「人がいなくて倒産」が過去最多へ 社員退職で83件、建設・介護・運送を直撃
「仕事がない」のではなく、「仕事をする人がいない」ことで会社が立ち行かなくなる――。人手不足が長期化するなか、従業員の退職をきっかけに経営破綻へ追い込まれる企業が増えている。
帝国データバンクが公表した調査によると、2026年1~7月に判明した「従業員退職型」の倒産は83件となり、前年同期の74件から12.2%増加した。1~7月としては2022年以降5年連続の増加となっており、年間でも過去最多を更新する可能性が高まっている。
「従業員退職型」とは、従業員や経営幹部の退職が直接または間接的な要因となり、事業継続が困難になった倒産を指す。単に倒産前に社員が辞めていた企業を数えたものではなく、人材流出が経営悪化に大きく影響したケースが対象となる。
業種別では、サービス業が22件で最多となり、全体の26.5%を占めた。老人福祉施設や美容室などで目立つほか、建設業も20件に達し、1~7月として初めて20件台に乗った。
運輸・通信業も12件となり、前年同期の8件から大きく増加した。建設業では職人や施工管理者、営業担当者、運送業ではドライバーなど、現場を支える人材が退職すると、代替要員をすぐに確保することが難しい。少人数で運営する中小・零細企業ほど、一人の退職が経営に与える影響は大きい。
背景にあるのが、人材獲得をめぐる企業間の賃金格差だ。
2026年春闘では高水準の賃上げが続き、従業員300人未満の中小企業でも賃上げの動きが広がった。一方、原材料価格や燃料費、外注費などの上昇を販売価格へ十分転嫁できない企業では、賃上げ原資そのものを確保できないケースも少なくない。
待遇改善が進む企業がある一方で、賃上げできない企業からは、より条件の良い企業へ人材が流れる。特に経験や資格を持つ従業員ほど転職市場での需要が高く、経営体力の弱い企業から中核人材が抜ける構図が生まれている。
実際、2026年5月に破産した貨物運送業者では、受注環境の悪化や燃料費高騰によって収益性が低下し、ドライバーの賃上げを十分進められないなかで退職が相次いだ。
内装工事会社でも、中核メンバーの独立や退職が続いたことで人手不足が深刻化。受注をこなす体制を維持できなくなり、業績悪化を経て事業継続を断念したケースが確認されている。
問題は、こうした「退職倒産」が一部企業だけの特殊事情ではなくなりつつあることだ。
帝国データバンクの2026年4月調査では、正社員が不足していると回答した企業は50.6%と半数を超えた。建設業や運輸・倉庫では6割を超える企業が正社員不足を訴えており、人材確保は企業経営の最大級の課題となっている。
これまで人手不足といえば、「求人を出しても人が来ない」という採用難が中心だった。しかし現在は、すでに働いている社員をいかに引き留めるかという「定着難」も企業の存続を左右し始めた。
価格転嫁が進まなければ利益が残らず、利益がなければ賃上げができない。賃上げできなければ人材が流出し、人が減れば受注や生産を維持できなくなる。売り上げがさらに減少すれば、経営は一段と悪化する。
かつて企業倒産は「仕事がなくなる」「資金が尽きる」といった理由が中心だった。しかし、人手不足が常態化した現在は、仕事や受注が残っていても、それをこなす人材を確保できず事業を続けられない企業が現れている。
建設、介護・福祉、運送など地域経済や生活インフラを支える産業ほど、人への依存度は高い。「人がいなくて倒産する」という企業淘汰は、今後さらに身近な問題となる可能性がある。
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