アイコン 「二兎を追う者、一兎も得ず」――下地幹郎氏よ、今は知事選より「つむぎ」ではないのか


下地幹郎

久米島オーシャンジェットの高速船「つむぎ」が、また止まった。
5月1日に華々しく就航したものの、翌2日には久米島の港で浅瀬に接触する事故が発生。
その後、いったん運航を再開したが、今度はボルトの不具合が見つかり、再び長期運休。
約1カ月半にわたる運休を経て、ようやく7月1日に運航を再開したと思ったら、7月15日にはエンジン制御装置の不具合で、また欠航である。
私は、この「つむぎ」の問題を見るたびに思う。
下地幹郎さん、今は知事選出馬とか、政治どころではないでしょう。
私は下地氏とは個人的にも付き合いがあった。
話だけ聞いてれば、楽しい人だ。

 

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船 つむぎ

菅元総理が下地氏のことを『ラテン系詐欺師と評していたそうだ』
まさにラテン系の詐欺師である。
私は、そんな下地幹郎という人間を嫌いではない。
むしろ、その能力や発想力を知っているからこそ、いつも思うのだ。
本当にもったいない人だ、と。
なぜなら、この人は人生の大事な分岐点に来ると、なぜか選択を間違えるように私には見えるからだ。
素晴らしい政策を打ち出す。
大きな夢を語る。
しかし、それを実現するために最も大切な「立場」と「信用」を、自分自身の政治判断によって失ってしまう。
これまでのさまざまな選挙を振り返っても、古巣に弓を引くような政治行動を重ねてきた。
その結果、自民党関係者との距離はどんどん広がった。
私の見るところでは、今や一部の自民党関係者からは、オール沖縄の候補以上に警戒され、嫌われているのではないかと思えるほどだ。
では、オール沖縄に接近すれば道が開けるのか。
玉城デニー知事側に近づけば、政治的な居場所が与えられるのか。
私は、そう簡単な話ではないと思う。
一度敵対した側からは警戒される。
新しく近づいた側からも、全面的には信用されない。
結局、どちらからも距離を置かれる。
これでは、いくら良い政策を持っていても、それを実現する政治的なポジションには立てない。
だからこそ、今、下地氏には政治よりも先にやるべきことがある。
久米島オーシャンジェットを軌道に乗せることである。
下地氏は2026年6月の株主総会で、久米島オーシャンジェットの代表権を持つ会長兼社長として留任したと報じられている。
今こそ「政治ではなく事業に専念する」という姿を、行動で示すべきではないか。
「つむぎ」は単なる観光船ではない。
離島と沖縄本島を結ぶ交通インフラである。
そこには乗客の安全がある。
久米島の人たちの生活がある。
観光業者の期待がある。
そして何より、この事業を信じて資金を提供した県内企業や投資家がいる。
その人たちは、何を信じて資金を出したのか。
下地幹郎という経営者を信じたのではないのか。
久米島の未来を変えるという夢を信じたのではないのか。
だとすれば、今やるべきことは明確である。
安全運航を徹底する。
トラブルの原因を徹底的に検証する。
再発防止策を講じる。
安定したダイヤを確立する。
乗客の信頼を取り戻す。
そして、きちんと収益を上げられる会社にする。
まず、それをやり遂げることである。
それが、この事業に資金を提供してくれた企業や投資家に対する、経営者としての礼節ではないだろうか。
船が止まるたびに、「次は大丈夫です」「今度こそ安定運航します」
と言っている横で、もし知事選だ、政治だ、県政だという話が聞こえてくれば、投資家はどう思うだろう。
社員はどう思うだろう。
そして久米島の人たちはどう思うだろう。
「下地幹郎社長、あなたはいったい、どこを向いて仕事をしているのですか」
そう問われても仕方がない。
政治家として再起したい気持ちは分かる。
沖縄県政について言いたいことも山ほどあるだろう。
自分なら沖縄を変えられるという自負もあるのだろう。
しかし、政治とはタイミングである。
そして経営とは責任である。
夢を語るだけなら、誰にでもできる。
しかし、一度引き受けた事業を軌道に乗せる。
預かった資金に責任を持つ。
社員の生活を守る。
そして何より、乗客の命と安全を守る。
それをやり遂げてこそ、経営者である。
私は思う。
もし下地氏が将来、本当にもう一度政治の世界を目指すのであれば、今こそ久米島オーシャンジェットを成功させるべきだ。
「政治家・下地幹郎」ではなく、まず、「経営者・下地幹郎」として結果を出す。
久米島オーシャンジェットを安全で安定した交通インフラとして定着させる。
事業を黒字化する。
県内企業や投資家に、「あの人を信じて良かった」と言わせる。
久米島の人たちから、「つむぎができて本当に便利になった」
と言われる。
そこまでやって初めて、「もう一度、沖縄のために政治をやりたい」と言えばいい。
その時は、今とは全く違う評価になるはずだ。
しかし、事業がまだ十分に軌道に乗らず、船のトラブルや欠航が続いている中で政治に目を向けているように映れば、失うものは政治的信用だけではない。
今度は、経済人としての信用まで失う。
私は、それが残念である。
政治家として居場所を失い、経済人としての信用まで失ったら、いったい何が残るのか。
下地幹郎氏は、夢のない人ではない。
むしろ、夢が多すぎる人なのだ。
だからこそ、あれもやりたい。
これもやりたい。
船もやりたい。
政治もやりたい。
沖縄も変えたい。
国政にも県政にも口を出したい。
その気持ちは分かる。
だが、人生には一つのことに集中しなければならない時がある。
今が、その時ではないのか。
二兎を追う者は、一兎をも得ず。
この古い諺を、私は今、下地幹郎氏本人と、彼を再び政治の世界へ押し出そうとしている支援者の皆さんにこそ、噛み締めてもらいたい。
知事選は逃げても、乗客の安全は待ってくれない。
政治は明日でもできる。
だが、船の安全運航は今日やらなければならない。
トム・ソーヤのように夢を追うのはいい。
冒険するのもいい。
だが、多くの企業から資金を集め、社員を抱え、そして乗客の命を預かる会社のトップになった以上、いつまでも冒険少年のままではいられない。
下地幹郎氏に、今必要なのは選挙の「風」を読むことではない。
「つむぎ」を安全に走らせることだ。
まず一隻の船を、きちんと走らせる。
話は、それからではないだろうか。

JC-net・日刊セイケイ編集長・中山洋次

[ 2026年7月17日 ]
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