アイコン 第9話:雨と戻り橋


 

長崎。
夜。
雨。
冷たい雨
だが、降りてくるひとつひとつが
決断に触れて消えていくような寒さ。

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大石県知事

戻り橋の上、
車は少ない。
街灯は控えめに光り、
音を吸い取るように雨が降る。
啓介は歩いていた。
走らない。
動けば見えるものがある。
歩けば、聞こえるものがある。

大石県知事

ポケットの中の携帯が震える。
見ない。
急ぎが勝つとき、負ける。
焦りは、負債だ。
橋の中央で立ち止まる。
川は黒く、静か。
そこに映る光は揺れない。
揺れは人の心にだけ宿る。

大石県知事 プリント

背後、足音。
二歩だけ。
止まる。
「……決まるのか」
声は若い。
だが、若さは武器ではない。
残される時間が少ない者のほうが、時に強い。
啓介は答えない。
雨が袖を濡らす。
「向こう、焦りはないように見せている」
「見せ方は技術だ」
啓介の返答は短い。
感情ではなく、手順。

大石県知事 プリント

「勝てるのか?」
「勝ち負けは投票で決まらない」
「……何で決まる」
啓介は橋の欄干に指を置く。
冷たい。
だがまだ凍ってはいない。
「誰が、結果を“当然”だと思うかだ」
若い議員は息を飲む。
雨が肩を濡らす。
気配を乱さないため。
「揺れている人間はまだいる」
「揺れるのは自由だ」
啓介は空を見る。
雨の降り方は均一だ。
「ただ、揺れたことを悟られた者から沈む」
若い議員の呼吸が浅くなる。
不安でも恐怖でもない。
計算が追いつかない感覚。
「……俺は?」
「まだ、選べる立場だ」
「まだ?」
「明日には選べない」
静かに、時間が区切られる。
夜が一瞬だけ重くなる。
「風は——」
「風は吹かない」
啓介は遮る。
「風は“吹いたことにする”んだ」
若い議員の目がわずかに見開く。
理解ではない。
吸収だ。
携帯が再び震える。
啓介は見る。
画面に文字。
確定。朝8時、発信。
短い。
だが、充分。
啓介は歩き始める。
橋を渡る。
崩れない足取り。
迷わない者の歩き方。
若い議員はその背を見送る。
声は出ない。
出す必要がない。
雨は止まない。
街は静かだ。
未来はまだ選択肢を装っている。
勝敗は告げられるものではない。
 受け入れられる瞬間に、完成する。

JC-net・日刊セイケイ編集長・中山洋次

 

[ 2025年11月19日 ]
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