アイコン 第11大栄丸、海底に沈むヒロ兄の妹が「少年の主張」で特別賞受賞

海底に沈む大栄丸4月14日平戸市沖で第11大栄丸は高波に遭い遭難、漁船員12人は80mの海底に沈んだままになっている。

 

海底に眠るヒロ兄(にい)こと平松大嗣さん(20)への思いを語った妹の桃子さん(生月中3年)のスピーチが、平戸市主催の「少年の主張」中学生の部で特別賞を受賞した。

全文

 「もう会えないけれど、ずっと見守って」

 私は今まで命のことについて考えたことがありませんでした。この14年間を何も考えずに生きてきたので、友達や周りの人に傷つけることをしてきたと思います。けれども、そんな私が最近、命のことについて考えるようになりました。
 それは、4月14日のできごとでした。その日の朝、私は熱が少しあり、学校を休もうかと考えていました。すると兄が「このくらい大丈夫さ。学校行けるってー」と、いつもと違う優しさで私に言うのです。兄は私の6つ上。年はそんなに離れていませんが、兄ということもあり私には優しくもあり怖い兄でもありました。そんな兄との会話はこれで終わりました。
 その日は、兄の乗る大栄丸漁船団の出船の日でした。風の強い日でしたが、変更はなく出航するようでした。私も兄の言葉もあり、普段通りに学校へ行きました。けれど放課後になり帰ろうとすると、突然担任の先生が車で送ってくださるというのです。そして先生が思いきったように言われた言葉は「兄ちゃんの乗っとる船が、事故にあったって」というひと言でした。不安に思いながら家へ入ると親せきの人がたくさん来ていて、私にも大変なことが起こったとわかりました。
 「なんかあったと?」という私の質問に答えたおばさんの言葉は、「兄ちゃんの船の沈没したらしか」というものでした。それを聞いた瞬間、私は信じられない気持ちでいっぱいでした。
 「ヒロ兄(にい)はどこにおると? 船の中におると?」と私が尋ねると、おばさんは「ま
だ詳しかことはわからんけど、船の中におるごたる」というのです。
 私はその言葉を聞いたとたん、涙がどんどんこぼれ落ち、話すこともできませんでした。
そして「なんで? なんでヒロ兄の乗った船が?」という思いでいっぱいでした。けれども
一方で、ヒロ兄が死ぬはずはない、きっとどこかで助かっている、という思いも強くありま
した。
 その日から、テレビでも新聞でも事故のことばかり報じられていました。そのどれを見て
も兄の姿が浮かんできて涙が出るのです。兄の船が沈んだ辺りまで行ったこともありました。
私はそこで兄に「早く帰っておいで」と心の中で何度も呼び掛けました。
 事故から2カ月が過ぎた今、私はいまだに事故が起きたことを信じられずにいます。兄は
まだ20歳。つい何日か前まで一緒にご飯を食べたりテレビを見たりして過ごしていたのに、
いなくなったなんて信じられません。ただいつも通り仕事に行っているだけで、あと少しし
たら帰ってくるとしか思えないのです。
 でも日がたつにつれ、これが現実だと思うようになってきました。そして、兄に言いたいこ
とが次々にわいてくるのです。
 「ヒロ兄、桃子はこれからいろんなことにあきらめないで頑張るからね。もう会えないけれ
ど、これから先もずっと桃子の兄ちゃんとして見守っていてください。妹として何もできなく
て、そして苦しいときに助けてあげられんでごめんね」
 こんなことを考えていると、命がなくなるというのはこんなことなのだと実感します。それ
は大切な人に、どんなに強く願っても二度と会えなくなってしまうということです。このこと
があってから私は、あらためて身近にいる家族や友達のことを大切にしなくてはいけないと思
うようになりました。「命」とはたった漢字一文字だけど、とても深い意味があることに、兄
が気づかせてくれたのだと思います。
 今の私にできること。それは、1日1日が自分にとって充実した日々になるように、今を
大事にすることだと思います。そして、1つしかない命を大事に、兄の分まで精いっぱい生
きていきたいです。

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[ 2009年6月22日 ]
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