アイコン 第6話:約束の電話


大石県知事 プリント

夜10時45分。
時計の秒針が、一定のリズムで血管を叩くように進む。
部屋には書類が積まれているが、読むためではない。
存在させておくための重しだ。
携帯が震える。
画面は無機質。
非通知。
だが相手は、番号でなく空気が知らせる。
県護は出る。
言葉ではなく、沈黙で応答する。
『——動く』

 

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その声には名乗りも、前置きもない。
必要ない。
すでに互いは、名より利害で繋がっている。
「どちらへ」
短く。
余計を削る。
『そちらだ。ただし、条件がある』
条件——
政治における唯一の通貨である。
「聞こう」
『表向きは最後まで中立で通す。
しかし票は……指示に従う』
表と裏。
公と私。
正義と現実。
そのどれも、立場次第で名称が変わるだけ。
「求める見返りは」
『次期予算。
一つの枠を、静かに確保してほしい』

大石県知事 プリント

予算は血液だ。
それを流す力が、命を決める。
「確約はしない」
『分かっている。
だが“期待できる空気”を用意してくれればいい』
空気。
情勢。
温度。
すべて数字で管理できないが、数字を動かす根拠にはなる。
「——やろう」
決裁は印鑑より早い。
声が押印になる。
『こちらも動く。
ただし——』
「何だ」
『一度裏切れば、二度はない。
それは互いに理解しているはずだ』
脅しではない。
確認だ。
裏切りは例外ではなく、手法。
だが、回数には限度がある。
「当然だ」
通話が切れる。
数秒後、また震え。
別の番号。
別の利害。
繋ぐ。
『噂、明日9時。
流します』
「内容は」
『“主要議員が再考中。大石の一本化決定に疑義”』
揺らすための言葉。
真実は不要。
信じる者が現れれば、それで事実になる。
「反発は」
『静かに処理する。
反論が力を持つ前に、孤立させる』
県護は窓を見る。
ガラスに映るのは、街の光ではなく、選択の輪郭だけ。
「手筈通りに」
『……以上』
短い通話。
短い決断。
短い余韻。
長い影。
携帯を置き、
県護は書類に触れる。
紙は冷たい。
が、冷たいのは紙ではない。
判断だ。
机上のランプを消す。
明かりは要らない。
光は人を惑わす。
政治は闇を嫌わない。
約束とは、信頼ではない。
優先順位の宣言である。
廊下の音が静かに遠退く。
県護は動かない。
勝つ者は、急がず、怯えず、揺れない。
揺らすのは、他人だ。
11月30日16時30分、ホテルニュー長崎で待つ。

大石県知事 プリント

JC-net・日刊セイケイ編集長・中山洋次

[ 2025年11月14日 ]
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