2%にとどまるケースを示している。減税額がそのまま消費者へ移るとは限らず、価格表示や便乗値上げをどのように監視するかも課題となる。
外食産業や農業者への副作用
現行制度では、スーパーやコンビニで購入する飲食料品は8%、外食は10%である。食料品だけを1%にすれば、持ち帰りと店内飲食の税率差は9ポイントに広がる。消費者が外食を控えて持ち帰りを選ぶ動きが強まれば、飲食店には逆風となる。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、免税事業者や簡易課税を選択する農業者について、仕入税額控除や還付の仕組みによって新たな負担が生じる可能性も指摘した。さらに、2029年に税率を1%から8%へ戻せば、制度上は予定された終了であっても、家計には大幅な増税と受け止められかねない。
小売店や食品会社にとっても、レジ、会計ソフト、値札、請求書、インボイスの変更が必要になる。2年後に税率を戻すのであれば、短期間に2度のシステム改修を迫られる。減税効果だけでなく、事業者が負担する実務コストも政策評価に含める必要がある。
「国家の品格」だけでは決められない
首相は、食料品は生きるために不可欠であり、国民が困っている時に税率を下げることを「国家の品格」と表現した。理念としては理解を得やすいが、政策として問われるのは、誰の負担をどの程度減らし、その費用を誰が負担するのかである。
所得にかかわらず恩恵を受けられる消費税減税は、即効性と分かりやすさがある。一方、食料品への支出額が大きい高所得世帯ほど、金額ベースの恩恵も大きくなりやすい。低所得者へ重点的に支援するなら給付付き税額控除が適するが、所得情報の把握や給付事務には時間がかかる。
8月初めまでに決めるべきなのは、単に「減税を実施するか」ではない。税率、対象品目、恒久財源、価格転嫁対策、事業者支援、2年後の出口までを一体で示せるかが問われている。ここが曖昧なままでは、2年間の物価高対策が、終了時に新たな負担増と混乱を招く恐れがある。
なお、党首討論では首相陣営による中傷動画作成を巡る報道も取り上げられた。首相は関与を否定し、「疑惑」という表現は心外だと反論している。現段階で関与が確定した事実として扱うことはできず、報道では「疑惑が指摘され、首相側が否定している」と区別して記述する必要がある。