アイコン 瀬川浩司東大教授らタンデム太陽電池開発へ 有機系で変換効率世界記録達成

太陽光発電は、コスト面と変換効率面から、現在主流のシリコン系など無機系太陽電池に変わる低コストの有機系太陽電池の研究開発が行われている。
瀬川浩司東大教授(先端科学技術研究センター)らは、新色素(DX)で、有機系太陽電池を開発し、変換効率12%を達成した。理論的には30%まで向上させることができ、大きく低コストがはかられるものと期待されるという。
 (なお、現在の研究段階での各種無機系太陽電池の発電効率の最高は41.5%、一般に市販されている分では10~15%程度となっている)

スピン反転励起が可能な新色素DXで有機系太陽電池の大幅な広帯域化を実現
1.発表者:
瀬川浩司(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)
木下卓巳(東京大学 先端科学技術研究センター 特任助教)
2.発表のポイント:
◆従来の光化学の常識を覆すスピン反転励起が可能な新色素DXを合成し有機太陽電池の広帯域化に成功した。
◆新色素DXをボトムセルに用いたタンデム太陽電池の開発により、有機系タンデム太陽電池におけるエネルギー変換効率の世界記録を更新した。
◆新色素DXを用いた30%の変換効率を超える高効率な有機系太陽電池の実用化に道を拓くものであり、太陽光発電の低コスト化につながると期待される。
◆本研究は、内閣府最先端研究開発支援プログラム(FIRST)「低炭素社会に資する有機系太陽電池の開発(中心研究者瀬川浩司)」の成果である。

3.発表概要:
 色素の光吸収を発電に利用する有機系太陽電池は、低コストが特徴であるが、使われる色素の光の吸収帯域が狭いことが問題であった。
東大先端科学技術研究センターの瀬川浩司教授、木下卓巳特任助教らの研究チームは、分子が光を吸収する際に電子の持つスピンの向きを反転させることができる新色素(DX)を合成し、DXを用いた有機系太陽電池で可視光から目に見えない1000nm(1ミクロン)以上の近赤外光まで非常に高い効率で発電させることに世界で初めて成功した。

通常の有機分子は光吸収によって逆向きのスピンが対になった励起一重項状態を生成するが、本研究では、「光吸収と同時に電子スピンの向きを反転させて、電子スピンが同方向に揃った励起三重項状態を直接生成させる」という通常では起こらない過程を効率よく起こすことに成功した。その結果、色素の光吸収を行う帯域を近赤外領域まで大幅に広げることに成功した。
また、DXを用いた太陽電池と別の色素を用いた太陽電池を積層させた「タンデム太陽電池」を開発することにより、有機系タンデム太陽電池におけるエネルギー変換効率の世界記録を更新した。
このタンデム太陽電池では、30%を超える光エネルギー変換効率を実現することも原理的には可能である。本研究を契機に高効率な有機系太陽電池の実用化が進めば、太陽光発電の低コスト化につながると期待される。

4.発表内容:
日本では再生可能エネルギーの利用拡大が急務となっている。そのなかでも、太陽光発電の利用拡大に期待が集まっているが、太陽電池の低コスト化が重要な課題となっている。このため、シリコン太陽電池を中心とした無機系太陽電池に代わる低コスト太陽電池として色素増感太陽電池や有機薄膜太陽電池などの有機系太陽電池の研究開発が盛んに行われている。
色素増感太陽電池は、1960年代の本多藤嶋効果の発見を契機に考案され、今日では10%を超えるエネルギー変換効率が得られるようになった。しかしながら、そのエネルギー変換効率は増感色素の分光感度波長領域が狭いため無機系半導体を用いた太陽電池に比べまだ低い。分光感度特性の長波長化に関する研究は数多く試みられてきたが、高効率な近赤外光電変換を実現した報告はこれまで無かった。

このタンデム太陽電池では、原理的には30%を超える光エネルギー変換効率を実現することも可能である。無機化合物半導体を用いたタンデム型太陽電池の場合、光量の減少に伴い変換効率が低下してしまうのに対し、タンデム型DSSCは変換効率が向上する。このことから、タンデム型DSSCは、天候が優れない日や窓際など、光量が不足しがちな場面での運用につながる可能性がある。
本研究では、スピン軌道相互作用の制御法の提案により様々な分子デバイスへの応用が考えられるだけでなく、有機系太陽電池が高効率化されることにより、有機系太陽電池の実用化へつながることを期待させるものとして、大きなインパクトを与えるものである。
本研究は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を受けて実施している内閣府最先端研究開発支援プログラム(FIRST)「低炭素社会に資する有機系太陽電池の開発(中心研究者瀬川浩司)」の成果である
と発表した。
なお、当研究成果は、Nature Photonicsに英国時間6月16日付の電子版で公開された。

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[ 2013年6月24日 ]
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