アイコン 世界で人員削減相次ぐ AI投資の裏で進む「黒字リストラ」


世界の大手企業で人員削減の発表が相次いでいる。自動車やIT、決済、医療機器など業種は幅広い。業績悪化を受けた従来型のリストラだけでなく、人工知能(AI)やデータセンターなど成長分野への投資原資を確保するため、既存事業や管理部門を縮小する動きが鮮明になってきた。

独BMWは7月29日、2027年末までにドイツ国内で数千人を削減する方針を明らかにした。希望退職制度を利用し、主に管理・開発部門を対象とする。生産現場は原則として対象外とするが、関係者によると、世界全体の従業員は約8000人減る可能性がある。中国市場での販売低迷や中国EVメーカーとの競争激化、米国の関税措置などが収益を圧迫している。

欧州の自動車業界では、フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツなども大規模な人員削減を進めている。電気自動車への移行に伴う開発費が膨らむ一方、中国勢との価格競争が激しくなり、従来の高収益モデルを維持しにくくなっている。安定企業とみられてきたBMWにも構造改革が及んだことで、欧州自動車産業の調整が長期化する可能性が強まった。

 

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米決済大手Visaは28日、全従業員の約7%に当たる約2600人を削減すると発表した。対象は主に技術・商品開発部門で、業務効率を高め、成長性の高い分野へ資金や人員を振り向ける。AIの活用によって反復作業の削減や商品開発の迅速化が進んでいるが、会社側はAIだけが削減理由ではないとしている。

Visaは世界200カ国・地域以上で決済網を展開し、景気変動にも比較的強い事業基盤を持つ。経営危機に伴う人員整理ではなく、収益力を維持しながら組織を小型化する「予防型リストラ」の性格が強い。企業が業績悪化を待たず、将来の競争環境を見越して人員構成を変える動きが広がっている。

米Microsoftも7月、世界の従業員の約2.1%に当たる約4800人を削減すると発表した。このうち約3200人がゲーム事業に関連し、Xbox部門の大幅な再編や一部ゲームスタジオの分離・売却を進める。AI関連の設備投資を拡大する一方、採算性の低い既存事業への投資を選別する姿勢を強めている。

情報サービス大手Thomson Reutersも、技術部門を中心に最大500人を削減する見通しだ。同社は今後2年間でAIに精通した技術者など250人以上を新たに採用する方針も示している。単純に技術者を減らすのではなく、従来型の開発人材からAI関連の高度人材へ入れ替える「人材の再構成」が目的とみられる。

米Oracleでは2026年5月末までの1年間に、従業員数が約16万2000人から約14万1000人へ減少した。減少幅は約2万1000人、率にして約13%に達する。同社はAI向けクラウドやデータセンターへの巨額投資を進めており、事業拡大と人員削減が同時に進む状況となっている。

医療機器大手Boston Scientificも7月27日、全社的な構造改革計画を承認した。人員削減を伴う見通しだが、対象人数は公表していない。同社は主力の心臓医療機器の販売鈍化や競争激化を受け、2026年通期の利益見通しを引き下げており、コスト削減と成長分野への投資を並行して進める。

米国の再就職支援会社チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスによると、米企業が2026年上半期に発表した人員削減計画は44万3604人に上った。IT企業だけで13万9156人となり、前年同期比83%増えた。AIを理由に挙げた削減は10万1743人に達し、全体の約23%を占めた。AIは4カ月連続で人員削減理由の首位となった。

ただし、すべての削減を「AIによる雇用喪失」とみなすのは適切ではない。自動車業界では中国市場の不振やEV転換、医療機器業界では主力製品の需要鈍化など、業種固有の事情も大きい。一方でAIが業務効率化の手段となり、少ない人員で従来と同等以上の業務を処理できるとの判断が、人員削減を後押ししていることは否定できない。

日本でも同様の動きが進む。東京商工リサーチによると、2025年度に早期・希望退職を募集した上場企業は46社で、対象人数は2万781人だった。前年度の8326人から約2.5倍に増え、募集企業の約7割が直近決算で黒字だった。パナソニックホールディングスや三菱電機、三菱ケミカルグループなど、大手企業による大型募集が人数を押し上げた。

日産自動車も6月、国内の一部事務系社員を対象に早期退職を募集する方針が報じられた。対象人数は明らかにされていないが、追浜工場や栃木工場など5拠点の管理部門が対象となり、生産ラインの従業員は含まれない見通しである。

人手不足が深刻な日本で大企業の人員削減が増えていることは、一見すると矛盾する。だが不足しているのは建設、物流、介護、外食などの現場人材であり、削減対象となりやすい管理、企画、事務部門とは職種が異なる。雇用全体が余っているのではなく、必要とされる技能や勤務地との間にずれが生じている。

今後は「会社が赤字だから人を減らす」のではなく、「会社が黒字のうちに必要な人材を入れ替える」構造改革が一般化するとみられる。AI投資の拡大は新たな雇用を生む一方、既存の管理職や事務職、従来型の技術職を減らす圧力にもなる。企業の成長と雇用の拡大が必ずしも一致しない時代に入り、働く側にも職種転換や技能の更新がこれまで以上に求められることになりそうだ。

 

[ 2026年7月30日 ]
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