アイコン 原油価格の全体像 今後の下げ要因と上げ要因 原油生産・消費ランキングなど

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原油WTI価格が1月20日26ドル台の安値12年8月ぶりにつけた。

欧米の対イラン経済制裁解除により、同国産の原油輸出が増え、供給が世界的に一層だぶつくとの思惑から値下がりした。
 終値は、前日比1.91ドル安の1バレル=26.55ドル。国際エネルギー機関(IEA)が前日発表した月報では、今年も供給過剰状態が続くとの見方を示したことも引き続き材料視され、売り注文が殺到した。
しかし、22日のWTI価格は、ECB(欧州中央銀行)トラギ総裁が、一層の金融緩和方針を打ち出したことにより、欧州の景気回復期待から32ドル台まで急伸した。
それに連れ、円も円安に急振れしている。
 
中国は、中央政府が大型経済対策を打ち出してもその効果が遅々として経済指標に現れず、信用できないものとなっており、中国株の再暴落が、下落を続ける世界の証券市場・原油市場に追い討ちをかけていた。今回、イラン産原油禁輸も含め、原油価格に極端に悲観的なものばかり取り上げられるなか、ダボス会議でトラギ総裁が金融緩和方針を打ち出したインパクトは大きく、市場は即、反応するものとなった。
 
<WTI先物価格日足チャート>
 

原油価格の今後の下げ要因と上げ要因
 
2014年地域別名目GDP
世界経済は、北米、西欧、中国の経済状況に左右されている。また、中国経済は、日本・韓国・台湾・香港・東南アジア経済に大きな影響を与えている。

 

2014年地域別名目GDP /億US$
北米
19,133.47
24.8%
  うちアメリカ
17,348.08
22.5%
中南米
5,799.33
7.5%
西欧+東欧
18,268.00
23.6%
東欧
1,549.50
2.0%
旧ソ連
2,551.54
3.3%
東アジア
17,201.80
22.3%
  うち中国
10,356.51
13.4%
  うち日本
4,602.37
6.0%
東南アジア
2,523.41
3.3%
南アジア
2,581.45
3.3%
北アフリカ
699.75
0.9%
中・南アフリカ
1,187.78
1.5%
オセアニア
1,665.54
2.2%
中東
3,533.64
4.6%
合計
77,269.17
100.0%
・北米+西欧・北欧+東アジアで全体の70.6%
・合計誤差あり、
 
Ⅰ、原油価格の押し下げ要因
1、米国在庫増、中国在庫増
2、イラン産原油の生産および輸出が顕著に増加
3、中国、東南アジア経済の更なる減速
4、米国経済の減速
5、3月のOPEC総会でも増産維持
6、シェールオイルの輸出拡大
 
Ⅱ、原油価格の押し上げ要因
1、 短期
(1)米国在庫減、中国在庫減
(2)中国購入量増加
   (3)経済指標による中国経済の若干の回復
   (4) ECBの金融緩和政策強化
 
2、中長期
(1) 3月の融資見直し期にシェールガス会社への融資打ち切り多発、シェールガス会社の再編成=リストラ=整理淘汰へ
(2) 3月のOPEC総会で減産表明
(3 )IS支配地のイラク・シリア原油生産施設の大量破壊
(4) 中国経済回復と東南アジア経済の回復
(5) アメリカ経済の更なる拡大
(6) 欧州経済の回復
 
Ⅲ、それぞれの原価と埋蔵量
原油の原価は10ドル~20ドル 生産設備の減価償却費のみ
シェールガス・オイルの原価は40ドル~60ドル(井戸の埋蔵量による)
 カナダで進むオイルサンド産原油は重質油で露天の50~掘削の70ドル

 

2014年末の原油埋蔵量
順位
国名
原油確認埋蔵量
シェア
(10億バレル)
2014
1
ベネズエラ
298.3
17.5%
2
サウジアラビア
267.0
15.7%
3
カナダ
172.9
10.2%
4
イラン
157.8
9.3%
5
イラク
150.0
8.8%
6
ロシア
103.2
6.1%
7
クウェート
101.5
6.0%
8
アラブ首長国連邦
97.8
5.8%
9
アメリカ
48.5
2.9%
10
リビア
48.4
2.8%
小計
 
1,445.4
85.0%
その他
 
254.7
 
 
 
1,700.1
100.0%
BP, Statistical Review of World Energy 2015
・現状消費量約50年分、シェールガス埋蔵量は別途。
 
 
<シェールオイルの国別可採埋蔵量(2013年)>
シェールオイル採掘可能埋蔵量 10億バレル
順位
国名
採掘可能埋蔵量
1
ロシア
75
2
アメリカ
58
3
中国
32
4
アルゼンチン
27
5
リビア
26
6
オーストラリア
18
7
ベネズエラ
13
8
メキシコ
13
9
パキスタン
9
10
カナダ
9
その他
 
 
合計
 
245
・出典:米エネルギー省エネルギー情報局(EIA)
 
原油生産の平均原価>
原油生産の平均原価 参考
 
ドル
中東諸国の内陸油田
10~29
  陸上の古い生産整備では安い(数ドル)
 
湾岸海底油田
43
超重質油
49
深海油田
53
ロシア内陸油田
54
その他諸国の内陸油田
55
超深海油田
57
 メキシコ湾やブラジル沖など
 
北米のシェール油田
40~60
カナダのオイルサンド(重質油) 
55~70
 安価な露天掘りと高くつく掘削がある
 
 
中国の動向
2014年の中国原油輸入量は、前年比9.5%増の3億0,838万トン(日量617万バレル)となり過去最高を記録、15年も9.3%増加し、過去最高を更新し続けている。
しかし、原油は暴落している。事由は、今や米国に次ぐ原油輸入大国である中国経済の低迷にある。その反面、輸入増となっている。その代わり、2015年は石油類輸出が大幅に増加している。
自国経済の不振(2015年のGDP6.9%増、うち鉱工業は6.0%増)により、あぶれた精製された石油類が、安価に世界へ輸出されるようになり、石油類もまた原油価格とともに暴落し、世界各国の石油精製会社を震撼させ、各国の経済疲弊を招かせている。(鉄鋼製品もまったく同様)
こうした、中国からの安価な石油類の全世界への輸出が、原油価格を押し下げ、また、それまで輸出していた韓国や日本などの石油精製会社を駆逐し、世界で見れば原油価格下落のスパイラルを描かせている。
 
Ⅳ、OPEC原油と米シェールオイルによる市場争奪の戦い
 これまで、価格を上げるために減産ばかりして価格を吊り上げ暴利を貪ってきた中東産油国。しかし、価格を上げ過ぎ、米国では採掘原価が原油より高いシェールオイルの商業生産が可能となり、一機に開発が行われ、リーマンショック下の米国にエネルギー革命をもたらし、米国の経済回復の原動力となった。
米国の原油輸入量が減少する中、中国経済が拡大して輸入量が拡大してきたことから、原油価格が高止まりしていた。
 そうした中で、2011年まで、世界最大の原油輸入国であった米国は、輸入量を減らしている。
原油価格が2014年6月から暴落を開始したのは、中国経済の低迷にあった。行き場のなくなった原油は、供給過剰に陥り2015年1月にかけ暴落した。そうした中、いつもならOPECが生産調整するのであるが、シェールオイル生産拡大により、米国を除き経済低迷下にある世界市場が、このままではシェールオイルに市場を奪われてしまうという危機感が、OPECを主導するサウジに台頭した。
米国へも大量に輸出しているサウジは、米国のシェールオイルとの米国内での市場争奪の戦いを続けることになった。
そのために仕掛けたのが供給過剰下のOPEC生産量の維持であった。
米国の原油輸出は1975年に禁止されたが、シェールオイルの増産で2015年12月解禁された。しかし、原油価格の暴落で、本格的に購入する国はない。
 
原油価格は、昨年6~8月にかけての中国証券市場の大混乱、金融緩和策を立て続けに打ってきたにもかかわらず経済低迷を受けた上海証券市場の暴落により原油も下落、その後、上海証券市場が中国当局の介入もあり落ち着いたものの,発表される毎に経済指標の悪化が進み、原油価格はイラン産原油の禁輸制裁解除決定により下落が進んだ。
新年に入り、中国当局の元安誘導を機に今年はじめから上海株式市場が、更に暴落開始、原油もそれに連れ暴落してきた。
今日では、イラン産原油の輸出が解禁され、OPEC内で主要産油国と対立するイランでもあり、その思惑から原油価格が暴落の中で揺れ動いている。
こうして20日一時26ドル台まで下げ一途で暴落した原油価格であるが、欧州経済回復のため、ECBトラギ総裁の金融緩和方針演説に、22日には32ドル台まで急回復している。
 
ただ、現実の経済指標に価格は左右され、どこまで価格が回復するか不明な点も多い。3月には、ECBの金融緩和策の実施や米FRBの金利上げの有無、日本の更なる金融緩和政策が待っている。
だが、一番原油価格に影響するのは、やはり中国の経済指標に明るさが見えてくることにある。
 
<アメリカとサウジのオイル戦争>
<30ドル台ではシェールオイル生産会社はほとんど赤字>
原油価格をコントロールできるのはOPECであることは今も間違いはないが、その世界シェアはシェールオイルや北極原油の生産拡大などで落ちている。
原油価格の暴落で生産調整しないOPECは悪者のようにも見えるが、アメリカのシェールオイル生産については自国内消費でもあるものの、一切、生産調整などは行われていないどころか、価格が上がれば即増産体制に入っている。 
昨年4月ころまでに、シェールオイルの掘削リグ稼動数が半減した。しかし、停止したのは、原価が高い効率の悪いリグであり、生産量は減少しなかった。埋蔵量の豊富な地の生産は増産、生産量が多いリグが稼動し減産されていない。アメリカではシェールオイルの輸出禁止の中、価格が低下していた(シェールオイルは原油価格に関係なく低下していた)。しかも、今や原油安に連動し、30ドル割れともなるとシェールオイル生産会社は、すべて大赤字に直面することになる。・・・それをサウジは狙っていた。
 
米金融機関も、生産会社に対して、債務超過ともなると融資撤退が現実となる。そうなれば、シェールオイル生産会社は一挙に整理統合される可能性が高い。それは融資のチェックが入る今3月末と9月末がターゲットとなる。

 

アメリカの原油輸出入量 千バレル/日
 
輸入
輸出
 
米国
世界
米国
世界
2008年
12,872
54,626
1,967
54,626
2009年
11,453
52,333
1,947
52,333
2010年
11,689
53,510
2,154
53,510
2011年
11,338
54,160
2,495
54,160
2012年
10,587
54,748
2,682
54,748
2013年
9,792
56,243
3,564
56,243
2014年
9,221
56,736
4,099
56,738
・資料:BP Statistical Review of World Energy June 2015
 
 
<OPECとイラン>
サウジとしては、ここにきてイスラム宗派で対立するイラン(2016年1月17日禁輸解除、欧州は2012年から禁輸、米国は40年前から禁輸)をも牽制する動きとなっている。
ただ、OPEC加盟国にはサウジの政治戦略に対して異にしている国もあり、イラン牽制ではOPEC加盟国を統一できないものと見られる。
 
 
<石油輸出国機構=OPEC> 産出量世界シェア41.3%
石油輸出国機構=OPEC加盟12ヶ国と2014年の生産量
国名
加盟年
生産量
シェア
サウジアラビア
1960
973.0
32.1%
イラク
1960
333.0
11.0%
イラン
1960
281.0
9.3%
クウェート
1960
280.0
9.2%
ベネズエラ
1960
246.0
8.1%
カタール
1961
71.0
2.3%
リビア
1962
46.0
1.5%
アラブ首長国連邦 UAE
1967
275.0
9.1%
アルジェリア
1969
112.0
3.7%
ナイジェリア
1971
191.0
6.3%
アンゴラ
2007
166.0
5.5%
エクアドル 2007年(再加盟)
2007
55.0
1.8%
合計12ヶ国
 
3,028.0
100.0%
・単位/日量および万バレル
・出典:原油生産量はIEA(2015年1月号)
 
 
<暴落スパイラル演じるサウジ>
オイル生産戦争をサウジがOPECを使い行っていた。また、サウジが宗派の違いから嫌うイランの原油輸出解禁でも、イラン側に価格メリットを与えない政策にもある。
ただ、ここまで下がれば、原油生産のほか産業のない中東諸国にとって、財政赤字が甚だしく、これまで膨大に蓄えた資産の切り売りをして事に当たっている。
その資産の切り売りは、世界に投資してきた資産の切り売り=換金化であり、今日の世界的な株価の暴落を招き、さらに世界経済を疲弊させ、原油価格の暴落に歯止めがかからなくなってきている。
原油価格の暴落スパイラルは、すでにサウジの思惑から下振れし、収拾が付かない状態にいたっているともいえる。
このままでは、3月に行われるOPEC総会では、南米加盟国の分裂の可能性すらある。
また、経済が世界で唯一堅調だった米経済も、今後多く発生する可能性が高いシェールガス・オイル会社の破綻から変調しだし、怪しくなってくる可能性すらある。
そうなれば、更なる暴落も想定される。
 
 
<2013年の原油産出量(日産)ランキング>
2014年の原油産出量(日産)ランキング
順位
国名
生産量(万バレル)/日
2010
2013
2014
1
アメリカ
755.2
1,000.3
1,164.4
2
サウジアラビア
1,007.5
1,152.5
1,150.5
3
ロシア
1,036.5
1,078.8
1,083.8
4
カナダ
333.2
394.8
429.2
5
中国
407.7
418.0
424.6
6
UAE
289.5
364.6
371.2
7
イラン
435.6
355.8
361.4
8
イラク
249.0
314.1
328.5
9
クウェート
253.6
312.6
312.3
10
メキシコ
295.9
287.5
278.4
11
ベネズエラ
283.8
262.3
271.9
12
ナイジェリア
252.3
232.2
236.1
13
ブラジル
213.7
211.4
234.6
14
カタール
167.6
199.5
198.2
15
ノルウェー
213.6
183.7
189.5
その他
 
 
 
 
合計
 
8,329.6
8,680.8
8,867.3
OPEC
 
3,508.8
3,682.9
3,659.3
OPEC
 
42.1%
42.4%
41.3%
資料:BP Statistical Review of World Energy June 2015
 
 
<原油消費量国別ランキング>
2014年 世界の原油消費量 1日当たり/千バレル
 
国別
2007
2010
2014
14/10
1
アメリカ
19,490
19,180
19,035
-0.8%
2
中国
7,837
9,266
11,056
19.3%
3
日本
4,848
4,442
4,298
-3.2%
4
インド
3,077
3,319
3,846
15.9%
5
ブラジル
2,452
2,701
3,229
19.5%
6
ロシア
2,866
2,895
3,196
10.4%
7
サウジアラビア
2,378
2,793
3,185
14.0%
8
韓国
2,308
2,370
2,456
3.6%
9
カナダ
2,315
2,316
2,371
2.4%
10
ドイツ
2,502
2,445
2,371
-3.0%
11
イラン
1,960
1,874
2,024
8.0%
12
メキシコ
2,054
2,014
1,941
-3.6%
13
インドネシア
1,294
1,458
1,641
12.6%
14
フランス
1,889
1,763
1,615
-8.4%
15
英国
1,683
1,588
1,501
-5.5%
16
タイ
1,007
1,118
1,274
14.0%
17
シンガポール
974
1,157
1,273
10.0%
18
スペイン
1,557
1,394
1,205
-13.6%
19
イタリア
1,661
1,532
1,200
-21.7%
 
その他
21,963
22,242
23,369
5.1%
 
総計
86,115
87,867
92,086
4.8%
資料:BP Statistical Review of World Energy June 2015
 
 
<原油輸入額ランキング>
原油輸入額ランキング                単位:mil.US$
順位
国名
2014
1
米国
246,969
2
中国
228,320
3
インド
132,954
4
日本
130,690
5
韓国
94,972
6
ドイツ
65,696
7
オランダ
57,601
8
スペイン
44,262
9
フランス
38,874
10
イタリア
38,589
・暴落したのは20156月以降。
 
 
<2014年の各国・地域の輸出入量>千バレル/日量
2014年 各国・地域の輸出入量 千バレル/日
 2014年
輸入
輸出
 
Crude
Product
Crude
Product
欧州
8,974
3,627
12,601
232
2,061
2,293
アメリカ
7,338
1,883
9,221
339
3,760
4,099
他アジア
4,826
2,899
7,725
718
1,871
2,589
中国
6,209
1,331
7,540
8
539
547
日本
3,383
950
4,333
0
278
278
インド
3,809
415
4,224
1
1,281
1,282
シンガポール
916
2,140
3,056
6
1,489
1,495
中南米
445
1,787
2,232
3,294
635
3,929
カナダ
600
562
1,162
2,985
550
3,535
中東
230
904
1,134
17,073
2,688
19,761
オーストラリア
530
492
1,022
241
69
310
メキシコ
0
641
641
1,135
155
1,290
旧ソ連
2
134
136
5,921
3,012
8,933
ほか
420
1,289
1,709
5,729
666
6,395
総計
37,682
19,054
56,736
37,682
19,054
56,736
資料:BP Statistical Review of World Energy June 2015
・ほかアジアは、中国、日本、シンガポール、インドを除くアジア(韓国、ブルネイなど入る)
 
0122_05.jpg

[ 2016年1月25日 ]
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