病院を守れば街が揺らぐ? 但馬40億円支援の衝撃
兵庫県北部・但馬地域で、公立病院を巡る深刻な財政問題が表面化している。豊岡市と朝来市は計25億円の貸付に踏み切り、養父市と香美町も八鹿病院へ約14億円を支援する方針を決めた。地域全体で約40億円の公金が投入される異例の事態である。
背景にあるのは、公立病院経営の急速な悪化と、自治体が直面する「地域医療の維持」と「財政健全化」のジレンマだ。
まず、豊岡市と朝来市が巨額貸付を決断した最大の理由は、「経営健全化団体」への移行を回避するためとみられる。地方公共団体財政健全化法に基づき、資金不足比率が基準を超えれば健全化計画の策定が義務付けられ、国や県の関与が強まる。自治体の裁量が狭まり、子育て支援など独自施策にも影響が及びかねない。補助金ではなく「貸付」としたのは、あくまで病院側の自助努力を前提にしつつ、当面の資金繰りを支える緊急措置という位置付けだ。
では、なぜここまで経営は悪化したのか。公立病院を取り巻く「三重苦」がある。
第一に、物価高と光熱費の上昇である。病院は24時間稼働するインフラであり、電気・ガス料金の影響は大きい。医療材料の多くは輸入に依存しており、円安の影響も重なる。
第二に、人件費の増大だ。2024年から本格化した医師の働き方改革により、労働時間の上限規制が強化された。交代要員の確保や時間外労働の適正化、慢性的な看護師不足への対応などでコストは上昇している。
第三に、収益構造の硬直性である。診療報酬は国が決定するため、コスト増を価格転嫁することはできない。民間企業のように自由な値上げは不可能で、赤字が蓄積しやすい構造だ。
特に注目すべきは、但馬地域の中核を担う公立豊岡病院(528床)と公立八鹿病院(380床)が同時に経営難に陥っている点である。人口減少が進む地域で、近接する大規模病院が類似機能を維持し続けることは、患者数の奪い合いを招きかねない。結果として両院とも収支が悪化し、自治体が穴埋めする構図が続く。
1月に発足した構造改革委員会では、単なる経費削減にとどまらず、診療科の集約や機能分化、統合・分院化といった再編策に踏み込めるかが焦点となる。地域医療を守るためには、政治的に困難な判断も避けて通れない。
一方で、自治体財政への影響も小さくない。豊岡市の一般会計予算は約517.5億円。そのうち19億円超を病院支援に充てる負担は重い。高校生までの医療費無償化や保育料軽減といった住民サービスと並走できるのか。支援が長期化すれば、市債の増発や他事業の先送りといった選択を迫られる可能性もある。
地域医療は住民にとって生活基盤そのものだ。しかし、財政の持続可能性を欠いたままでは、病院も自治体も共倒れしかねない。
来年3月に示される構造改革案の内容が、但馬医療圏の将来を左右する。豊岡、朝来、養父、香美の4市町が、行政区分を超えて一つの医療圏として再編に合意できるのか。今後の議論は、単なる病院経営問題を超え、地方自治の在り方そのものを問う局面に入っている。





